第56話

文字数 1,229文字

 クリスチャンコミュニティの利用者数は千人を超えた。それが僕らにできる精一杯のことだった。

 一度、患難時代で経験した霊図による人間狩りが始まり、それを食い止めることはできなかった。

 テレビを利用した霊界を繋げるワームホール。

 ただ、僕らは確かに人々を守れたのだ。千人という数を多いと取るか、少ないと取るかは後世の判断によるだろう。

 前期による患難時代の終わり。そしてまた、後期の患難時代が始まる。この時代を生き残ることは決してできない。

 みるみるうちに腐敗は進み、地上の様子はまさに世紀末と呼べる光景だった。

 僕は果たしてこの時代で何ができたのだろうか。

 僕は星羅さんに当時の状況を語る。

「あの時代はまさに悪魔による善人への迫害だったね……。でもね、悔いはないんだ。星羅さんをイナゴから守れたのだから」

 星羅さんは微笑んで僕に言った。

「ええ、こうしてあなたと無事に楽園に来られたのだから私には何も不満はないわ。匠くんたちも大丈夫だったし、何も後悔することなんかないじゃない」

「そうだね、楽園は心の中にあったんだね。それに気づかないなんて僕もまだまだだなあ」

「ふふ、イエス様も心の中にずっと居たのよ。乃夜くんは気づかなかったかも知れないけれど、私は気づいていたわ。でもびっくりね。携挙が起こった瞬間、イエス様が心の中に呼びかけてくれた時は……」

「ああ、まさか本当に時間が止まって、楽園まで導いてくれるなんてね。地上は預言通り滅びてしまったけれど、こうしてこの第二の地球でもう一度やり直そう」

 人間も死んで生まれ変わる様に、地球も死んで生まれ変わった。そして、その度に強くなっていく。言うなれば寿命だったのだ。あの僕らが生まれて来た地球は。

 どちらにしろ、人口増加による資源不足。自然破壊による温暖化などで人類は生き残れやしなかっただろう。

 結局、人間の力だけではどうにもならないこともある……。だから人間は神の力に頼るしかないのだ。

 僕は精一杯頑張った。だが、果たして自分の使命を全うすることができたのであろうか?

 人類は何千年にも渡り、幾多に及ぶ不幸が続いてきた。それはつまり、一切のもの。全ては苦しみなのではなかろうか?

 苦しい人生だからこそ、神を信じて生きていかなければならないのだ。

 神は弱者に寄り添ってくださる。

 なんで僕はこんな世界に生まれて来たのだろう?

 なんで僕だけにこんな不幸が降り注ぐのだろう?

 いや、全てのものは元を辿れば誰も彼もが不幸なのだ。そう、だからこそ平等なのである。

 まあこの際、考えるのはよそう。

 この楽園でこれから第二の人生が始まるのだから。

 これから僕らの楽園期が始まる。

 それは素晴らしい未来であるに違いない。

 終わりではなく始まりなのだ。

 ――。

「呼んでみよ、あなたに答える者がいるかどうか。聖なるものをおいて、誰に頼ろうというのか」ヨブ記5章1節。
              
                 fin
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