第13話 うそ~ん。いや~んな展開!?
文字数 7,820文字
「浩太。二人に会うの一年振りくらいでしょ。あんた行こうって誘っても断ってばっかりなんだから」
浩太と並んで歩いていた浩太の母親が嬉しそうに言った。浩太と浩太の母親は一緒に浩太の受けた大学の合格発表を見に行った足でそのまま居酒屋いや~んに向かっていた。居酒屋いや~んを出たあの日から浩太は人が変わったように受験勉強に打ち込んだ。受験の為だけに頑張り続ける日々の中で何度も居酒屋いや~んに行こうと母親に誘われたり何度も居酒屋いや~んに行って創元さんや竜子ちゃん、あわよくば天竜にも会いたいと思った事があったが浩太は試験が終わるまでは絶対に居酒屋いや~んには行かないんだと固く心に決め居酒屋いや~んにはあの日以来一度も行ってはいなかった。
「さあ、着いたわ。今日は飲むぞ~。おー」
居酒屋いや~んの前に着くと浩太の母親のテンションが急上昇し浩太の母親がはしゃいだ声を上げた。もう母さんったら恥ずかしいからやめてよと浩太が言おうとすると居酒屋いや~んの入り口の扉がさっと開いた。
「あら~。やよちぇ~ん。待ってたわよ~」
中から出て来た創元が体をくねくねと激しくくねらせつつぴょんぴょんと飛び跳ねながら物凄く嬉しそうに言った。
「創元さん」
浩太は創元の姿を見るとうわー久し振りの創元さんだ。やっぱりオカマだー。キャラ濃いなーと再会を喜びつつ声を掛けた。
「あら? この子誰? やよちぇんの知り合い?」
急に素に戻った創元が冷たく言い放った。
「え? 創元さん?」
浩太はがつんと頭に鈍器か何かで強烈な一撃をもらったような衝撃を受けながら呆然としつつ言葉を漏らした。
「創ちゃん。許してやってよ。この子頑張ったのよ。この一年ずっと勉強してたんだから」
浩太の母親が優しい声で言いながら浩太の頭を撫でた。
「そんな事言ったって。あたくしだって、辛かったのよ。いつでも来てって言ったのに。電話くらいくれても良かったじゃない。もう~。浩太ちゃんの馬鹿~」
創元が言いながら浩太に抱き付こうとした。
「ちょっと、創ちゃん。母親の前でそういうのはやめてくれる」
浩太の母親が言うが早いかさっと浩太を創元の前からどかした。
「ふへ? 何よやよちぇん。なんで邪魔するのよ?」
創元が信じられないといった顔で浩太の母親の方を見ると酷く悲しそうな声で言った。
「創ちゃん。オカマに抱き付かれそうになってる息子を助けない母親なんていないと思う」
浩太の母親が悲しげな声でそう告げた。
「そんな。やよちぇん酷い。差別よ。そんな事言うならあたくしにだって考えがあるわ」
創元が悲しそうな声で怒ったように言った。
「母さん。創元さん。喧嘩しないで」
浩太が言うと浩太の母親と創元が二人揃って浩太の方に顔を向けた。
「母さんショックだわ。母さんの方を応援してくれると思ったのに」
浩太の母親が顔を俯けながら酷く落ち込んだ声を出した。
「あたくしもやるわね。もうやよちぇんと並んだって事ね」
創元が微笑みながら嬉しそうに声を上げた。
「おい。お前ら店の前で何をやってるのじゃ。早く中に入れなのじゃ」
竜子の声がしたと思うとすぐに竜子が店の中から出て来た。
「竜子ちゃん」
浩太は竜子の姿を見ると大きな声を上げなら竜子の傍に行った。
「おー。浩太。久し振りなのじゃ。元気にしてたか?」
竜子が嬉しそうに言いながら浩太に抱き付いた。
「うわっ。竜子ちゃん。ちょっと。あの。駄目」
「ついつい抱き付いてしまったのじゃ。許すのじゃ」
浩太の言葉に竜子がそう言って応じながら浩太から離れた。
「ちょっと。竜子。あたくしを差し置いてなんなの」
創元がぷりぷりと怒りながら言いつつ浩太達の傍に来た。
「まあ、創ちゃんよりは竜子ちゃんの方が良いけど、なんかこういうの見てると嫉妬しちゃうわね」
浩太の母親もそんな事を言いながら浩太達の傍に来た。
