第47話

文字数 1,500文字

 ――患難時代の幕開け。

 終わりの日が近づいた。大学を卒業した僕たちは、反撃に繋がる糸口を掴んでいた。

 遂にアバドンの星が世界に落ちたのだ。

 災いは北から来るというのはよく言ったものだ。

 アバドンというのはやはり宇宙からだった。衛星アンテナ。そこから奴らは攻撃を仕掛けてきたのである。衛星放送とは、上空約36,000㎞にある人工衛星を利用し、そこから発信される電波をそれぞれの自宅、テレビなどで直接受信して視聴することができる放送形態だ。

 恐らく誰もが見たことのある白いパラボラアンテナは、この衛星放送を受信するためのアンテナである。

 地上波放送というのは文字通り地上に設置してある多くの中継局を利用して電波を送信するシステムで、根本的なフィールドが違う。

 地上波放送は高低差や遮蔽物に弱く、たくさんの中継地点を設ける必要があるのに対し、衛星放送はたった一つの衛星で日本列島全土を網羅して電波を送ることができる。

 空から送信してくるわけだから、山や島、盆地などといった地形の問題など全くお構いなしに放送することができる訳である。

 2025年を皮切りに、その利便性において認められ、各家庭にパラボラアンテナが目立つ様になってきた。

 このとき、既に僕らは気づいていた。宇宙からの電波ジャックによる、霊絵や霊図の台頭の予感に。

「アバドンというのは宇宙人だったのだろうか? 衛星から電波を送って、僕らを混乱させていたのかと思うとやりきれないね」

「ええ、このときの為に私たちは密かに行動を起こしていたのだから、いつの日か感謝されなくてはいけないわね」

「でも、一体誰に感謝されるんだろうね」

 僕は苦笑する。匠たちの方はうまくやっているだろうか。まだ、霊絵や霊図は登場していない。だから、まだ間に合うと思うのだが、このまま衛星放送による電波ジャックが進むと、世界中は大混乱に襲われることになるだろう。

「霊界というのは宇宙にあったのか。亡くなって星になるというのはよく言ったものだね」

「その宇宙にある星から、密かに電波を送っていたのね……。そう、ここまでアンテナが増えているということは、乃夜くんが見に行ったという患難時代がそこまで近づいたと言って間違いないのね?」

「ああ、それで合っていると思う」

「このあと、悪魔と呼ばれる存在が、衛星をジャックしてテレビというものを使い、世界中を大混乱に陥れるんだ」

「悪魔って怖いことを考えるのね」

 僕は衛星放送について一から考えた。

 例えば、中国は一部の宿泊施設を除き、衛星放送を禁止している国だ。衛星放送の危険性について察知していたのかも知れない。あの国らしいと言えばらしいけれども。

 他の国を考えてみても、アメリカでは,地上波局は現在、ABC、CBS、CW、FOX、NBCの5局しかない。ほぼ全ての放送を宇宙から受信している訳である。インターネットなども、衛星から受信する時代が来ている。さらに、衛星携帯電話などというものも現れだした。

 もし宇宙からの侵略が来たら、人類は一溜まりもないだろう。

 この危険性にいち早く気づいた僕らは、とある行動を起こそうとしていた。

 独自の地上回線の使用だ。

 衛星の力に頼らない、地下施設でも使用可能な、ローカルネットワーク。LAN(ラン)を開発したのだ。

 LANとは、限られた範囲内にあるコンピュータや通信機器、情報機器などをケーブルや無線電波などで接続し、相互にデータ通信できるようにしたネットワークのことだ。概ね室内あるいは建物内程度の広さで構築される。

 僕らはこれを使い、クリスチャンだけが通信を行える、クリスチャンネットワークを作ったのだ。
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