15。
文字数 4,784文字
全く…あの人たちって意外とかわいいのか……?
紺色の背広がビシッと決まる金髪くんは彼しかいないだろう。
【回想】
「だーかーらー…、なんで早く言わないんですか?それなら何とかしたじゃないですか…」
「こんな風になるって思ってなかったんだよ!」
今日は二美子ちゃんが退院する日だ。本来は昨日退院しているはずだったのだが、前日に病院内で倒れたために、1日様子を見ることになったという。
そのため、昨日休みをとっていた裕太先輩は、本日はどうしても仕事となり、迎えは勤務が終わってからということになったようだ。尊先輩は、県外出張で、明日の昼に帰ってくる予定だという。本来、ギリでうまく回る予定だったのが、急遽、緊急会議が入ることになった為、どうしても夕方迎えに行けなくなってしまったのだ。
「ああー……二美子に連絡したらいいって言うんだけど…ちょっとひとりは心配なんだよな…。だから明日にまた伸ばしてもらったんだけど……」
「……心配なんでしょ?行ってきますよ、僕。もうあがるんで」
「マジか」
「なんなら退院の手続きもします?明日午前中?」
「退院手続きは明日、俺か
「そうっすか? じゃあ、様子見てきますよ」
「光麗……いいのか?」
な、なに?急に気味悪い……
「え、いいですよ。僕だって二美ちゃんのこと気になってますし」
早くに言ってくれればそのぐらいのことしたのに、なんだか二美ちゃんのことになると急に慎重になるんだから。
ほっとくと、仕事にまで支障をきたすな…。
「お前……ほんといいヤツだな」
ずいぶん参ってるんだな……
僕は、きっとこの周辺一帯の治安に貢献したに違いない。
で……今に至るのだ。
駐車場に車を停めロックする。まだ、数十台が止まっているが、昼間より随分少ない。これから出ようとしている車も多く、帰る頃にはもっと少なくなっているだろう。病院の表玄関から入る。自動ドアは二重になっていて、手前の入り口が開くと、電気がひとランク明るく光る。
今ってセンサーが高性能なんだな……。
最近の技術に敬意を払いながら2つ目の入り口をくぐり、入っていく。
夕方の病院は、外来受付が終了している為、入り口は静かだ。警備員がすぐ近くで待機している。
「こんばんは。お見舞いですか?」
警備員に声をかけられる。
「はい」
「お名前と行く階を記入してください。面会終了時刻は20時となっております」
いろんなことが起こる昨今、業務が終了したあと入場する時には、入り口での記載が必要になった。僕の前にも多くの名前がかかれている。
あれ……?
記入されていた名前に動きが止まる。
数分前に裕太先輩が来ていることになっている……。
「どうかされましたか?」
「え…いえ」
記入したあと、チラリと警備員を見る。帽子をしっかりとかぶっていて顔が見えにくいが…。この声、どっかで聞いたことある気がする。僕のセンサーがちょっと作動。少し進んで振り返る。
次の面会希望人が記名しているそばで、僕に説明していたようなことを話している。
光麗、警備員にこの異変を伝えることを
“どっかで聞いたことのある声”
これは、僕の中の危険信号だととらえて間違いない。
エレベーターホールに向かう前に、裕太さんへメールを飛ばす。同じ内容のものを
イヤーな予感しかしない。
エレベーターホールの脇にある階段を駆け上がる。「3」の数字のホールにて止まる。息を調え、慎重にフロアを見る。静かな病棟はいつもとかわりないように感じるが……。
もともとこの時間に人はあまりいない。だから、こんなものだと言われると…そうなんだろうが、
「僕の肌感ではヤバイって感じだ」
空気が張ってる感じがある。
階段からフロアに移動し、周囲を確認する。
誰もいない
そんなタイミングもあるだろうが……。
「これはおかしいよな……」
壁にできるだけ背を当て、足早に二美子の病室へと急ぐ。
近づくと異変に気づいた。
扉がしまってる……
夜、消灯になってからなら理解できるが、まだ夕食の時間辺りだ。扉がしまってることは少し違和感がある。
さっと見渡し、姿勢を低くする。
他の病室も出入りがない……。これは偶然か?何かあったか……。
何かあったな……
物音があまりしないのは、異変に他ならない。扉に施錠がないことを確認する。
たしか4人部屋で、東窓側だったはず。
スライド式のドアを少しだけ開ける。静かに滑らせて開けるのと同時に扉と共に左に移動し、中央まで開いたところで、中に入る。
右……クリア。左…クリア。奥、クリア。二美ちゃんのとこだけカーテンが…!
