第7話

文字数 1,037文字

ぼ、僕には無理、です……
 夕食後、食器を片付ける際にそれとなく訊いてみたが、リオンの返事は色良いものではなかった。
周りの人が被害に遭うかもしれない、というのは理解できるよ。自分達にしか、できないことだということも……でも、それでも、僕には無理だよ……
 今にも泣き出しそうなほどに顔を歪めて応えるリオンを見て、ユウはそれ以上説得に足る言葉を用意できなかった。
――やっぱり栗根、来なかったか
そうみたいだな……

 時間ギリギリまで待ってみたが、やはりリオンは現れなかった。

 ミチルとダイキが待ちかねたとばかりに、沈黙の口火を切る。

ま~、案外ボクみたいになあなあで参加する可能性も捨てられないし?

そこまで気負わなくてもいいんじゃないかな~?

 ムツハの軽薄な物言いも、しかし筋は通っている。リオンの心中は誰にも分からない以上、どのようになるかは未知数と言えた。


 様々な思惑を抱えながら、夜の学校を望む静寂の中、リオンを除く寮生五人と音枝レンリが死神現象退治に繰り出す。
まあいいさ。頭数がそれなりに揃ったんだ。それだけで良しとしよう
 ミチルが先陣を切って、意気揚々と校門を乗り越えた。音枝レンリ曰く、防犯カメラも細工をしているらしかった。取り敢えず生活指導のお世話にならないことが確約され、少しだけ気持ちが軽くなる。
■■、■■■■……
 次々と校舎に乗り込んですぐ、亡霊めいた死神現象が飛んで火にいる夏の虫とばかりに襲い掛かってきた。しかし、新たに【ココロのウタ】を手に入れたチハツとダイキの敵ではない。緊張の中に自信をしかと握り締めて、一歩前に出る。
今回はあたし達もいるんだから、いい顔させないわよ!
本当、威勢だけはいいな。だからって無理すんなよ!
戦闘
ひゅう、やるじゃないか

 からかうようにミチルが賞賛の口笛を吹く。どうやらお眼鏡に適ったらしかった。


 緊張の糸が切れてその場に座り込みそうになる二人は、それでも膝に鞭を打つ。
まだまだぁ!

戦いのコツを掴まれて大変よろしいですが、探索はこれからです。

疲れたら教室に隠れて小休憩を取りますので、気兼ねなく言ってください。倒れられたら、元も子もありませんから

 バーチャルシンガーとしての認識に傾きつつあったが、言動はやはり教員のものだ。若々しい少女の外見に似つかわしくない硬い口調にはなかなか慣れず、ユウは図らずも顔をしかめた。今後、順当に慣れていくのだろうか……などと考えながら、ユウ達は死神現象が縦横無尽に闊歩する夜の校舎へと足を踏み入れた。
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登場人物紹介

君本侑(キミモト・ユウ)


 本作の主人公。

 両親揃っての急な海外転勤によって、寮生活のできる新瀬学園都市にやってきた。

音枝レンリ(オトエダ・‐)


 ただの担任教師……ではなく、非実在のバーチャルシンガー。

 ユウ達に正体不明の怪物・死神現象と戦う力、【ココロのウタ】を授ける。

伊東大来(イトウ・ダイキ)


 ユウと同じ寮生の一人。

 口調は荒っぽいが、お人好しで世話焼きな好漢。よく世話を焼くチハツとの言い争いが絶えない。

加上千初(カガミ・チハツ)


 ユウと同じ寮生の一人。

 いわゆるイマドキの女子高生で、青春第一主義なやかまし屋。

栗根理音(クリネ・リオン)


 ユウと同じ寮生の一人。

 物静かで温和なので、よくダイキとチハツの言い合いを止めに入っている。

鳴護未散(メイゴ・ミチル)


 ユウと同じ寮生の一人。

 クールな美貌に似合わぬ好戦的な気性の持ち主。

撫木睦羽(ナデキ・ムツハ)


 ユウと同じ寮生の一人。

 フェミニン趣味の男子生徒。軽薄な口調でよく人を煽る。

無弓時雄(ムユミ・トキオ)


 ユウの隣の席の生徒で、転校して初めての友達。

 女好きなごく普通の男子生徒なのだが、ある秘密が……。

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