第38話

文字数 1,175文字

 無人の荒野を歩いていく。メモによれば、時間が止まるまでに、移動しておいた方がいい様なことが書かれていた。 

 場所も指定されている。まずは、ここに向かった方がよさそうだ。

 僕は埴輪に遭遇しない様にしないと……。もう一度、接近でもしたらアウトだ。僕は見つからないように周辺を警戒して歩いた。

 少なくとも首都から離れれば、この景色は無くなるはずだ……頑張るしかない。

 とりあえず、西東京の八王子周辺まで歩いて行ければ大丈夫そうだ。僕は本屋から持ってきた地図を確認する。距離的には40㎞程だろうか。

 一日で歩いていければいいんだけれど……。体力に自信のなかった僕は、ジムにでも通っておくのだと後悔する。

「ん? あれは何だ」

 少し遠くに、自転車置き場が見えた。

「そ、そうか、自転車に乗って行けばいいんだ」

 僕は、原爆と聞いて昔のことしか思い出せずにいたが、今は令和なんだ。当時とは違う。神様ありがとう……と僕は心の中でお礼を言った。

 僕は手頃な自転車を選び、乗車した。鍵が掛かっていないものがあって助かった。しかもこれはロードバイクに近い車種だ。よ、よかった。

 何でもやろうと思えば、なんとかなるものなのだ。息を吹き返した僕は、八王子へと向かった。

 ――。

「乃夜のやつ……現代から離れたのか? 長崎から消えやがった」

 賢一は、匠とコンタクトを取った。乃夜がどこにもいないと連絡を受けた、匠は顔をしかめる。

「そんなことってあるのか? ちゃんとよく調べたのか?」

「隅から隅まで調べたさ。俺を疑うのか?」

 匠は考えた。消えたとして一体どこに?

 ワームホールに墜ちたという連絡も受けてはいない。星羅とは連絡が付かないし、訳が分からない。

「一度、本部と連絡を取ってみろ。このままじゃ俺らは、ペナルティーの処分を受けるぞ」

 賢一はそれを聞いて、焦り始めた。

「わ、分かっているさ」

「賢一、長崎には居ないとすると、あいつ、もしかしてどこか他の時代にでも行ったんじゃないのか?」

 賢一は匠が何を言っているのか分からないといった様子だった。

「とりあえず、本部に報告しておくよ」

「分かった」

 通信はそこで切れた。

 ……星羅が裏切ったか。考えられるパターンはそれしかない。やれやれ、困ったことになった。あの二人が手を組まれたら、使命どころではないな。

 ……。

 僕は息を切らしながらようやく、八王子に到着した。

 やはり、この辺は原爆の被害が薄い。丘陵が多いせいか助かったみたいだ。

「すると、僕が行っていた下柚木キリスト教会も無事かも知れない」

 れ、礼拝ができるのか。あの兄弟姉妹と会えるのだとしたら、どんなに嬉しいことだろう。

 僕は流行る気持ちを抑え、教会へと向かった。

 多分、こんな時だ。礼拝日でなくても、開け放たれているに違いない。

 僕は最後の力を振り絞り、自転車を漕ぐのだった。
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