第58話 原発の燃料を運ぶ車

文字数 688文字

 20歳の頃、年長の友達の家にイソウロウしていた。
 友達は、その日、いつ、高速道路のどこを、原子力発電所に運ぶ燃料を積んだ車が通るか、という情報を入手していた。
 早朝、私と彼、彼の子どもと3人で車に乗って、出発した。そしてその車を見つけ、後を追ったのだった。ぼくは免許を持っていなかったので、友達が淡々と運転した。

 見えてきたのは、そんな大きなトラックではなく、どこにでも走っているような軽トラのような車だったと思う。いや、もう少し大きかったか…
 しかし、そのナンバープレートの斜め上、荷台の背中に小さく、「どくろマーク」が貼ってあるのが見えた。
「荷物」、つまり核燃料を隠すように覆っているのは安っぽいブルーシートで、何でもないような縄で縛られているだけだった。

 その車がサービスエリアに入って停車したので、われわれも後を追って停車した。
 運転手が休憩する。缶コーヒーか何か買って、戻って来たのだったろうか。
 私の記憶にあるのは、友達が向けたガイガーカウンター(放射能測定装置)が80、90と不気味にぐんぐん伸びていったこと。そう、きっと、しっかり漏れていたのだ。
 そして彼が、クルマの運転手に、「子どもが産めなくなるよ、子どもが」と言っている姿だった。
 中年の男の運転手は、私の友達の「野次」を聞きながら、妙に愛想よく、にこにこ笑っている感じだった。同乗者はおらず、護衛の車もなく、この運転手がひとりでその荷物を運ぶのだ。

 出発時間になったらしく、原発の燃料を載せた車が発進した。
 私たちの「追っかけ」はそこで終わった。
 戻る途中、温泉に寄って、良く浸かってから家に帰った。
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