第102話 夏の木陰

文字数 297文字

 スーパーへ買い物に行く途中、陽射しが強かったので、木陰に入っていた。信号待ち。

 ああ、おれはもうダメなんだな、と思っていたら、知らないうちに、知らないおばちゃんが私の後ろに立っていたらしい。夏の木陰は、希少価値である。

 信号が青になったことに気づかず、まぬけのように立ち続けていた私に、彼女は「おはようございます、青ですよ、暑いですねぇ」とか笑って言いながら、私より先に歩き出していた。

 おはようございます、そうですねぇ、とか私も笑って言った。おばちゃんと私、数メートル、横断歩道を一緒に歩いた。また少し、私たちは何か話して、笑い合った。

 なぜだか、楽しかった。生きていて、よかったと思った。
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