第8話

文字数 1,390文字

 新人童貞とでもいうのか、最近の作家の作品をまだほんのちょっぴりしか読んでいないが、彼らは洗練されているし、技術も高いのである。けど内容がない、などというオチではない。
 でもまあ、内容濃厚というのではないなあ。野間宏とか、もはや一般には村上龍すら求められていない時代だから、薄いのは時代に適合していることであって、なにも悪くはないので、各文芸誌が自信をもって新人を推しだしているは、わかる。

 くどいようだが、わたしは売れない小説というものが大好きである。
 しかし文芸誌が誇らかに新人を推すばあい、商業価値はみているはずのものである。なので、わたしは違和感をおぼえるのである。
 とうぜん、いろいろな市場調査をしたうえで、彼らはそうしているのだろうが、しかし趣味的な期待が勝ってしまっているのではないかと、わたしは感じる。
 くどいが、わたしは売れる本が好きなわけではない。なので、売れないのはけっこうなのである。
 が、自分なりの感想。
 わたしは家が本だらけになってしまったので、余程の作品でないかぎり、図書館で借りるという習慣を最近になって身につけた。
 で、二年ほど前に芥川賞受賞した後ベストセラーとなった作品を最近、借りて読んでみたのである。
 表現は天才的(といっても世界的作家になるかは見通せない、海外での評価はいまのところパッとしない)だが、わたしのページを繰る手はいちいち止まってしまう。たかだか150ページほどの作品なのに、読了に一週間ほどを要してしまった。
 ベストセラー作品であるから、わが地の図書館でも13冊ほど収蔵しているのであるが、それでも出版当時は、借りられるまでに一年くらいは待たされただろうとおもう。(出版から三年を経たいまも、貸出数 12 冊 予約数 1 件)
 多くの人の手を経て、わたしに渡ったのだ。
 にもかかわらず、該書は新品同然であった。そこから察せられるのは、借りても最後まで読んだ人は僅少だということである。手垢がないのであるから。マッサラなのであるから。
 つまり話題だけで売れ、借り手あまただったというだけのことで、じっさいに人々から求められる作品とは乖離があったというわけだ。
 にもかかわらず、該作家がデビューした文芸誌および、その出版社は、しつこいくらいに(一年半ものあいだ)該作家の新作を宣伝しつづけているのである。芥川賞受賞作が60万部出たとして、新作は執拗な宣伝にもかかわらず10万部に届いていないとおもわれる。いまどき10万部小説が売れることはめずらしいので、「10万部突破」の句を宣伝にくわえていないかぎり、超えていないのだ。

 元来が、売れない本好きのわたしとしては、ばからしい限りの事態である。
 文芸誌(出版社)はもっと別のことに資源を遣ったらよろしい。

 「売りたい」という論理が、かような出版社の行動面に影響を与えているというのなら、ちゃんとやれ。という話である。精緻に市場分析せよ。
 かたよって推しても効果がないなら、他の新人にも資源的目配りをするべきである。実力の拮抗する新人作家は、該誌関係だけでも10人くらいはいるのではないか。柔軟にやったらいい。
 こんなに本が売れない時代に、硬直的に推しを定めきって「いいもの」をゴリオシするのはどうか。
 文芸の世界を盛り立てるには、ムダなエコヒイキは禁物である、とわたしはおもう。
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