9。

文字数 1,611文字

 ソファでいつの間にか眠っていたようだ。
 誰かが帰ってきた気配はなく、空間が広い。ゆっくりと立ち上がって、部屋の電気をつける。ちょっと眩しい。窓のカーテンを閉め、ふーっと息を吐く。
 つけっぱなしだったテレビから、バラエティー番組の出演者たちの笑い声が流れてくる。目をこすりながら壁の時計を見ると……
「もう9時になるのか……」
 思っていたよりよく寝たようだ。

 あれ?壽生くん来たっけ?

 テーブルの上に置いてあったスマホがピカピカしている事に気づく。
 しまった…。誰かから連絡が来てたのかも…!
 急いでスマホを確認する。そこには……
「わっ…すごい……」
 5時くらいからずっとスマホが鳴っていたようだ。
 最初に壽生くん。何度か電話をしてくれてる。次が裕太(ユウタ)兄。数回鳴らしている。ここまでが6時半あたりまで。合間に輝礼(アキラ)くんと尚惟(ショウイ)が電話をかけてきていたようだ。

 うーん……これは…電話しとかなくちゃ。

 寝てただけなんだけど、絶対心配してる……。
「あ…」
 着信ばかりに気を取られて、メールのとこ見てなかった。
 画面を切り替えてメールを見る。
 壽生くん4通。
 『二美子さん、ごめん、ちょっと遅れるね』
 『二美子さん、電話たくさん鳴らしてごめんね』
 『二美さん……まだかかりそうなんだ。尚惟から連絡あった?』
 『にみさん。連絡ほしいな』

 わあああ、まずい……

 裕太兄、あっと……これは何通と……?
 『二美子、何で出ない?』
 『二美ーー』
 『おーい、怒ってんのか?』
 『お兄ちゃんが悪かった、何でもいいから出なさい』
 『にーみーこー』
 『泣くぞ、兄ちゃんは』
 エトセトラ…。これってヤバイ奴ではないですか…?

 輝礼くん 2通
 『二美子さん、壽生がすぐいけなくなった。俺もちょっと行けないから、鍵かけて家にいてね』
 『寝てるのかな?みんながパニックだ。とにかく、裕太さんか尚惟には連絡してやって』
 なんだか、みんな過保護だ…。

 尚惟 1通。
「え?」
 …ちょっと驚きというか……。
 そう思いながら、読んでみる。
 『すぐ行くから』

 え……?

 送信時間を見てみると、8時過ぎだ。
 今日はバイトが8時までで、終わってすぐ電話した?出なかったから心配した?にしても…すぐ行くっていうのは……

 = ピンポーン =

 え

 あまりのタイミングに、心臓が跳ねる。

 = ピンポーン =

 え、まさかだよね?
 え、だって、もう電車だってないと思うし、だからって自転車でここまで来るってなったら大変だし……ちょっと遠いし……。
 まだ、尚惟とは限らないのだが、何だか期待と可能性からすっかりそうではないかと感じていて、しっかり尚惟であるという前提でドキドキしている私がいる。
 頭のなかで、色々言い訳考えて、玄関まで来る。
 = ドンドンッ! =

「…二美子さんっ!…いる?!

 尚惟…!

 可愛くも愛しい彼の声に、驚きと混乱と、これは現実なのか夢なのかと、わけの分からない迷いで呆然とする。
「ね!…二美さん!」
 扉越しではあるが、急いで来たのが分かる呼吸の乱れ具合。
 ハッと我に返り、急いで玄関の電気をつける。白熱灯の柔らかい光が玄関を照らす。解錠し、玄関を開けようとすると、グイッと引っ張られ、そのままドアに体をもっていかれた。
「あ…」
「二美…!」
 流れるように尚惟の腕のなかに吸い込まれた。玄関でそのまま尻餅をついた尚惟にギュッと抱き締められている。
「尚……惟…」
「はぁ…二美子さん…。良かった…」
 尚惟の抱き締める力が強い。
「ごめ…寝てて……」
「はぁ…いいんだ。何もないなら、それでいいんだ……」
「う…うん」
「ああ…ほんと、もう……良かった……」
 私も、彼を抱く手に力を込める。
 尚惟の心臓の音が近い。ドクドクいっている彼の鼓動が、すぐ近くで響く。体温が伝わってくる。私のドキドキも伝わってるのだろうか…。
 こんなに大事にされて…こんなに大切にされてる。心が溶けてくようだ。
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