「母親の心は複雑なのじゃな。まあとにかく中に入るのじゃ。宴会の用意はできてるのじゃ」
竜子がそう言うと店の中へと誘うように右手を店の中に向かって伸ばした。
「やあ。浩太君。久し振り」
店の中に入るとすぐにスーツ姿の早川さんが声を掛けて来た。
「早川さん? どうしてここに?」
「天竜さんのお陰だ。こっちの世界に早川が残れるようにしてくれたんだ」
「浩太君~。お久し振り~。元気だった~?」
浩太が酷く驚きながら言うと早川さんの背後からホーマとギネカがそれぞれに言葉を出しつつすすっと歩み出て来た。
「ちょっと、創ちゃん。誰あれ。あの子も浩太の知り合いなの?」
ギネカを見た途端に浩太の母親が勢い込んで創元に聞いた。
「凄いでしょ~。そう言えば浩太ちゃんあの子の胸を揉もうとしてた事があったわね」
創元がからかうように嬉しそうに言った。
「何よそれ~。この前来た時ああいう子がいる事もそんな話も全然教えてくれなかったじゃない。ちょっと創ちゃんこっち来て。二人でさっさと始めるわよ。ここにいる間に浩太に何があったのか全部話すまで許さないから」
浩太の母親が語気を荒げて言い創元の腕を取ると店の奥の方にあるテーブル席に向かって創元を引っ張って行った。
「浩太ちゃ~ん。また後でね~」
創元が浩太の母親に腕を引かれ歩いて行きながら浩太に向かって悲しそうな声で言った。
「はい。後で。一年分の話をしましょう」
ちょうど早川さん達との再会の挨拶を終えた浩太は、うわー、母さんって飲みに来るとこんななんだとなんともいえない複雑な気持ちになりながら言葉を返した。
「浩太。こっちはこっちで始めちゃうけど、あんたは皆にちゃんと合格発表の事言うのよ」
奥の方にあるテーブル席の椅子に座った浩太の母親がまだ何も注がれていない空の大ジョッキを片手に持ちながら急に思い出したように言った。
「ちょっと。やよちぇん。やっぱりあたくしもあっちに行きたいわ」
創元が懇願するように言うと浩太の母親の傍から離れようとした。
「駄目よ。全部話すまでは浩太には近付けないから。早く座って」
浩太の母親が怒ったように言い創元をじろりと睨み付けた。
「いや~んもう。やよちぇん酷い~。浩太ちゃん。ごめんね。こっちから聞いてるわ」
創元が泣きそうな声で言いながら観念したように椅子に座った。
「はい。創元さん。聞いてて下さい。あの。今から皆に話したい事があります」
浩太は後で母さんの代わりに創元さんに謝っておいた方が良いのかなと思いながら全員の顔を見つつ言った。
「ちょっと待つのじゃ浩太。皆、酒を持つのじゃ。浩太の話が終わったら乾杯するのじゃ」
竜子が言うと皆がテーブルの傍へ行き空のコップにビールを注いで手に取った。
「はい。浩太君はビールよりもこっちかな?」
早川さんが浩太の所に梅酒のソーダ割りの入ったコップを持って来てくれた。
「ありがとうございます」
浩太がコップを受け取りお礼を言ってから軽く頭を下げると竜子が浩太こっちじゃ、この椅子の上に立つのじゃと言ったので浩太は言われるままに竜子が用意していた椅子の傍に行くと靴を脱いでその上に立った。浩太が椅子の上に立つと竜子がさあ浩太話すのじゃと言った。
「俺、無事に大学に受かりました!!」
浩太は創元達と再会できた喜びと大学に受かった喜びとを全身で噛み締めるように叫んだ。皆がおめでとう。良くやった。頑張ったと口々に言った。その言葉を聞いた浩太は感極まり目から涙がこぼれ出て来てしまったので慌てて皆に見られないようにと思い後ろを向いた。店の奥の方を向く格好になった浩太は母親と創元の姿を見て駄目だこれじゃどこを見ても誰かしらに見られちゃうと思うとそうだ上だ上を向こうと閃き上を向こうとした。
「はっ!? あれは!?」
上を向こうとした浩太だったが店の奥の厨房へと入る入り口の所で虹色の光りが動いたの見た気がしたので思わずそう口走り厨房へと入る入り口の所をじっと見つめた。
