第32話 小食偏食 

文字数 675文字

 幼稚園の給食が大嫌いだったけれども、小学校に行くようになってからも、私の給食ぎらいは続いた。いや、家でもほとんど食べていなかったらしい。もちろん死なない程度に食べていたのだろうが、きわめて少食だったらしい。背も小さく、やせた私を、兄は「ビヤフラの子」と呼んでいた。

 給食の「お残し厳禁」を命じた担任になってから、私は学校に行かなくなったと思う。牛乳を1瓶も飲めなかったし、食べ物は2、3口で胸がいっぱいになってしまう。揚げパンやビーフンのような、「軽い」物なら、まだ、少しは食べることができたが。

〈どんな美人でも、物を口にふくんで咀嚼すると、大抵おかしな顔になる〉

 中世の詩人がどう言おうと、私は、みんながもしゃもしゃと食べる、あの時間が苦痛だった。
 口に入れたら、それを飲み込まなければならない。口に入れることに、まず、非常な勇気が要った。そして噛み、最後の飲み込みの瞬間、うまく物が喉を通るのかも不安だった。私にとって給食の時間は、身体が極度に緊張し、心も固まってしまう、筆舌に尽くし難い、地獄のような時間だった。

 家でも、何か緊張していたような気がする。「皆と一緒に食べる」ということに、何か恥ずかしい感じがした。また、晩ご飯となれば、肉やら魚やら、「重い」物が食卓に並ぶ。麺類やデザートの果物なら、まだ食べられた気がする。ポテトチップスは大好きで、いくらでも食べられるような気がした気がする。

 この私の偏食少食は、中学を卒業して社会で働き始めて、自然に矯正された。働ける嬉しさと、ビールを覚えて気が大きくなったことが、大きく影響したと思う。
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