12。
文字数 2,051文字
き…気まずい…!
警察の会議室を経て、今、ファミレスにいる。ドリンクバーをたのんで、珈琲を入れて、何となくメニューを見たりしている。
なんでこうなったのか、俺もうまく説明できない。二美子さんのところではなく、なぜ俺は琉太 とファミレスにいるのか…。
連絡が取れない二美子さんが心配でしょうがないが、こっちも情報過多な上にさっきまで身動き取れず……。
誤解はとけたものの、騒ぎが騒ぎだったため、随分としっかりめのお説教を喰らった。
俺は、騒いだ親子連れと学生さんたちと立場的には同じようなものだが、勘違いされた彼は心中複雑そうだった。
あの事件以来、会うこともなく、こっちはこっちで色々と大変だったから、気にすることもなかったが。よくよく考えれば、琉太の方が大変だったかもしれないな。そう思うと、二美子さんが気にかかりつつも、そのまま別れる気持ちにはなれなかった。
「あのさ…俺のこと知ってるの……?」
「あ、うん」
琉太の表情が少し強ばる。
「あの……えっと…なんか…兄のことで……かな」
あ……
言葉を一生懸命出してるって、この感じは…緊張してる。視線は一向に上がってこず、下方向で、まるで合わせてはいけないと感じているような。
「琉太さん、まず、ハッキリいっとく」
相手の体がビクッとするのが目に見えて分かった。よく見ると、黒とグレーを基調とした目立たないような服装なんだな。フードを被っていたのも、人目が気になったんだろうな。それほど大きく報道されたわけではないけれど、公に凌平 の顔写真が出回ったのは確かだもんな。
双子なんだから、気にするよな。これまでも、何があったのか想像は出来る。人ってのは良くも悪くも偽善的な行動をよくする。彼がおかれた状況は決して簡単なものではなかっただろう。
「俺は二美子さんに近い方の人間だよ。あの騒動のときにもあの場所にいた。だから、君のことを知ってたんだ」
「え……」
目から緊張が解けて、疑問の表情になる。
「二美子の……」
「でも、正直、今日、視線があったときもピンとこなかったんだ。声を聞いて思い出したけど。ごめん、すぐに分からなくて」
「い、いや…。逆に分からない方が俺はほっとするよ……」
その言葉に、いろんな含みがあることは、なんとなく分かった。
「まさか、こんな風にまた会うとはね」
「うん……」
「さっき話してた内容は本当なんでしょ?」
さっき話した、とは、警察署で「どうしてあそこにいて、あんな騒ぎにまで発展してしまったのか」を説明したときのことだ。
「……うん、本当だよ。アルバイト先の依頼なんだ。あの辺りでいなくなった猫を探してたんだよ。猫は確保したんだけど、首輪がなくなってて、一応探してみた方がいいかなって。頼まれてはいないんだけどさ」
「頼まれてないのにどうして?」
「まあ…依頼してきたのって母親の方なんだけど、猫の主人はその娘さんでさ。その猫の首輪は娘さんが選んで買ったらしくて、思い入れがありそうだったから、あればいいなって思ったんだよ……」
「そうか…」
いいヤツだな…。
身の置き所に困るようにゴソゴソしてる琉太を見て、ふと思う。
このアルバイトも親のための副業だと言っていた。主としてはSEをしているのようだが、あの一件以来、きっといろいろと変化を余儀なくされたのだろうな。
「勘違いされて不運だったな」
琉太、大きくため息をつく。
「まあ…よくあることだから」
「え?」
「あんたは?誰なの?」
「あ?ああ、壽生 。二美子さんの後輩」
「そうなんだ。二美子は元気?」
「まあ……一応ね」
「……え?何かあるの?」
初めて顔が上がる。
「うん、彼女、健康ってわけじゃないからね」
「え……そう…なの?」
「あー……んー…、俺が彼女のことをいう立場にはないけど、そうなんだ」
「そう……なのか……。なんか、ほんとに申し訳ない……」
俺はちょっとお節介だったのかも。
あまりにも“すみません”的な態度を取る琉太にいらっとしてしまった。
「君のせいじゃないよね?」
「え……」
「君がしたことではない。彼女の体調も君が責任を感じることじゃないよ」
怒りにも似た感情に任せて、言ってしまったのは反省すべきことだけど。何だか、自らをそれほど罰するように追い詰めなくてもいいのでは?と感じて…。
そんなに卑下する?
琉太のせいではないじゃないか。
凌平 が謝りに来いよ!