「竜子ちゃん。天竜来てる?」
浩太は涙を皆に見られないようにしていた事などすっかり忘れ厨房へと入る入り口の所を見つめたまま竜子に聞いた。
「さ、さあ、なんの事じゃろうな。わしは、わしは何も知らないのじゃ」
竜子が急にしどろもどろになり動揺しているような声音と口調で言った。
「竜子ちゃん? 何その反応?」
浩太は竜子の方に顔を向けながら聞いた。ああ忘れてたのじゃ。ちょっとわしはトイレなのじゃと竜子がわざとらしく大きな声で言うとその場から離れ厨房の方に向かって走って行って姿を消してしまった。浩太はなんだ? 竜子ちゃん急にどうしたんだ? と思いながら今度は早川さんの方を見た。
「早川さん。天竜来てますか?」
浩太が言うと早川さんが私に聞くかという顔を一瞬し、しばし迷うように視線を宙に彷徨わせてから小さく頷いた。
「来てる。だが、浩太君。会っちゃいけない」
早川さんが浩太の傍に来ると浩太の目をじっと真剣な眼差しで見つめながら言った。
「どうしてですか?」
浩太は椅子から下りながら叫ぶようにして聞いた。
「それは、ええっと、なんと言うか」
早川さんが歯切れ悪く言った。浩太は靴を履きながらきっと天竜は厨房にいるんだ、直接天竜の所へ行こうと思った。
「いや~。浩太君がいきなり椅子から飛び下りて駆け出したりしなくて良かったよ」
早川さんが言いながら安堵の息を漏らした。
「すいません。今から駆け出すつもりです」
浩太はそう言って駆け出そうとした。
「駄目だ。待て」
「浩太君~。ごめんね~。天竜さんの傍には~行かせられないの~」
ホーマとギネカが言いながら傍に来ると浩太の行く手を遮るように浩太の前に並んで立った。
「なんですか? どうして邪魔するんですか?」
浩太は皆の様子が急に変になった。一体何があるっていうんだ? と思いながら聞いた。
「あたくしが話すわ」
創元が真剣な口調で言いながらホーマとギネカが並んで立っている間に入って来ると浩太の前に立った。
「ちょっと創ちゃん。まだ話し終わってないわよ。それに何? 天竜って誰?」
浩太の母親がそう言いつつ創元の後ろから顔を出した。
「やよちぇん。ちょっとごめん。浩太ちゃんと二人で話して良い?」
「何よ~。母親に言えない話なの?」
創元の言葉に浩太の母親が唇を尖らせながら応じた。
「母さん。俺の大事な人の事なんだ。俺、ここにいる時に好きな人ができたんだ」
浩太が言うと浩太の母親が酷く驚いた顔をしてからしょんぼりした顔になった。
「あ~。そう。そっか。そんな風に母さんに言うほどに好きな人がねえ。そう。浩太も大人になっちゃったんだね。創ちゃん。一人で飲んでるわ。話が終わったらこっち来て」
浩太の母親が急に今までの勢いをなくして寂しそうにそう言うとくるっと踵を返し座っていた席に向かって歩き出した。
「母さん」
浩太は母親の寂しそうな様子が気になり声を掛けた。
「後でちゃんと母さんにも話してよ」
浩太の母親が歩みを止めて振り返ると優しく言った。
「母さん。ありがとう」
浩太が言うと浩太の母親がうんと言って頷きまた踵を返した。
「やよちぇん。話が終わったらすぐ行くわ。待ってて」
創元が浩太の母親の背中に声を掛けた。
「創ちゃん。できるだけ早くよ。すぐよ」
浩太の母親が振り向かずに歩きながら嬉しそうに甘えるように返事をした。
「じゃあ、浩太ちゃん。これから話すけど、浩太ちゃんにとってかなり衝撃的な話になると思うわ。気をしっかり持って聞いて」
創元がこれでもかというくらいに真剣な声音と口調で言った。
「そんな、話なんですか? 俺、嫌われましたか? もう俺には会いたくないとか?」
浩太は泣きそうになりながら言葉を出した。
「違うわ。そういう話じゃないの」
「じゃあ、俺の事、まだ好きって事ですか?」
創元の言葉を聞いて浩太は思わず叫んでしまった。
