第10話
文字数 1,094文字
あまりにもタイムリーなトキオの話題に、午前中から図らずも溜め息が漏れ出そうになってしまった。変な呻き声を一つこぼして、ユウは曖昧に頷いた。授業開始前の世間話だ。少しくらい相談してもバチは当たらないだろう。
音枝レンリがこの世界の創造主である以上、どこまで実際にあった出来事なのかは分からないが、寮生のまともに出席している人数が同好会成立に必要な五人ぴったりである辺りは妙に真面目だなぁと、おかしな話だが感心してしまった。
ガハガハと豪快に笑うトキオを見ていると――ふと、チハツが言っていたことが思い浮かんだ。
死神現象は現実なのだろう――それはユウも体験した。だがいまだに、世界がこの学園都市だけなのだということが信じられなかった。チハツがそう選択したように、「無理に信じる必要はない」と、あの音枝レンリは言うだろうか。しかしこの学園都市を訪れて最初の友達は、どうしても存在を信じたかった。
トキオはきょとんとユウを見つめてから、一言。
伝え聞いていたものと違わぬ返答に、息が詰まる。かすかに指先が震える。
ただちょっと厄介な怪物が夜に蔓延っているだけの、それでも変わりないごく普通の現実なのだと――信じたかった。
それが瓦解していく静寂を聞き届けながら、授業開始のチャイムが鳴る。教卓に上がった数学教師が来週の小テストを宣告するが、ユウの心には一切響かない。
窓の外、胸がすくほど澄み渡った青空を眺めながら、音もなく涙が流れた。