第100話 子どもたちの先生

文字数 708文字

 学生時代は真面目で問題のない生徒だった。人見知りで先生と個人的な話などしたこともない。おそらく、記憶にも残っていないだろう。

 比べて夫はひどかったらしい。
 酔うと話す。
 神社でタバコを吸って叱られた。池の鯉を獲って村中が大騒ぎ。
 なにかあると父親は酒2升持って謝りに行ったとか。
 あるとき、若い女の先生は怒りのあまり、木の大きなコンパスで、皆の前で頭を叩いた。
 血が出て、かなり、かなり出て、女生徒たちは泣いて大騒ぎ。これまた、騒動に。
 今ならニュースになるだろうに。

 夫は自分が悪かったので、痛みも感じなかった。恨んでない、と。
 それどころか、中学を卒業し、上京したあともしばらくは手紙のやり取りをした、という。
 
 3人の子どもたちは、やはり夫に似たのだ。先生を手こずらせた。

 長男はバイクの3人乗りを高校の周りでやって(ただのバカ)停学。男の担任が家まで家庭訪問に来た。
 バイクは危険だから、早く四輪に乗れ、とか、なんか、楽しそうに話していた。
 長女は校則違反。オシャレすぎて、
「あなた、この学校向いてないんじゃないんですか?」
と、独身の年配の女性担任に言われた。目の敵にされていた…‥と思っていた。
 進級のたびに追試験。
 その先生が卒業式では手を取って泣いてくれた。

 次女は輪をかけてひどかった。進路も就職も決まらずバイトの延長。
 何年かして、契約社員で働いていた紳士服店に高校の男の担任が買いに来て、喜んでくれた、と。
 のちに、数人の卒業生と一緒にカラオケまで行ってきた。

 散々、母を手こずらせた子どもたちだが、羨ましい気もする。少しは先生の記憶に残っているかもしれない。子どもたちの恩師だ。



【お題】 恩師
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