「浩太ちゃん。落ち着いて聞いて。好きとか嫌いとかそういう次元の話じゃないの。本当はもっと早くに言っておくべきだったんだけど、ごめんなさい。どうしても言えなかった。浩太ちゃんと天竜ちゃんが会わない間にあわよくば浩太ちゃんが天竜ちゃんの事を諦めてくれればなんて思ったりしてしまってた。けど、浩太ちゃん、まだそんなに天竜ちゃんの事を好きなのね」
創元が言い終えると深い深い溜息をついた。
「何があるんですか? 天竜が実は病気だったとかですか?」
浩太は実は天竜が不治の病に罹っていて余命僅かとかだったらどうしようと唐突に思って先走ると先ほどよりも更に泣きそうになりながら聞いた。
「違うわ。大丈夫よ。天竜は怪我も病気もしてないわ。元気にしてるわよ」
創元の言葉を聞いて浩太は胸を撫で下ろした。
「良かった。病気じゃないんだ」
浩太が言葉を漏らすと竜子が不意にたったったったっと厨房の方から走って戻って来て浩太の傍に立ち口を開いた。
「浩太よ。今からでも遅くはないのじゃ。わしに乗り換える気はないか? わしはそれでも全然構わないのじゃ。そもそもお前、天竜の事そこまで好きじゃなかったじゃろ」
浩太は言い終えた竜子の顔をちょっと動揺しながらじっと見つめた。
「竜子ちゃん。またそういう事言う。俺、もう竜子ちゃんに抱き付かれたりとかしたとしても心を揺らしたりしないよ。天竜に会えない日々が俺の気持ちを強くしたんだから」
言い終えてから竜子ちゃんって本当に俺の事好きなのかな、と思うと浩太はちょっともったいない、いやいや、申し訳ない事をしてるのかも知れないと思い目を伏せた。
「ふ~ん。心~揺れないんだ~」
浩太がこの声はギネカさん? と思った瞬間に浩太の体に物凄く柔らかくそれでいて張りがあり恐ろしいほどに肉感的な二つのボリューミーな物体が押し付けられた。
「う、うおおおお。こ、この感触は~。まさか~」
浩太は思わず絶叫してしまった。
「どう~? 心~揺れた~?」
ギネカが二つの目の中にある透き通るような美しい碧眼で浩太の顔を見つめつつ浩太を抱き締め腕にぎゅぎゅっと力を入れ更に胸を押し付けながら嬉しそうに言った。
「ゆ、ゆ、ゆ、揺れてましぇん」
浩太は揺れてる~、俺の心ぐらっぐらだ~と思いながら動揺も露わに言った。
「ちょっと待つのだ。この展開はいくらなんでも酷いのだ」
突然、そんな天竜の声がしたと思うと天竜が厨房の方から走って出て来た。
「うわっ。天竜。違うんだ。これは、これは、事故。そう。事故なんだ」
浩太はギネカから慌てて離れようと思い両手でギネカの体を押した。
「あ~ん。浩太君~。そんなに~押しちゃあ~駄目~」
ギネカが艶っぽい声を出した。
「うわー。うわー。すいませんすいません」
あろう事か浩太はギネカの胸をぐいぐいと押してしまっていた。
「わざとなのじゃ」
「わざとよね」
「わざとだな」
「浩太君。羨ましいぞ」
竜子と創元とホーマと早川さんが口々に言った。
「桜花浩太。何をしてるのだ。今すぐに離れるのだ」
天竜が浩太の傍に来ると浩太の体を背後から掴みギネカから引きはがした。
「いや~ん。天竜。そんなに引っ張らないで~」
浩太の耳にそんなオカマが言っているような言葉が飛び込んで来た。
「え~? 何? 今の、あーしが言ったの? え? ええ? あーしって何?」
オカマ言葉は浩太の口から出て来ていた。浩太は今まで生きて来た人生の中でこれ以上はないというくらいに驚きながら叫びつつ自分の体を見回し自分の体のあちこちを確かめるように触った。
「始まってしまったのね」
創元が悲しそうな声を出した。
「すまないのだ。つい出て来て触ってしまったのだ。余が悪かったのだ」
天竜が泣きそうな声で言いながら浩太から手を放すと脱力してその場に座り込んだ。
「浩太。落ち着くのじゃ。大丈夫なのじゃ」
竜子が近付いて来るとそう気遣うように言い浩太の両肩に両手を乗せた。
