ある候補作②

文字数 622文字

 次の作品は、競歩選手が猿(ボノボ)と心情的に同一化するというもの。
 一部の記者が該作を「マジックリアリズム的」と評していたが、そうしたものとは私には感じられなかった。単純に主人公が自身の心情を猿に仮託して、自身の置かれた苦境と向き合っていくという作品、と私は読んだ。
 これも一人称で書かれた作品である。だから主人公の設定からいっても、言葉巧みな叙述であっては不自然ということになる。にしても、文章がひどすぎた。
 これは小説なのであるから、たとえ主人公の言語能力が低くあらねばならないにしても、外側にいる作者が作品レベルを制御できる位置にいつづけなければならない。それを作者は放棄しており、「やっつけ仕事」という印象がありありとしていて、私は途中で放り出すところだった。

 もちろん私には、このレベルの作品でさえ書く能力はまだないが、村上春樹がかつてデビュー時に「文芸誌に載っている作品があまりにもひどすぎる」と感じた状況は、変わっていない。むしろ悪化しているのかもしれないと、正直なところ、私はおもわざるをえなかった。
 かつてと比較して、作家に助言すべき編集者の職業態度がはなはだしく劣化したことが影響しているのではないかとも、おもったりする。

 ひどい文章なりに、太宰治からの文体上の影響を感じさせた。(誤解がこわいのでいっておくが、太宰は文章がうまい)

 作品としては読むに堪えないものであったものの、作者が語り伝えようとしたメッセージは買う。
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