3.初イベント!新規スターター用ボーナスダンジョン・前編

文字数 8,917文字

洞窟は岩山の中に掘られたトンネルって感じだ。内部は明るかった。天井に球体の白色電球が6割方埋まってる、みたいな照明がたくさん並んでて周りを照らしてる。足元は少しデコボコはあるもののほぼ真っ平らで、よほどヨボヨボの年寄りじゃないと(つまず)かないだろうというくらい歩き易い。

「空調が効いてんのかね、ジメジメした感じが全くないな。温度も湿度もちょうどいい」

左隣りを歩くイスタルシアに話しかけてみる。

「そうですね、快適そのものね。これなら丸1日でも頑張れそうだわ。ウーフ、何か臭ったりする?」

女神が前方に声をかけた。
今は隊形を整えて進んでいる。前に4人、メルアッタ、荷物が入った大きなリュックを背負っているガンロウ、ベヌー。背中に矢筒を掛けたウーフェルファは、ガンロウによじ登って肩車の体制で楽をしている。この娘はイザとなったら走り回ってもらう可能性があるんで、文句を言うヤツはいない。で後ろにアリューダ、おれ、イスタルシアが並んで歩いてる形だ。肩車のウーフが振り返る。

「うーん、別になんにも臭わないヨー。てかモンスターがいないナ、つまんないヨー!」

「おっ、前方に少し広くなってる所があるみたいだぞ。なんかが動いてるっぽくね?」

ベヌーの大きな声。メルアッタも確かに何かいると言い、腰の刀を抜いた。入り口からは6〜70メートル歩いてきている。
しかしだ、身長2メートル超え、横幅もたっぷりあるガンロウが視界を(さえぎ)ってて、おれ達後列組には前方の様子が全く見えない。これは少し隊形を変えた方がいいかもな。

「向こうの空き地にまん丸いヤツがいるナー、モンスターだヨー。ポヨンポヨン()ねてるヨー、どうするマスター、突撃!?」

「慌てないでウーフ、突撃はダメです。初心者用とはいえ、ここは一応ダンジョンなんですから。接近したら、まずわたしがスキルで敵のステータスを確認します。それを見てから作戦を立てて戦闘に入りましょう、皆わかりましたね?」

イスタルシアはギガス戦で()りたのか慎重だ。
30メートルほど進むと広いドーム状の空間に出た。少し先にバレーボールほどの大きさの青い球体が2つ跳ねている。球体表面の黒い丸……あれは目だろうな、がこっちを向いている。攻撃してくる様子はない。

「全員、メニューパネルを出して。スモールサイズで、視界の邪魔にならない所にね。マーク」

前へ出てガンロウの隣りに並んだ女神が指示する。マークって言ったな、例の銃の照準みたいなマーカーを出したようだ。

追尾(チェイス)モンスター……分析(アナリシス)

イスタルシアがスキルを使った。おれの方を振り返り、説明してくれる。

追尾(チェイス)モンスターと言うと、マーカーが自動追尾してモンスターに重なり、対象をマーキングします。敵が小さくてあのように動いていると、視線で追いかけてマーカーを重ねるのは大変ですから」

分析(アナリシス)というのはモンスターのステータスを見るスキルだそうだ。イスタルシアのはまだLv.1だが、レベルが上がるとよりステータスを詳しく見ることができ。更にステータスを見られないようマスキングされてる場合に、そのマスクを無効化できるようになるらしい。女神が情報共有モードにしたため、パテメン全員のパネルにモンスターのステータスが表示された。

【水属性】ブルーポヨン Lv.2 タイプ : 無機物
HP : 10 MP : 2
物理攻撃力 : 2
魔法攻撃力 : 1
物理防御力 : 5
魔法防御力 : 3
器用さ : 6
素早さ : 8
運 : 2

パネルにデータが表示された途端、ベヌーが叫んで走り出した。

「メッチャ弱え! 楽勝じゃん、アタイらに任せろっ。行くぞメル、お前は右のを()れっ」

「わかったっ、えーと右ってどっち!?」

「お(はし)持つ方だよっ」

アタッカー2人が女神の指示も待たずに敵に突進する。ベヌーの独断先行なんだが、女神は止める様子がない。

「おい、いいのか勝手に行かせて」

尋ねると女神は微笑んだ。

「ベヌーの言う通り、作戦なんて必要ないほど弱いですからね。任せて大丈夫でしょう。敵は水属性ですから、わたしとあなたのファイアボールは効きませんし」


そう言ってるうちに2人は青ポヨンに初撃を叩き込んだ。メルアッタがいかにも剣の達人ぽい気合いの入った掛け声とともに刀を垂直に振り下ろす。ポヨンは正に一刀両断、まっ二つにされ光の粒子となって消失した。
ベヌーも雄叫(おたけ)びを上げて左側の敵をブン殴った、のだが……その瞬間ポヨンはゴムボールのように跳ねて、はるか後方に吹っ飛んでいった。

