第34話

文字数 1,139文字

 とんでもない世界に来た。こんな場所で、僕に何が出来るのだろう? 星羅さんは黙って僕の手を握り返して来る。

「星羅さん、妻だなんて嘘をついてごめんね。その方が都合が良いかと思ったんだ」 

「いいの、乃夜くんの気持ち、分かってるから」

 このアジトを紹介してくれた、男性は僕らに個室を用意してくれた。

 それにしても、ここは暗い部屋だ。電気が通ってない分、そう思うのか。暗い中で光るランプの火が、心を落ち着かせてくれた。

「テレビと霊界が繋がっているというのは本当だったんだね。埴輪の様なものに、テレビジャックをされた人類は、滅ぼされようとしているんだ」

「絵が話す様になったって何のことなの?」

「僕にも分からない。でも、そんなことが可能だとしたら、色々応用できそうだよね」

「乃夜くん、実はさっき、不思議なものを見たの」

「不思議なもの?」

「ええ、外に埴輪の様なものが飾ってあったのよ。あの廃墟となった街でね。なんかこちらを睨んでいる気がしたの」

「なんだろう。もしかしたら、その埴輪が喋ったりするんだろうか」

「うん……」

 そんなことが可能なら、それはまさしく獣の像だ。絵が物を言うことが可能なのだから、彫像から声がしても不思議ではない。

 まるでフィクションの様な話だ。東京は、偶像の街になってしまったのだろうか。

「しばらく、ここに匿って貰おう。匠たちもここに来ているかも知れない。油断はできない」

「ええ……」

 しばらくして彼女は疲れ切ったのか、寝てしまった。スマホが使えないことを確認すると、僕は諦めて空想に耽ることにした。

 あれは、神の声だったのか……。天草四郎になってみなさい。前に星羅さんが言ったことが気になる。妙な声がするとか言っていた。確か、こちらに来てあなたは救世主になってみないか……。アバドンの世界からの声だとするとあの声は神などではない。しまった……まんまと一杯食わされたかも知れない。あんな動画を見てしまったばかりに。

 あの声はアバドンだったのか? 確証はなかった。でも、こんな世界に果たして神は来いなどと言われるだろうか。

 この世界から抜け出して、元の世界に帰るにはどうしたらいいんだ。

 救世主になってみなさいか……そんなことになったらきっと、偽キリストにでも、祭り上げられるに決まっている。そんなことはご免だ。

 そうだ、この時代の情報を集めないといけない。何か方法はないだろうか? 本屋に行ってみるか……。流石に営業してはいないにしろ、情報は得られるはず。

 僕はアジトの仲間に事情を話し、了承を得る。

「そうかい、でも外はまだ危険だ。それでも出たいなら、防護スーツに、ガスマスクだけは付けて行ってくれよ」

「はい、ありがとうございます。感謝します」

 僕はもう一度、外に出た。
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