第40話

文字数 1,124文字

 心臓の鼓動が聞こえる。一体、どこに繋がっているのだろう。頂上に着けば、何か分かるだろうか……。僕は聖書に挟まれていた、メモを思い出した。主の箱船とは、この光のモヤの事なのか。

 この階段は一見、頂上まで果てしなく長く感じるのだが、一段上がると、まるでエレベーターで移動したかの様な錯覚を受ける程、高く上がる。

 ゆっくりと登り続けて、頂上の半分まで来たところで、不思議な膜が身を包んだ。

 白い影の様なものが僕に話しかけて来ている。

「乃夜くん……だよね? ようこそ、僕らの国へ」

「君は誰だい? ……もしかして」

 その白い影は、ふよふよと漂っていた。

「うん、君の考えている通り、人間からは、天使と呼ばれている存在だよ。ここがよく分かったね。君をここで、ずっと待っていたんだ」

 これが天使……姿は見えないけれど、とても暖かい。僕に何の用なのだろうか?

「このまま、頂上に向かえば、確かに楽園が君を待っている……。でも、君にはまだ、やり残したことがあるんじゃないのかい?」

「……やり残したこと?」

 その天使は静かに微笑みながら、話してくれた。

「星羅さんを助けたくはないのかい?」

 ……え?

 星羅さんを助けるって、一体どういうことだ? この天使は……。僕はただ黙って、次の言葉を待っていた。

「……星羅さんは悪魔なんかじゃない。あれは、アバドンのイナゴに刺されただけなんだ。イナゴに刺されると、人は性格が豹変してしまう。それで彼女は人が変わった様に、君には見えただけさ」

「で、でも助けるって言ったって、そんな方法があるんですか?」

「うん、ここのすぐ隣に別の入り口がある。ここは、過去へのワームホールへと繋がっていて、研究会を開いた頃の時代に行くことができる。つまり君は今から、やり直しをすることができる訳さ」

 そ、そんなことが……でも。

「そうすると、今の時代の星羅さんは? 今の時代の彼女は悪魔のままなんですか!?」

 すると、その天使は僕を見つめながら笑って言った。

「ふふふ、大丈夫。天使をあまり舐めないで欲しい。この時代の星羅さんもきっとなんとかしてみせるさ」

 僕は、感動のあまり言葉が出てこなかった。そうか、そうだったんだ。やり直しができる。これで、僕の使命が分かった。

「わ、分かりました。何とかやってみます」

「ふふ、頑張るんだよ」

「それとね……」

 ――僕のメモは役に立ったかい?

 !!

 そうして、その天使は僕の前から去って行った。

 ……今から研究会に行って、あの四人をイナゴから刺されない様に止める。使命が分かった今、僕に躊躇(ためら)うことなんて何もない。

 僕は白く輝くワームホールに直面する。

 振り返って、未来の僕に言った。

「行って来ます」

 ――行ってらっしゃい。
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