「竜子ちゃん。あーしどうなっちゃってるの? オカマになっちゃったの?」
浩太は体をくねくねさせながら正面に立っている竜子の顔をすがるような思いで見つめつつ叫んだ。
「浩太ちゃん。あたくしが話したかった話っていうのはそのオカマ化の事よ。あたくしもそうなの。昔はこんなじゃなかった。テイカーになってからこんな風になってしまったの。男がテイカーになるとオカマ化、いえ、女性化して行ってしまうのよ。それも契約相手の竜と一緒にいると物凄い速さ女性化が進んで行ってしまうの。しかも心だけなの。体は女性化しないのよ。悲しい事にね」
創元が悲劇のヒロインが独白をしているかのように大げさな身振り手振りを交えながら告げた。
「うそ~ん。そんな。ここまで育てた息子がオカマ化だなんて。ふ~」
浩太の母親が不意に絶叫したと思うとテーブルに突っ伏すようにして気を失った。
「いや~ん。母さん」
浩太は叫びながら竜子の傍から離れ母親の傍に行こうとして駆け出したがあーしがこんなままだとまた母さんがショックを受けてしまうかも知れないと思うとその場で足を止め、それ以上進む事ができなくなった。
「こんな事態になるなんて。浩太ちゃん。ごめんなさい。あたくしの考えが甘かったわ」
創元が言いながら深く浩太に向かって頭を下げた。
「余が悪いのだ。余が出て来たりしないであのまま隠れていれば良かったのだ」
天竜が座り込んだまま放心したように前を見つめながら言った。
「二人の所為じゃないわ。しょうがない事なのよきっと。でも、でも。もうこんなのどうすれば良いのよ~。あーし困っちゃう。いや~んもう」
浩太はこれでもかと体をくねくねとさせながらこの状況とこれからの事に対して絶望しつつ叫んだ。
「浩太。諦めるななのじゃ。頑張って生きるのじゃ。今までだって諦めずにやって来たのじゃ。また頑張り始めれば良いのじゃ」
竜子が再び傍に来てまた浩太の肩に手を乗せると浩太の肩をぎゅっと掴み強い意志のこもった口調で言った。
「竜子ちゃん」
竜子の名を呟いた浩太と竜子は見つめ合った。
「は!? なんなのだ。なんか竜子と桜花浩太がおかしなムードになってるのだ。許せないのだ」
我に返った天竜が浩太と竜子の間に飛び込んで来ると二人を引き離そうとした。
「ああ~ん。駄目~。また女性化が進んじゃうぅ」
浩太は、諦めない。絶対にあーしは頑張って生きるわよ竜子ちゃん。けど、だけど、今だけは落ち込ませてっ。と思ったのだった。
浩太と並んで歩いていた浩太の母親が嬉しそうに言った。浩太と浩太の母親は一緒に浩太の受けた大学の合格発表を見に行った足でそのまま居酒屋いや~んに向かっていた。居酒屋いや~んを出たあの日から浩太は人が変わったように受験勉強に打ち込んだ。受験の為だけに頑張り続ける日々の中で何度も居酒屋いや~んに行こうと母親に誘われたり何度も居酒屋いや~んに行って創元さんや竜子ちゃん、あわよくば天竜にも会いたいと思った事があったが浩太は試験が終わるまでは絶対に居酒屋いや~んには行かないんだと固く心に決め居酒屋いや~んにはあの日以来一度も行ってはいなかった。
「さあ、着いたわ。今日は飲むぞ~。おー」
居酒屋いや~んの前に着くと浩太の母親のテンションが急上昇し浩太の母親がはしゃいだ声を上げた。もう母さんったら恥ずかしいからやめてよと浩太が言おうとすると居酒屋いや~んの入り口の扉がさっと開いた。
「あら~。やよちぇ~ん。待ってたわよ~」
中から出て来た創元が体をくねくねと激しくくねらせつつぴょんぴょんと飛び跳ねながら物凄く嬉しそうに言った。
「創元さん」
浩太は創元の姿を見るとうわー久し振りの創元さんだ。やっぱりオカマだー。キャラ濃いなーと再会を喜びつつ声を掛けた。
「あら? この子誰? やよちぇんの知り合い?」
急に素に戻った創元が冷たく言い放った。
「え? 創元さん?」
浩太はがつんと頭に鈍器か何かで強烈な一撃をもらったような衝撃を受けながら呆然としつつ言葉を漏らした。