「あ、あれ? 消えねえ……テメェ待ちやがれっ、ナメんなよコラァ!」

ベヌーは叫んで青ポヨンに走り寄ると、もう一発思い切りブン殴る。敵はまた大きく吹き飛び、勢いよく壁に当たってバウンドすると別方向に転がっていった。

「おいイスタルシア、アレ打撃耐性でもあるんじゃねえか? ベヌーのパンチが効いてねえ。メルアッタに斬らせた方がいいと思うぞ」

おれの言葉に珍しく素直に(うなず)いた女神が、大声で指示を飛ばす。

「ポヨンはメルアッタが(たお)しなさい。ベヌーはウーフと、左奥にいる小ブタの方を!」

ドーム状空間の左手奥には、ポヨンとは別に、小さなピンク色のブタがボンヤリと立っている。ベヌーは怒りの形相(ぎょうそう)であっという間にブタに走り寄ると、全く無抵抗のソイツをタコ殴りにし瞬殺した。メルもベヌーの攻撃を耐えたポヨンを、一刀で斬り(たお)している。ウーフがベヌーに、1人でヤッちゃってズルいと文句を言う。
小ブタが消失した場所には、ピンクの宝石っぽいモノが空中に浮かんでいる。

「ドロップアイテムが残りましたね。じゃ龍彦、あれを回収してみてください。そこに立ったままマーカーを出して、追尾(チェイス)クリスタルと言ってみて」

「わかった。マーク、追尾(チェイス)クリスタル」

女神の指示通りにすると、視界の中に現れた銃の照準のようなマークが、スッと横移動して自動で宝石に重なった。同時に視界中央に『アイテムを回収しますか? 【はい】【いいえ】』と書かれた小さなパネルが出る。

「なるほどな。これも前に言ってたマーカーの色んな使い方のうちのひとつか。はいを選んで回収でいいんだよな?」

「そうですね。回収ができたらメニューパネルの方に情報が出ますので確認してください」

視界内にポップアップしたアイテム回収確認パネルの【はい】を選ぶと、10メートルほど離れた空中に浮かんでいたクリスタルが消え『アイテム回収完了』の文字が出る。ブルーポヨンのステータスが表示されたままになってるメニューパネルに視線を移すと、左上スミに新着メッセージ『回収したアイテムを確認しますか?【はい】【いいえ】』が表示されていた。

「イスタルシア、回収アイテム確認、はいでいいの?」

「そうですね、見てみましょう。いきなり装備が獲れるといいんだけどなあ」

女神が可愛く笑った。いい装備来いっ、と心の中で念じて『はい』をタップ!

〔装備作成アイテム〕桃ブタの皮【ノーマル+】

……………うーむ、これは。
いつの間にかおれの横まで戻ってきているメルアッタが低い声で(うな)る。

「何やってんの龍彦。なにコレ、桃ブタの皮って」

正面からノシノシ歩いてくるベヌーも不機嫌な声を上げる。

「なんだこのカスみてえなアイテムは。レア度がノーマルって! 一番低いヤツじゃね? 龍彦テメェ、マジメにやれよ。アタイらがいったい何しにココに来てると思ってんだ!?」

「龍彦は引きが弱いナー。ダメダメじゃん」

ウーフにまで文句を言われる。オイオイちょっと待てお前ら。たった1回カス引いただけだよ? それで集中砲火かよ。これはヤバいんじゃないの、大事な信頼度が下がっちゃうんじゃないの? てか信頼度が低いからコイツらに文句言われるってわけか。こりゃ、いいアイテム引いてみせないと悪循環になっちまいそうだな。いきなりいいアイテムが出るなんてことはありません、文句言わないのと女神が一(かつ)し、おれ達は前進することにした。
広いドーム状の空間にはもうモンスターはいない。見ると前方には2つの穴があった。いきなり道の分岐だ。