とか思ってしまった。なんか…、俺も偽善者だ…。相手を非難ばかりしている。感情に任せて「怒り」を押し付けてる感じがする。
自分の発言に後ろめたさを感じ始めた時、琉太の目から涙がこぼれた。
え
「いや、え…?あ、あっと…」
驚く俺。
「わ、え…?あ、ご、ごめん!っと…」
慌てる琉太。
琉太は涙を急いで拭う。が、それをきっかけにして止めどなく涙が溢れていた。
「あれ?止まんない…、ごめん、えっと…」
彼のその状態に最初は戸惑ったが、流れ落ちる涙にこれまでの苦労が少し垣間見えた。
彼が、琉太が落ち着くまで静かな時間が流れることになった。
警察の会議室を経て、今、ファミレスにいる。ドリンクバーをたのんで、珈琲を入れて、何となくメニューを見たりしている。
なんでこうなったのか、俺もうまく説明できない。二美子さんのところではなく、なぜ俺は
連絡が取れない二美子さんが心配でしょうがないが、こっちも情報過多な上にさっきまで身動き取れず……。
誤解はとけたものの、騒ぎが騒ぎだったため、随分としっかりめのお説教を喰らった。
俺は、騒いだ親子連れと学生さんたちと立場的には同じようなものだが、勘違いされた彼は心中複雑そうだった。
あの事件以来、会うこともなく、こっちはこっちで色々と大変だったから、気にすることもなかったが。よくよく考えれば、琉太の方が大変だったかもしれないな。そう思うと、二美子さんが気にかかりつつも、そのまま別れる気持ちにはなれなかった。
「あのさ…俺のこと知ってるの……?」
「あ、うん」
琉太の表情が少し強ばる。
「あの……えっと…なんか…兄のことで……かな」
あ……
言葉を一生懸命出してるって、この感じは…緊張してる。視線は一向に上がってこず、下方向で、まるで合わせてはいけないと感じているような。
「琉太さん、まず、ハッキリいっとく」
相手の体がビクッとするのが目に見えて分かった。よく見ると、黒とグレーを基調とした目立たないような服装なんだな。フードを被っていたのも、人目が気になったんだろうな。それほど大きく報道されたわけではないけれど、公に
双子なんだから、気にするよな。これまでも、何があったのか想像は出来る。人ってのは良くも悪くも偽善的な行動をよくする。彼がおかれた状況は決して簡単なものではなかっただろう。
「俺は二美子さんに近い方の人間だよ。あの騒動のときにもあの場所にいた。だから、君のことを知ってたんだ」
「え……」
目から緊張が解けて、疑問の表情になる。
「二美子の……」
「でも、正直、今日、視線があったときもピンとこなかったんだ。声を聞いて思い出したけど。ごめん、すぐに分からなくて」
「い、いや…。逆に分からない方が俺はほっとするよ……」
その言葉に、いろんな含みがあることは、なんとなく分かった。
「まさか、こんな風にまた会うとはね」
「うん……」
「さっき話してた内容は本当なんでしょ?」
さっき話した、とは、警察署で「どうしてあそこにいて、あんな騒ぎにまで発展してしまったのか」を説明したときのことだ。
「……うん、本当だよ。アルバイト先の依頼なんだ。あの辺りでいなくなった猫を探してたんだよ。猫は確保したんだけど、首輪がなくなってて、一応探してみた方がいいかなって。頼まれてはいないんだけどさ」
「頼まれてないのにどうして?」
「まあ…依頼してきたのって母親の方なんだけど、猫の主人はその娘さんでさ。その猫の首輪は娘さんが選んで買ったらしくて、思い入れがありそうだったから、あればいいなって思ったんだよ……」
「そうか…」
いいヤツだな…。
身の置き所に困るようにゴソゴソしてる琉太を見て、ふと思う。
このアルバイトも親のための副業だと言っていた。主としてはSEをしているのようだが、あの一件以来、きっといろいろと変化を余儀なくされたのだろうな。
「勘違いされて不運だったな」
琉太、大きくため息をつく。
「まあ…よくあることだから」
「え?」
「あんたは?誰なの?」
「あ?ああ、
「そうなんだ。二美子は元気?」
「まあ……一応ね」
「……え?何かあるの?」
初めて顔が上がる。
「うん、彼女、健康ってわけじゃないからね」
「え……そう…なの?」
「あー……んー…、俺が彼女のことをいう立場にはないけど、そうなんだ」
「そう……なのか……。なんか、ほんとに申し訳ない……」
俺はちょっとお節介だったのかも。
あまりにも“すみません”的な態度を取る琉太にいらっとしてしまった。
「君のせいじゃないよね?」
「え……」
「君がしたことではない。彼女の体調も君が責任を感じることじゃないよ」
怒りにも似た感情に任せて、言ってしまったのは反省すべきことだけど。何だか、自らをそれほど罰するように追い詰めなくてもいいのでは?と感じて…。
そんなに卑下する?
琉太のせいではないじゃないか。
とか思ってしまった。なんか…、俺も偽善者だ…。相手を非難ばかりしている。感情に任せて「怒り」を押し付けてる感じがする。
自分の発言に後ろめたさを感じ始めた時、琉太の目から涙がこぼれた。
え
「いや、え…?あ、あっと…」
驚く俺。
「わ、え…?あ、ご、ごめん!っと…」
慌てる琉太。
琉太は涙を急いで拭う。が、それをきっかけにして止めどなく涙が溢れていた。
「あれ?止まんない…、ごめん、えっと…」
彼のその状態に最初は戸惑ったが、流れ落ちる涙にこれまでの苦労が少し垣間見えた。
彼が、琉太が落ち着くまで静かな時間が流れることになった。
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