第4話

文字数 1,484文字

 翌朝は散々なものだった。
貴方達が――既に死んでいるからです
 なんかの冗談かと疑ったが、あまりにも深刻そうに蒼ざめた唇を震わせるのを見て、その疑念は払拭せざるを得なかった。
だってなぁ……

 図らずともぼやきも漏れる。なにせ、海外転勤した両親の顔を思い出そうとしても、モヤがかかったようにうまくいかない。音枝レンリは真実を告白しているのだと、馬鹿正直に信じる他なかった。


 そのような状態では安心して寝付くことも叶わず、寝不足気味になることも無理からぬ話だった。洗面所の鏡に映った顔の酷さに苦笑しつつ、身支度を整えたユウは朝食を摂ろうと食堂を訪れた。
…………あ
 そこには、今まさにトーストを頬張ろうと口をパカッと開けたダイキがいた。少しだけ足元が踏み固まるような安定感を得る。
ムツハは?

アイツ、半不登校だよ。去年は多少マシだったが、今はこの有様だよ。出席日数と試験の点数はどうにかしてるらしいが、こんな朝っぱらから出てくることの方が少ないな。そんなことがあったら雪でも降るんじゃねぇかな。


それに比べて、未散は朝早ぇんだ。もう朝飯食い終わってジョギングしてるよ

そう……

 ユウも席に着いて、手を合わせる。

 小さく頭を下げて食べ始めると、ダイキが話しかけてきた。

お前……ユウは音枝レンリの言ったこと、どう思ってるんだ?
どう、って……どうだろ……

 どうもこうもないのが実際といったところだ。

 信じられない話だが、さりとて音枝レンリが巧妙に嘘をついているとは思えない。かといって素直に信じられるかといえば、あまりにも現実離れしている。どっちつかずのまま、宙ぶらりんで朝を迎えたというのが現在の心境だった。

そうだよなぁ……信じるにしたって、自分が死んだ気ぃしてるかっつったら、そんなことねぇし……というか死んでる気分ってなんだかなぁ……。


それに、この学園都市の外はありませんってよ。そっちの方が信じられないかもな。チハツの奴は「渋谷も新大久保も行けないの⁉」って半狂乱だったし。昨日はなだめるのに苦労したわ

そうかも

そうか。まあ一番不自由を被るのはそっちかもしれねぇな。

まあ実際にデカいのは「死んでる」って方だけどよ

 とはいえ、新瀬は学園都市だ。衣食住が困らないレベルで賄える。学園都市の外がないのなら、それらがどこから補填されてくるのか疑問が湧いたが、考えても詮なきことだろう。

 とにかく、目下立ち塞がっている危機は、あの死神現象だった。

ダイキはミチルと一緒に死神現象退治、するの?
俺は分かんねぇけど、千初の奴はする・しないに関わらず、あの【ココロのウタ】ってのを手に入れてでも外出するだろうからな
チハツとはどういう関係?

あ? ただの寮生仲間だよ。

危なっかしくて見てらんねぇから、俺が勝手に世話焼いてるだけだ。変な誤解すんな。


ただまあ、千初を見かねて【ココロのウタ】ってのは手に入れるかもな……あとは自分の身を守るためにも

 揃って夜に外出していたとあって、よもや恋人関係かと思われたが、実際はそう甘い関係性ではないらしい。


 丁度よく静寂が漂ったところを見計らったかのように、バタバタという慌ただしい足音が沈黙を破った。

ね……寝坊したああああああああーっ‼
またか
また?
アイツ、寝坊の常習犯だよ。遅刻ギリギリでなんとかなってるけどな
なるほど

 チハツが洗面所と自室を行き来する喧噪をBGMに、ユウはもくもくと朝食を食べ進め、チハツが食堂に着席する頃には最後の一口も食べ切った。


 ……なにはともあれ、今日も学校に行かなければならない。学生の本業をまっとうするべく、余裕を持って寮を出発した。
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登場人物紹介

君本侑(キミモト・ユウ)


 本作の主人公。

 両親揃っての急な海外転勤によって、寮生活のできる新瀬学園都市にやってきた。

音枝レンリ(オトエダ・‐)


 ただの担任教師……ではなく、非実在のバーチャルシンガー。

 ユウ達に正体不明の怪物・死神現象と戦う力、【ココロのウタ】を授ける。

伊東大来(イトウ・ダイキ)


 ユウと同じ寮生の一人。

 口調は荒っぽいが、お人好しで世話焼きな好漢。よく世話を焼くチハツとの言い争いが絶えない。

加上千初(カガミ・チハツ)


 ユウと同じ寮生の一人。

 いわゆるイマドキの女子高生で、青春第一主義なやかまし屋。

栗根理音(クリネ・リオン)


 ユウと同じ寮生の一人。

 物静かで温和なので、よくダイキとチハツの言い合いを止めに入っている。

鳴護未散(メイゴ・ミチル)


 ユウと同じ寮生の一人。

 クールな美貌に似合わぬ好戦的な気性の持ち主。

撫木睦羽(ナデキ・ムツハ)


 ユウと同じ寮生の一人。

 フェミニン趣味の男子生徒。軽薄な口調でよく人を煽る。

無弓時雄(ムユミ・トキオ)


 ユウの隣の席の生徒で、転校して初めての友達。

 女好きなごく普通の男子生徒なのだが、ある秘密が……。

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