「どうするイスタルシア、道が2本だ。効率を考えて二手に分かれるか?」

「そうですね、ここまで敵が弱いならその方がいいでしょう」

イスタルシアの指示で、おれ、メルアッタ、ウーフ、アリューダが右の道へ。イスタルシア、ベヌー、ガンロウが左へ行くことになった。出現頻度が高そうなポヨンに打撃耐性があるかもしれないので、斬撃持ちのガンロウとメルアッタを分け、かつベヌーとメルアッタのメイン火力2人を別班にしている。ベヌーとガンロウの組み合わせには不安があるが、結局この分け方がバランスがいいということになった。
おれの班にはスキル『分析(アナリシス)』が無いので、敵と交戦していいか判断できないなど不測の事態が生じたら、パーティーメールで連絡するということにした。更に道が分岐を続ける、などの場合もメールで連絡を取り合う。とにかく一番ヤバいのは、2班が合流困難な状態で片方が強敵にブチ当たることだ。

「じゃあイスタルシア、合流は地下2階に下りる通路の前ってことで。そっちはヒーラー無しなんだ、充分注意してくれな」

「こちらにはタンクのガンロウがいますから、何かあっても持ち(こた)えることができると思います。とにかくお互いの位置を把握しながら慎重にいきましょう」

全員、メニューパネルの表示内容をマップに切り替えている。マップは、既に歩いてきた所は道が表示されているが、まだ足を踏み入れてない先のエリアは真っ白な未表示状態だ。パテメンは青い丸として表示されてて、互いに位置確認ができる。
仲良しのメルアッタとベヌーが互いに、ウーフがなんだかんだでお気に入りらしいガンロウに手を振り、2班は別々の道を進み始めた。

◾️ ◾️ ◾️

おれの班は右の分岐道に入ってすぐ、緑色のポヨンとさっきも見た桃ブタに遭遇した。ポヨンはガンロウが斧をひと振りで撃破、小ブタはウーフが確率でアイテムを盗むスティールショット連射で仕留める。ウーフのスキルショット2発目が当たった時、ブタの体が変な光り方をしたんだが、残ったクリスタルを回収してみたらなんとレア装備が出た。

〔副装具〕メタルバックラー【レア】 物理防御力+12

「やったアァーーッ、ウーフがやったヨーー!」

「よしよし、よくやったっ、初レア装備だ! さすがウーフ、おれと違って引きがいいなっ」

犬っ娘が鼻を鳴らしながら飛びついてきたんで、キスをしてやる。横にいたアリューダに凄い目で(にら)まれたけどね。獲れた小さな丸い盾は上腕に装着する副装具のようなんで、前衛のメルアッタの左腕に着けさせた。

「どうだメル、剣を振るのに邪魔にならないか?」

「思ったより全然軽いから大丈夫。すぐ慣れると思う」

メルアッタは初めてのレア装備が自分に回ってきたんで嬉しそうだ。前衛にとって防御力が12もある防具は心強いだろう。
さっそくイスタルシア班に戦果報告すると。なんと向こうも、ベヌーが(たお)した歩く花モンスターからレアの脚防具が落ちたという。そっちはとりあえずタンクのガンロウが着用したそうだ。ベヌーがブーブー文句言ってる様子が目に浮かぶね。
続いて40メートルほど進んだ所で今度は赤いポヨンを発見。これもガンロウが一撃で(たお)す。ドロップは無し。ウーフのスティールショットは本当なら多用したいところなんだが。撃ちまくってるとMPが尽きてしまうんで、いいモノ落としそうなヤツが出てくるまで温存だ。
そのすぐ先で道がまた左右に分岐していた。イスタルシア班と離れ過ぎないように左へ行くことにする。でふと思い立って、ウーフに右の道の様子を見て来いと指示した。戦闘は回避し、ヤバそうなヤツがいた時、あるいはまた道の分岐に当たった時は必ず戻って来いと念を押す。

