24。

文字数 2,144文字

「……おい、僕はいつでも動けるほど軽い男じゃねえぞ」
 不満たらたらで現れたのは光麗(ミツリ)だ。
 ここは最近流行ってるスーパー銭湯といわれるところだ。リーズナブルな価格で温泉にはいることが出来て、サウナまである。お腹がすけば食事も出来るから親子連れが多いのが特徴だ。残念なことに、ここは今、厨房を改装中で食事ができない。だから、少々客が少なくなっている。
「そういいながら来るんじゃんか」
 だから…ちょっと訳ありにはちょうどいい。
「偶然にも、風呂入りたいなってっ思ってたんだよ。…にしても、いいな。ここ」
「だろ?穴場っすよ、今は」
 光麗、かけ湯の後、風呂の中に入り、湯船に浸かってる輝礼(アキラ)のところへ近づく。
「明日、退院するって。二美子さん」
「……ああ。今、1課が話し聞いてると思う」
「聴取とるのは女の人?」
「まあな。……で、何?わざわざここでなきゃダメだったんだろ?」
「…俺、家にも帰れなかったんだ……」
「あー?何で」
 輝礼、グーッと伸びると大きく息を吐く。
「つけられてた……かも?」
「ああ?!
「ああもう、声でかいって…。ここ、風呂だから。響く……」

 ったく…どんどん似てくるよなー、裕太さんに。

 俺は湯船からあがると、洗い場に行き、桶とイスを取って座る。桶にお湯をいれていると、隣に光麗さんが座る。
「間違いないのか?」
「つけられてたのは間違いない。ただ、どっからなのか、いつからかとかは分かんね。今朝、二美子さんのとこから大学まで(ちょく)で行ったんだけど…その時に壽生(ジュキ)が気付いた」
「ほー……。ちなみに、ここまでついてきてる?」
「ここまではないな。だって相手は女だからさ」
「はー、だから風呂か……」
「大学の学生棟、覚えてる?」
「お?おお」
 頭からざーっと湯をかぶり、顔をざっと洗うと、俺はふーっと息を吐いた。
「そこでさ、壽生と話してたんだけど、壽生曰く、俺が来てすぐ入ってきて、ちょっと離れたとこに座ったって。時々こっち見てたって言うんだ」
「……あー……、これって、お前がモテるって話し聞いてんのか?」
「違うって。壽生がこそっと写真撮って俺に見せてくれたんだけど、その時は、ん?って思ったぐらいだったんだ。でもさ、学生棟から出たあと気がついたんだよ」
「何に?」
「病院で見たってこと」
 光麗、動きが止まる。


 【回想】
「逃げたヤツと襲った原因は警察が解決することだろ?俺たちは二美子さんが自宅で安心して養生できるために出来ることをするんだよ」
「あ、ああ…そっか……」

 何だ、壽生のヤツ……

 突然、ものわかりのいい大人な発言しやがった。ちょっとイラッとしながら、でも、ちょっと違和感…。確かに一番常識があるヤツだけど、その通りってことをそのままいうやつだったか……?
「俺たちにしか出来ないことじゃないか?」
 壽生、携帯画面を輝礼に見せる。
「……おっと…」
 そこには、今いる俺たちのテーブルの斜め後ろのテーブルが写った写真が画面に表示され、
 “こっち気にしてる。しってるか”
 との言葉がそえてあった。素早く画面を大きくして見ると、確かにこちらをみてる女がいた。
「な?書いてあるだろ?俺たちって信頼されてんな~」
 壽生の顔見てまばたき2回する。これはよくやる3人のアイコンタクトで“NO”を意味する。
「はは…だなぁ。じゃあ、俺はちょい帰って来るわ。後で合流な」
「おう、連絡するよ」
 飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に捨てに行く。チラリと写メの女を確認する。

 あっれ……?な~んかどっかで見たことあるような……。

 学生棟を出て、思い当たる。
 そういえば……二美子さんが倒れた時にいた……


「看護士ってことか……?」
 光麗の言葉に小さく頷く俺。
「たぶん…。だから、二美子さん絡みじゃないかって思って」
「そうだな。可能性はあるな……。この後、輝礼はどうすんの」
「メシ食って、病院行く」
「ぶれないね」
「ぶれてる場合じゃねえから……」
「……そうだな」
 でかい湯船に二人っきりでつかりながら、ほんの少しの静寂…。

 そろそろでるか……温まったし。

「写メ……壽生から送ってもらったから、光麗さんにも送っとく。じゃあ行くわ」
「輝礼」
「ん?」
「ちょい待って、俺も行くから」

 は……い……?

「なんだよその顔。ちょっとぐらい待てって。いいだろ?久々にいい湯に浸かってんだから…」
「あ?いやいや、違う違う。仕事あるだろ?もう話し終わったし、メシ食うんだって。俺」
「うん、聞いたよさっき。俺も食うし」
「いやいや…。仕事中だろ?サボんなよ」
「はあ?失礼しちゃうな~。仕事してるよ~」
 光麗、グーッと伸びると首をごきゅっと鳴らし、気合いをいれた。
 甘いマスクからはそぐわない筋肉。今更ながら、鍛えてんだな、って感心した。
「まあ…大丈夫だとは思うが、もし、二美ちゃんを襲った奴等と関連があったとしたら、タチが悪いかもしれないだろ?」
「わぁ…心配してくれてる?」
「仕事してるだけだ。ほら行くぞ。まず、写メ見せろ」
「お、おお…」
 何だかんだで、彼はやはり刑事であるし、尊敬できる先輩だってことか。俺も、色々考えてって言うよりは、言っとこうと思って彼に電話したわけだから…信頼してるんだろうな…光麗さんのこと。
 ああ、頭がまわんね…。とにかく、メシ食いますか…。
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