第1話 杠
文字数 1,944文字
あの一件以来、わたしは女学校の
あまり久しぶりだったので、他人に話しかけられた時、どうすればいいかを忘れていた。そうだ、お返事をするんだっけ。ようやく思い当たった時、和子さんがわたしの方へ身を屈め、耳元に唇を近づけた。今日の放課後、わたしに付き合っていただきたいの。約束よ、よくって。
あっと思う間もなかった。踵を返した和子さんの背中を、わたしの視線が滑った。和子さんは教室の後ろの方に陣取っている六、七人の、いつも一緒にいるお仲間のところへ戻っていった。何をお話しになったの。ないしょ。和子さんは手を後ろで組んで笑っていた。
お腰元たちは、敵意の籠もった目をわたしに向けていた。
「まあ! 和子さんからお手紙をいただいたのに、ご返事もさしあげないなんて」
「いったい、どういうおつもりなのかしら」
聞えよがしに話す声と、セーラー服の背中を刺すいくつもの視線。お弁当はまだ三分の一ほど残っていたけれど、すっかり食べる気が失せて蓋を閉じてしまった。
お昼休みが終わり、ミス・ハーパーのリーダーの授業が始まっても、わたしはまだぼんやりしていた。佐伯さん、あなたずいぶんね。わたしの靴箱に和子さんからのお手紙が入っていたのは、四日前の月曜日のことだった。わたし、あなたとお友だちになりたいの。
約束よ、よくって。わたしの耳元で囁いた和子さんの声は、高圧的というよりむしろ無邪気だった。ご自分の誘いが断られるなんて、夢にも思っていない人の態度だった。急に、石でも呑んだような重い痛みを胃に感じた。
痛みは、わたしに自分の身体を思い出させた。
女学校最後の年の新学期が始まってから、もうすぐ一か月になろうとしていた。四月の終わりの気温は、どんなに息を殺すようにして学校にいる間を過ごしても、わたしの身体を微かに汗ばませるのだった。家に帰って制服を脱いだ後、わたしは自分の腋の下に、そっと鼻を近づけてみることがあった。腋の窪からは、生きているもの特有の、いやらしい匂いがした。
わたしは、生きている。現金なもので毎日お腹も空く。ごはんを食べれば消化され、排泄される。月のものも規則正しくやってくる。
――何のために、女ばかりこんな目にあわなければいけないのかしら。
毎月の生理痛のうっとうしさが、つい声になってわたしの唇からこぼれたことがあった。
――良い子を産み、育てるためではありませんか。
その時、
わたしたちは運動場の隅の、桜の樹の
髪を長く伸ばしている女学生は、おうちで日本舞踊でも習っていそうな、しっとりした雰囲気を漂わせているものだが、倭文子さんはとりわけそうだった。低学年は三つ編みを二本にする人が多いのに、倭文子さんの場合は一本で、それがよく似合っていた。腰のあたりにまで届くつややかな髪の先には、お気に入りらしい紫色のリボンが結ばれていた。そんな倭文子さんを眺めていると、脂汗が出るほどのお腹の痛みを、立っていられないほどの下半身のだるさを、その