「んじゃ、ひとっ走り行ってくるからナー。ちゃんとそこで待ってろ、ウーフを置いて行くなヨー」

犬っ娘はそう言って右側の道に駆け込んで行く。背を向けた時に一瞬見えた彼女の尻尾は、毛が逆立って大きく膨らんでいた。その時、まるで心臓を鷲掴(わしづか)みにされたように胸が苦しくなる。
ウーフは加速しながらカーブを曲がっていき、すぐに姿が見えなくなった。おれの心臓は800メートル全力ダッシュのあとのように激しく脈打っていて、息が苦しい。あっという間に背中一面に冷や汗をかいている。
間違えた、とんでもない判断ミスをした。
このゲーム、超初心者用エリアにバルハウンドギガスのような強ボスが配置されてるんだ、どこにどんな怪物がいるのかわかったもんじゃない。なのにおれはダンジョンの未踏破エリアに、スピードだけで攻撃力はまるで無い、経験不足のBUを単独で突っ込ませちまった。どうする、今からでも追いかけるか。
マップに目をやる。ウーフを示す青い点は、ものスゴいスピードで上方に移動している。マップの白かった部分にみるみるうちに道が表示されていく。ダメだ、おれの速度とスタミナで追いつけるはずがない。やっぱり戻ってこいとメールを送るか? いや、送っても全力疾走中のウーフは見ないだろう。どうする!? 早く判断しろ!
地図を(にら)みながら頭をフル回転させていると、ウーフのシグナルがピタリと止まった。
心臓がドクンと大きく跳ね上がる。どうしたウーフ、ヤバいモノに当たったか!?
だがそうではなかった。ウーフの現在位置の先には道がない、行き止まりだったんだ。おれは大きく息を吐いた。本当に、心底ホッとしている。良かった、健気(けなげ)な犬っ娘が大きなトラブルにブチ当たることがなくて。よしウーフ、戻って来い、早く!!
しかし祈るような気持ちでマップを見つめるおれの思いとは裏腹に、ウーフの青いシグナルはなかなか行き止まりの場所から動かない。
隣りに立つアリューダが、マップを(ぎょう)視したまま不安げに(つぶや)く。

「どうしたんでしょうウーフ、動かなくなっちゃいましたね。何かあったのかしら」

「モンスターとの遭遇じゃないはずだ。敵に攻撃を受けないように相手の周囲を走り回りながら矢を連射する、それがウーフの戦闘スタイルだ。戦ってるならシグナルが全く動かないわけがない」

これは気休めで言ってるんじゃない、事実だ。ならいったい、行き止まりで動かずジッとして、何をやってるんだ? まさか行動不能になるようなトラップに掛かったんじゃないだろうなと、不安になる。

「心配だよ、わたしが様子を見に行ってこようか?」

メルアッタがそう言った時、ポーンと電子音がして、マップが表示されているメニューパネルの左上スミに新着メッセージが表示された。

『パーティーメンバーがアイテムを獲得しました【アイテム確認中】』

「なにいっ、アイテム獲得だと!? アイツなんか(たお)したのかっ」

驚いて思わず大声を出しちまった。いったい何をやってんだウーフは!? しかし次の瞬間、パネル中央に表示されたアイテムのデータを見て更に驚愕してしまう。

〔消費アイテム〕BLライズ+2ジュエル【ウルトラレア】

「ウルトラレアだってええぇぇっっ!!!??」

おれとアリューダとメル、3人が同時に叫んだ。なんだコレは。ウーフのヤツ、いったい何をどうしやがったんだ!? 5秒ほどで画面中央に表示されていたそのメッセージウインドウが消えると、マップ上のウーフの青シグナルは高速で下方向へ移動していた。つまりこっちへ戻ってきてる。
またポーンと音がし、メニューパネル上にイスタルシアからのメール着信が通知される。開いてみると一行『いったい何があったんですか』とだけ書いてあった。おれにも不明だ、わかったらすぐ知らせると返信する。

「やったやったやったああぁぁっっ、ウーフがヤッテやったヨオオオーーーッッ」

通路の奥からウーフの叫び声が響いてくる。すぐにカーブを曲がって犬っ娘が姿を現した。気づいたらおれもウーフの方に向かって走り出していた。分岐点から右側の道に7〜8メートル駆け込んだ所で、飛びついてきたウーフェルファをガッシリと受け止め、強く抱きしめる。
イスタルシアはBUは少量しか汗をかかないと言った、なのに犬っ娘のシャツはまるで雨に降られたように冷たく重く湿っている。

「怖かったなウーフ、すまなかった、おれの判断ミスだ。もう離れないよ、許してくれ」

『ちゃんと待ってろ、ウーフを置いて行くなヨー』

分かれ道に1人で入って行く際にこの娘が発した言葉が、大きな不安と恐怖を訴えていたことにこの時気づいた。なんてバカなんだおれは。判断ミスしたイスタルシアに偉そうに説教する資格なんかカケラもねえ。

