第111話 誰でしょう?

文字数 1,009文字

 久々に花見をした。長男と次女が地方へ行ってしまったので、皆で花見なんて何年振りだろう?
 姉夫婦も来た。

 シートを敷きそれぞれご馳走を広げる。
 息子は釣ったヒラマサをさばいてきた。
 長女はおにぎりとチャーシュー。 
 次女はなんとミートパイを作ってきた。
 姉はイチゴをたくさん。
 私はなぜか、おはぎを作りたくなり、朝から頑張ってきた。あんこは市販のものだけど。ゴマときなこと3種類。

 隣の男女がなぜかこっちをチラチラ見ていた。
 50歳くらいのおばさんと、高齢の痩せた男性。
 変なカップル。おばさんは着物姿。
 あれは見覚えがある……大島紬。母も持っていた。
 若い頃は苦労して、ようやく買えたが、1度も手を通さずに死んでしまった。
 親子なのか? 話もせずになにも食べずに、なんか影が薄い。

 私は普段は飲まない酒を飲み、咲き乱れる桜を見ていた。5人の孫が駆け回る。
 隣のふたりも見ていた。なにも喋らない。
 女性が人形を持っている。見覚えのある……
 あれは私が当時作っていた米山京子さんの手作り人形。
 何体も作ったが、人にあげたりしてひとつも残っていない。
 あの人形は見覚えがある。一番上手にできた。あの服の生地……あれは見覚えがある……

 孫たちが戻ってきた。
 イチゴを食べる。おはぎを食べる。
「おばあちゃん、おいしいね」
 母は小豆を煮ていたけどね。時間かかるのよ。スーパーの市販品でもおいしいね。北海道産の小豆だから。

 母のおはぎは大きかった。あんこはこんなにご飯が隠れるほどついてなかったけど、絶妙だった。ゴマがおいしかった。本のレシピとは違う。醤油も入ってたのかしら? 聞いておけばよかった。

 それにしても、隣の夫婦 (?)は食べるものもなくて……
 私はおはぎをふたつ紙皿に入れて孫に言った。
「隣におすそわけしてきて。どうぞって」
 孫は元気よく届けに行った。隣のおばさんの体を抜けて。もうひとりが割り箸を持って行った。男の体を通り抜けて。

 隣の夫婦は恐縮して受け取ってくれた。他人が作ったおはぎなど、嫌がる人もいるだろうに。
 孫にお菓子を渡したようだ。孫は喜び戻る。
 隣の男女は消えていた。

 ああ、久々に飲んだから、変なものを見た。
 あれは、母に着せた着物だ。棺に入れて、私が作った人形も入れた。

 姉が叫んだ。
「今日、おとうちゃんの命日だった」

 ああ、だから……
 お彼岸にも行ってなかった。


【お題】 お花見で隣になったら…
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