シャッ
「二美ちゃんっ」
カーテンを払った先には空っぽのベッド。
ベッドを触ってみる。
まだ、暖かいか……
光麗、踵を返して病室を出ると、病院だということは感じさせないスピードで廊下を駆け抜ける。中央、ナースステーションに到着すると、中では3名が倒れていた。
「おいっ!大丈夫かっ?!」
入り口近くに倒れていた看護士らしい男性を抱き起こす。見た感じ外傷があるようには見えない。息は……してるな。
……ってことは……
光麗、あることに気付き、急いで立ち上がる。ポケットからハンカチを出して鼻と口を押さえる。
詳しくはわかんねえけど、きっとガスだ。催眠を誘発する
なんか
だ。周辺を見回す。窓とかどーすんだ?換気とかどーすんだ?常に空調って効いてんだよな?なんで3人が一斉に倒れてんだ?光麗の脳内が状況を把握しようと活性化される。脳内で整理をしながら、ナースステーションに設置されている電話を手に取る。外線110番をかける。
「R国立付属病院3階で数人が倒れています。催眠スプレーのようなものが噴霧されてる可能性があります。僕はR県警捜査一課の
それだけ発信すると、光麗、来た方向と反対側に向かって走り出す。エレベーターが降下したのが目視できたのだ。一般に使うエレベーターは光麗が使用した階段の近くにあった。
このエレベーターは……
「業者用か?」
ランプは明らかに降下している。
「ふざけんなよ……!」
脇にある階段から一気に階下へ。
エレベーターは既に到着していたが、人影があった。
「止まれっ!」
黒いジャンパーにジーンズ姿のそいつは、もうひとりの腕をしっかりと握っていたためだろう、振り返った時に、つかんでいる人物をグッと引っ張る形になった。
光麗側に向いたもう一人は二美子だった。
「二美ちゃん!」
「光麗さんっ!」
なんだよ、二美ちゃん、パジャマ姿だなんて反則じゃんか……。
入院しているから当たり前である。
「お前誰だ……」
手元にはヤバそうなものは持っていないようだ。だからって、目出し帽はこの場にそぐわない。
「通報したからもうすぐ警察がくる。その人を離せ」
「……っ」
通報に明らかな焦りが見える。
光麗、迷わず走りより、相手の右腕を掴んだ。
「離せって言ったよな」
すかさず捻りあげて、相手の手を二美子から離し、体自体も突き放した。
相手は床に倒れる。光麗、二美子をそいつから庇うように自分の後ろへと身を挟み、距離をとる。
周囲を確認する。ここは業者用出入り口のようだった。一般出入り口からは見えない。この時間はここが使われることはないはずだから、ドアの開閉は使用できないはずだ。ここを使おうとしているということは……
あの警備員もグルか……
あいつ一人か、他にもいるのか。
「二美ちゃん、ちょっと走るよ」
「…うん」
光麗、病院内に方向を代え、一般出入り口へと向かう。業者搬入口が外へ出るには近いが、そこには共犯者がいる可能性が高い。1階受付ホールを横切って一般出入り口の方が安全だと踏んだのだ。
二美子の肩を抱くようにして、出口へと向かう。そこにいたはずの警備員はやはりいない。自動ドアを抜け、屋外に出る。二美子の肩から苦しい呼吸の波が伝わってくる。息づかいもヤバイ…。
「二美ちゃん、大丈夫?もう少し頑張って」
「……は、はい」
…まずいな。
二美子の息があがっている。まだ、誰も通報から到着していない。中に置いてきた容疑者も共犯者もどっから出てくるか分からない。
