下校後はそのまま寮へと直帰する気にもなれず、ユウはあてどなく学園都市を歩いた。
大型スーパー、ファッションビル、学習塾に帰路でにぎわう駅、学生寮を兼ねたマンションやアパート、新瀬学園の初等部、中等部、大学キャンパス……そのすべてが、有り体に言って普通だった。平々凡々。なにもかもが作り物とは思えず、チハツよろしく悪い冗談だと何度考えたことか。しかし町の最果て――橋の向こう側を見る気にはなれず、西日が地平線へと消える前に、すごすご寮へと帰ってきた。
玄関に入ってすぐ、リビング代わりに広がっている談話スペースに、チハツがいた。
ソファの上、膝を抱え込んで縮こまっている。明らかに普通の様子ではない。
チハツは町の外へと向かったのだ。あの大橋を通り、学園都市からの脱出を図った……しかし、それは叶わなかったのだろう。恨めしげに膝から覗かせた眼差しには、世界のすべてを憎んでいるような迫力があった。
見えない壁があって、それ以上先に行けなかった……チカとルリにも電話して、「偽物なんかじゃないよね? ちゃんと人間だよね?」って何度聞いてみても、「ごめん、よく聞こえなかった」の一点張りで……全部、あいつの言ったとおりだった……‼
泣いているのだろうか。声は震え、嗚咽でしとどに濡れていた。
悔しい……くやしい‼ 一瞬でも本気で信じて諦めかけた自分が、一番悔しい‼
あんたは、どうなのよ……聞いて、ショックじゃないの?
あたしは信じない。
どんなに証拠を揃えられたって、信じてやらない!
玄関が開く。音枝レンリがするりと体を滑り込ませると、チハツは掴みかからんとする勢いで詰め寄った。
あんたに言われたからじゃない! チカとルリが襲われたら嫌だから仕方なく、死神現象退治でもなんでもしてやるわよ!
食堂からダイキが顔を覗かせる。
手にはマグカップがあり、あたたかな湯気が立ち昇っているのが見えた。
へそ曲げてるから用意してたってのに、必要ないってか?
中身はホットミルクらしかった。膜もなく丁寧にあたためられたそれを、チハツはぐいっと一気に飲み干す。
口元を手の甲で乱暴に拭い、空になったカップを突き返すついでに問いかける。
誰かさんが危なっかしくて見てらんねぇからな。それに他にも世話が焼ける奴がいるかもしれねぇと思うと、寝覚めが悪ぃ。俺もやるよ
素っ気なくチハツは言い捨てたが、その実、切り返しは答えが分かっていたかのような爽やかさに溢れていた。
未散と侑も【ココロのウタ】持ちっていうんなら、あとは理音だけってことね
音枝レンリが、らしくないほどにおどおどと話を切り出す。
なんだろうと不思議がっていれば、理由はすぐさま判明した。
死神現象のこともありますから、妥当な判断だと思いますが……なにか?
……善処します。食べられないものを出すつもりはありませんから
調理の手伝いもしなければならないのだろうか……ダイキが頭を抱えたのがハッキリと見て取れた。