机上の悩み

文字数 2,194文字

私は数学が苦手だ。小学校のはじめのころ算数は得意だった。が、中学受験の算数はダメだった。私は第一志望のこの雪ノ下中に受かるため、必死で勉強した。
中学受験の算数は数学に通じるところがあるが、数学は数学の考えで解いた方が上手く行く。らしい。これは杉田の受け売りだ。
私は自分の部屋の机で連立方程式と苦闘しながら、学年レクのことを考え始めた。
ルールははっきり言って複雑になっていた。が、要点がわかれば誰でも簡単に参加できるようにはなっている。
まず、クラス対抗というところはいいだろう。競うのはポイントだ。ポイントの獲得の仕方がたくさんあるので、厄介なのはここだ。上手くクラスのみんなに伝えられるといいが。
まず、一人一人が参加できるように、という目的のもと、あるルールが追加された。各自がジャージのズボンの腰裏に、数字の書かれたタオルを挟む。
そして、敵同士でタオルを奪い合う。奪ったタオルは自分のものとして腰裏にはさみ、タオルを取られた生徒も取り返すことができる。最終的にチーム全体でタオルの数を集計し、ポイントにしていく。要するに尻尾鬼だ。
そして、このタオルが今回最初の予算の内訳になった。学校に使えるタオルはないらしい。
次に、各クラスごと拠点を設置できることになっている。拠点、と仰々しく言ったものの、要するに棒倒しだ。各クラス一本ずつ自立する大きな棒が与えられ、それを倒されないように守る。棒は自立するので、支えておく必要はない。が、守らないわけにもいかない。倒された棒は元に戻すことは出来ず、最後まで棒が立っていればポイントが入る。また、他クラスの棒を倒してもポイントが入る。
誰が棒を倒したのか判定を下す必要があることから、審判が必要となった。はじめはこれを生徒会役員が務める流れになったのだが、各クラスの担任教師が引き受けてくださることになった。基本的にクラス対抗なので起こり得ないとは思うが、仮に異なるクラスの生徒二人などが協力して棒を倒した時の得点の入れ方なども問題になった。結論から言うと、二クラスの生徒が倒したなら本来のポイントの二分の一がそれぞれのクラスに入るようになった。
また、拠点は倒されていない場合移動させることが可能だ。見つかりにくいポイントがあればそこに移動させて、その分守りを割く、など多様な戦術がとれる。しかし、ここでも問題が生じた。そう頻繁に移動させてしまってはゲームが進まなくなるのではないか、という懸念だ。そこで、各クラス一人ずつ、リーダーを決める、という一つのルール案を活用して、拠点を動かす際はリーダーとそれ以外の三名以下で動かさなければいけないようにした。これだけでは移動はそう難しくないものになってしまうが、リーダーは自分がリーダーだと他クラスにバレればポイントを失い、またリーダーを当てたクラスはポイントを得ることができる。つまり拠点を動かすと一緒にいた人物からリーダーを特定されてしまうため、そう頻繁に移動できないという仕組みだ。これによって、リーダーを当てる、という一つのタスクが出来上がる。この時、リーダーを当てればポイントが入るのと同時に、リーダーを当てようとして外した際ポイントが大幅に失われる。誰がリーダーかはゲームが最後まで終わった後申告することができ、申告しなくともよい。
また、各クラスがミッションを作成し、それぞれ他クラスのこれを遂行する。これは先生方の指導の下、適切なものを三つ各クラスで作ってもらう。漠然とミッションと言っても作りづらいだろうので、まずは運営が一つミッションの例を提示することになった。これは生徒会、業務委員会、学級委員会からなる全体会議で決められることになっており、未定だ。
得られるポイントの比率は、タオル一つで5ポイント、これを学年全員160人分と、拠点を倒して80ポイント、同じく倒されてマイナス80ポイント。また、リーダーを当てて100ポイント、外せばマイナス100ポイント。リーダーがバレてもマイナス100ポイント。リーダーが複数のクラスにバレればその数に比例して失点が増える。リーダー当てはハイリスクハイリターンとなる。ミッションに関しては一つ10ポイント。自分以外の三クラスのそれぞれ三つずつのミッション、合計9ミッションに挑戦できる。
要点を言うとすれば、個人がやるべきこととしてはまずタオルを取られないことだ。常に敵が背後にいないか確認しながら行動しなくてはならない。また、油断した敵を見つけたとき、できればタオルを奪いたい。が、それだけで勝てないのはルールを考えれば明らかだ。チームとして、戦略を立てる必要がある。他のどのクラスのミッションなら完遂できそうか、その他のポイントの得点源と比べながら的確に判断しなければならない。もちろん、リーダー当ても含め、だ。このためには拠点と同時に行動するリーダーとは別に、現場指揮を担当する人材が数名必要だ。現状をよく把握し、各人員に伝達しながら、ゲームを進めていく必要がある。
生徒たちのレベルが高いからこそできるレクリエーションだ。一年生のときから集団行動と判断力を磨かれた生徒たちが、この難しいゲームにどう立ち向かうのか、実に楽しみだ。って、私なに目線で言ってるんだろ。
「ふぅ」
私はなんとか課題の範囲を解き終わると、自分の部屋からリビングに向かった。
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