駐車場まで行く方が得策か……。
日が暮れかかっている。だが、まだ明るいのがせめてもの救いだな。上着を脱いで二美子に着せる。
「駐車場に車が停めてあるから。そこまで行こう」
小さく頷く二美子。
光麗、スマホを取り出し裕太にかける。
『今向かってる。5分内に着く』
裕太の声が聞こえた瞬間、ホッとしたのが分かる。悔しいが、先輩の声に安心した。
「通報もしました。二美ちゃんは僕といます。屋外に今出ました。容疑者は中です。ですが外に追ってきたかも。少なくとも2名はいます。警備員は要注意です。駐車場に向かいます」
『了解』
光麗は、携帯を通話状態のまま二美子に渡す。
「二美ちゃん、先輩と繋がってるから、大丈夫だよ」
二美子、携帯を受け取る。小走りに駐車場に向かう。駐車場には車は数台しかなく、広場のようだ。その中に白の軽自動車があった。
「あれが僕のだ」
キーレスで近づくとドアが開き、車のハザードが光った。
「二美ちゃん、乗って」
急いで彼女を後部座席に乗せて、ドアを閉め、鍵をかける。
「絶対、開けちゃダメだ!」
「光麗さんっ!後ろ!」
え…
車の窓ガラスに襲いかかろうとする人影が写った。姿勢を低くして、振り返り様に腹に体当たりする。
すっ飛んだ相手は腹を押さえて転がった。
確認する間もなく、右側から何かで殴られる。
「うっ…」
「光麗さんっ!」
車の中から叫んでる二美子。
「ダメっ!出てきちゃダメだっ!」
構えてなかったから食らったけれど、僕はそんなにやわじゃない。
次に来た攻撃は捉えて投げ飛ばす。飛ばした男はどうやらさっきの警備員のようだった。上着と帽子は違うが、靴とズボンは同じだ。
目の前で2人がうずくまる。
「なんだお前ら!彼女をなぜ狙うっ!」
遠くからサイレン音が聞こえ始めた。だが、安心はできそうになかった。なぜなら、奴らはサイレン音が聞こえても、逃げようとしなかったのだ。
警察がくると分かっても逃げないのは、逃げる手はずがあるのか、覚悟が決まっているのかどちらかだ。後者なら部が悪い。
「なぜ……?聞いたところでだろ?」
左手からもうひとり現れる。
3人目がいたか……。
そいつの声には聞き覚えが確かにあり、顔がはっきり分かったとき、光麗はハッとした。
「おまえ……っ」
「どうしても許せなくてさ……」
こいつはこの間先輩が捕まえたやつだ。内輪揉めの末、相手を傷つけた突発的犯行の……。
「何やってるんだよ……」
「うるさい。もういいんだ、終わりなんだ!」
「おまえ…、ちゃんと周囲の話聞いてたのかよ…」
「俺には!それなりの理由があったっ!」
左手に見えるのはナイフだよな……。
「どういうつもりかは知らないが、だからって罪を犯していい理由にならないだろう?見境がなくなってるぞ?やめとけって…」
「うるさい!」
「いいか、ここで重ねて罪を犯したら、おまえを理解しようとしている人たちに背を向けることになるぞ 」
「……うるさいっ!説教するんじゃねえ!」
凶器を持った手を振り上げた。その瞬間に後ろからヌッと人影が現れ、振り上げた手は、あっという間に制圧される。
「相変わらずよくしゃべるやつだな……」
手からナイフが落ちてカランと音を立てる。ポケットからハンカチを出してそれを取り上げる光麗。
「先輩…遅いですよ」
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