イントロダクション
文字数 1,118文字
正月明けの小学校の体育館の中は、キンとした空気に包まれている。だが、
「クラリネットっていう楽器、あんなあったかい音がするんだ。」
今日は『音楽鑑賞教室』として、今年はお隣の中学校の吹奏楽部の人たちが演奏しに来てくれている。あと三ヶ月で舞莉もそこの中学校に入学する。
四十人くらいのお兄さんお姉さんが奏でる音は、今まで聞いたことがないくらいの爆音でもあるが、何かわくわくする様でもあり、心地よいものでもあった。
司会のお姉さんのうちの一人が、頭から水色のスカーフをかぶって前に出てきた。
「アンコール、ありがとうございます。最後にお送りするのは、先輩方から代々受け継がれてきた、南中吹奏楽部のテーマソングです。」
曲名は『ユーロビート・ディズニー・メドレー』。『ユーロビート』とは、電子楽器 (シンセサイザーなど)を多く使った、速いテンポの曲である。この曲は、吹奏楽のサウンドかつユーロビートのテンポでディズニーの楽曲が楽しめる、といったところだろうか。
トロンボーンという楽器の方から誰かが叫ぶ。
「
「「「ユーロビート!」」」
部員全員が声を揃えた。
ドラムの人がバチどうしを叩き、拍をとる。
振り付けつきの『ユーロビート』が始まった。彼らはキビキビした乱れぬパフォーマンスをしているにも関わらず、今までと変わらない演奏自体のクオリティを兼ね備えていた。
舞莉は小学生でありながら、この人たちから何かを感じたらしい。
「あの人たちと一緒に部活をやりたい。あのクラリネットを吹きたい。」
この曲の中にはクラリネットだけで演奏するところがあるのだが、それを聞いてなおさら、あの意欲が高まった。
演奏が終わると、舞莉は全力で拍手をしていた。音楽でこんなに感動したのは初めてだったのかもしれない。音楽の授業で散々聞いてきた、合唱曲やオーケストラよりも。生演奏だったからでもあるだろう。
「今日来ていただいた吹奏楽部の方々に向けて、この紙にメッセージを書いてください。学年から二十人、南中に贈りたいと思います。」
教室に戻って、音楽鑑賞教室の後で恒例の、お手紙を書く時間がやってきた。昨年までは書き始めから何を書こうか迷っていたが、今年は気がつけば鉛筆が紙の上を走っていた。
「今日は来ていただき、ありがとうございました。私はクラリネットという楽器が好きになりました。中学生になったら吹奏楽部に入りたいです。」