木屋町でブルース

作者 橘 孝蔵

[学園・青春]

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【概要】本作品は1975年の京都を舞台に、恋と将来の選択に苦悩する著者の浪人時代を描いた、「B♭の放課後」の続編となる自伝的青春グラフィティである。

【あらすじ】
 1975年春、主人公の柏木涼は当時の恋人片瀬まりあに恥じないステイタスを得ようと、大見栄を張ってこの国のテッペンともいえる東帝大を受験する。結果は明らかに実力不足の不合格。柏木が来年の志望校を京洛大に定め、京都での浪人生活を決めて故郷に戻ってみると恋人の態度が一変していた。何が起こったのかわけもわからぬまま新生活の準備のため京都へと向かう途上の羽田空港で柏木はまりあと偶然遭遇する。彼女に声を掛けようと歩み寄ったその時、まりあは何も言わず走ってその場から逃げ去った。柏木はその現実に混乱しつつも、恋は終わったのだと悟り、独り寂しく京都に旅立った。

 京都では八人の仲間との下宿暮らし。予備校通いが始まっても勉強どころではない。活力源だったジャズ活動もまりあとの恋も失った柏木には自分を支えてくれる何かが必要だった。彼はそれを京都探訪に見出し没頭し始めた。ジャズ喫茶巡りから始まり、寺社や祭り見物で侘しい心を紛らわせた。予備校で新しい友人も出来、その中の一人の女の子から告白されるも、まりあとの一件がずっと尾を引いていた柏木は新しい恋に踏み出すこともできなかった。

 時間が心の傷を少し癒してくれた頃、夏休みとなり柏木は北海道へと帰省する。その夏は思いがけない再会の連続だった。8月の終わり後輩たちのジャズの演奏を聴きに母校の文化祭へと出向いた柏木は、そこで再びまりあと遭遇する。しかし彼女はまたしても一言も口をきくことなく走って逃げ去った。柏木にはどうしてそこまで自分が忌避されるのか、その理由が全くわからなかった。彼の心はまたしても激しく傷ついた。そしてそれは彼女に対する憎しみへと転化していった。

 京都へと戻った柏木は全てにおいて投げやりになっていた。将来もどうでも良くなった。パチンコ屋通いの毎日となり生活は堕落していった。京都探訪にも興味を失い、代わって夜の街にどんどん惹かれていった。ある日彼は木屋町でとある酒場を見つけた。その小さなホルモン屋の大将との出会いが柏木を目覚めさせる。彼は辛い現実から逃げるのをやめ、自分の心に真正面から向き合い始めた。