「ウーフはスゴいだローッ、褒めてヨ龍彦っ」

犬っ娘は力一杯しがみついてくる。抱きしめる腕に力を込めながら言った。

「ウーフェルファ、お前はスゴい、本当にスゴいよ。ものスゴく勇気がある、そしてものスゴい強運の持ち主だ。素晴らしい、本当に素晴らしいぞ。よくやったな」

「ウーフは頑張ったからナー、1人で勇気を出して道の奥まで行ったから少しお腹空いたヨー。おやつが食べたいナー」

「おお、いいぞいいぞ。出そうな、おやつ」

おれの肩には、ガンロウが背負うリュックから分けてきた少量の荷物を入れたバッグがかかっている。その中からウーフが大好きだというアップルパイを取り出して渡した。初めてのダンジョンで頑張ってるからと、アリューダとメルアッタにも手渡す。
パイをガツガツ食いながらウーフが説明してくれた。
走っていたら道が行き止まりになった。見るとそこに木の箱があったそうだ。つまり宝箱発見てわけだな。フタが固くて少し手間取ったが、なんとか開けると中からクリスタルが飛び出してきた。それがあのウルトラレアアイテムだったそうだ。
急いでそのことをイスタルシアにメールする。女神からの返信は早かった。

『主催者からの案内のメールには宝箱があるなんて書いてませんでしたね。まあ初心者のわたし達が知らないだけで、ダンジョンには必ず宝箱があると決まっているのかもしれませんが。とにかく分かれ道は無視できない、全部調べる必要があるとわかりましたね。それで最下層までたどり着けるかなあ……』

BU達がおやつを食べ終わったあと、汗で濡れたウーフのシャツを着替えさせ。分岐のもう一方、左側の道を進んで行った。グリーンポヨン2匹を(たお)して少し進むと、開けた空間に出る。そこには先着したイスタルシア班が待っていた。いったん分岐した道の合流点だ。奥の方には大きな穴が口を開けていて、上に『この先第2階層』と書かれた看板が浮いている。
既に女神班3人は地面に広げたレジャーシートの上に座り、水筒に入れてきた紅茶を飲んでいる。おれの班4人もシートに腰を下ろし、アリューダが紅茶を()いでくれた木のコップをそれぞれ受け取った。
メルアッタとベヌーはくっついて、そっちはどうだった? とニコやかに話してる。ウーフは胡座(あぐら)をかいているガンロウの脚の上でゆったりとくつろいでる。まるでソファーに座ってるようだ。おれの隣りには寄り添うようにアリューダがいる。

「よしっ、まずは第1階層クリアです。みんなお疲れ様! ウーフェルファ、よくやりました。あなたが見つけてきたBLライズ+2ジュエルというのは、プレイヤーのベースレベルを確定で2つ上昇させるアイテムのようです。つまり例えば既にLv.100に達していて、レベル上げがメチャクチャ大変になっている人でも、このアイテムを使うと一瞬でLv.102になるわけですね。貴重品中の貴重品、高レベルプレイヤーの欲しいアイテムランキングで5位以下になったことが無いというくらいの貴重品です」

イスタルシアは当然ながら上機嫌で、話す声も(はず)んでいる。頑張ったのはウーフだけではありませんねと全員を(ねぎら)い、少し表情を引き締めて続けた。

「しかし今日のスタート時間が遅かったのが悔やまれます。クリアしたミッションを確認したいんですが、それはホームに帰還してからにするとして。キツいでしょうが、ペースを上げつつ今日は進めるだけ進みたいと思います」

◾️ ◾️ ◾️

第2階層に下りると、いきなり遭遇した2匹の銀色ウサギのうち1匹が、レアの杖『ローズロッド』を落とした。アリューダにそれを持たせ、おれは彼女が今まで持っていたウッドワンドを受け取る。遂に100歳超えるまで絶対手にしないと誓った杖を持ってしまったわけだ。
更に50メートルほど進んだところで、いきなりそれは現れた。
デカ過ぎるガンロウに、視界が(ふさ)がれるからなるべく端の方を歩くようにと指示を出したイスタルシア。目ざとく最初にそれを見つけたのは、その女神だった。

「カーブの先、見えにくいけど何か光るモノがいました。もしやあれは……」

後列から走り出た女神は、こんなに足が速かったのかと皆が驚くほどのスピードで前方に爆走していく。一瞬呆気(あっけ)に取られていた全員の耳に、洞窟全体に響き渡る女神の絶叫が届いた。

「出たああああぁぁぁっっ、ゴールドポヨンンンッッッ!!! みんな早くっ、早く来なさいっっ。戦闘準備っ、絶対逃すなっっ、死んでもアレだけは討ち取れええぇぇっっっ!!!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み