「創ちゃん。許してやってよ。この子頑張ったのよ。この一年ずっと勉強してたんだから」
浩太の母親が優しい声で言いながら浩太の頭を撫でた。
「そんな事言ったって。あたくしだって、辛かったのよ。いつでも来てって言ったのに。電話くらいくれても良かったじゃない。もう~。浩太ちゃんの馬鹿~」
創元が言いながら浩太に抱き付こうとした。
「ちょっと、創ちゃん。母親の前でそういうのはやめてくれる」
浩太の母親が言うが早いかさっと浩太を創元の前からどかした。
「ふへ? 何よやよちぇん。なんで邪魔するのよ?」
創元が信じられないといった顔で浩太の母親の方を見ると酷く悲しそうな声で言った。
「創ちゃん。オカマに抱き付かれそうになってる息子を助けない母親なんていないと思う」
浩太の母親が悲しげな声でそう告げた。
「そんな。やよちぇん酷い。差別よ。そんな事言うならあたくしにだって考えがあるわ」
創元が悲しそうな声で怒ったように言った。
「母さん。創元さん。喧嘩しないで」
浩太が言うと浩太の母親と創元が二人揃って浩太の方に顔を向けた。
「母さんショックだわ。母さんの方を応援してくれると思ったのに」
浩太の母親が顔を俯けながら酷く落ち込んだ声を出した。
「あたくしもやるわね。もうやよちぇんと並んだって事ね」
創元が微笑みながら嬉しそうに声を上げた。
「おい。お前ら店の前で何をやってるのじゃ。早く中に入れなのじゃ」
竜子の声がしたと思うとすぐに竜子が店の中から出て来た。
「竜子ちゃん」
浩太は竜子の姿を見ると大きな声を上げなら竜子の傍に行った。
「おー。浩太。久し振りなのじゃ。元気にしてたか?」
竜子が嬉しそうに言いながら浩太に抱き付いた。
「うわっ。竜子ちゃん。ちょっと。あの。駄目」
「ついつい抱き付いてしまったのじゃ。許すのじゃ」
浩太の言葉に竜子がそう言って応じながら浩太から離れた。
「ちょっと。竜子。あたくしを差し置いてなんなの」
創元がぷりぷりと怒りながら言いつつ浩太達の傍に来た。
「まあ、創ちゃんよりは竜子ちゃんの方が良いけど、なんかこういうの見てると嫉妬しちゃうわね」
浩太の母親もそんな事を言いながら浩太達の傍に来た。
「母親の心は複雑なのじゃな。まあとにかく中に入るのじゃ。宴会の用意はできてるのじゃ」
竜子がそう言うと店の中へと誘うように右手を店の中に向かって伸ばした。
「やあ。浩太君。久し振り」
店の中に入るとすぐにスーツ姿の早川さんが声を掛けて来た。
「早川さん? どうしてここに?」
「天竜さんのお陰だ。こっちの世界に早川が残れるようにしてくれたんだ」
「浩太君~。お久し振り~。元気だった~?」
浩太が酷く驚きながら言うと早川さんの背後からホーマとギネカがそれぞれに言葉を出しつつすすっと歩み出て来た。
「ちょっと、創ちゃん。誰あれ。あの子も浩太の知り合いなの?」
ギネカを見た途端に浩太の母親が勢い込んで創元に聞いた。
「凄いでしょ~。そう言えば浩太ちゃんあの子の胸を揉もうとしてた事があったわね」
創元がからかうように嬉しそうに言った。
「何よそれ~。この前来た時ああいう子がいる事もそんな話も全然教えてくれなかったじゃない。ちょっと創ちゃんこっち来て。二人でさっさと始めるわよ。ここにいる間に浩太に何があったのか全部話すまで許さないから」
浩太の母親が語気を荒げて言い創元の腕を取ると店の奥の方にあるテーブル席に向かって創元を引っ張って行った。
「浩太ちゃ~ん。また後でね~」
創元が浩太の母親に腕を引かれ歩いて行きながら浩太に向かって悲しそうな声で言った。
「はい。後で。一年分の話をしましょう」
ちょうど早川さん達との再会の挨拶を終えた浩太は、うわー、母さんって飲みに来るとこんななんだとなんともいえない複雑な気持ちになりながら言葉を返した。
「浩太。こっちはこっちで始めちゃうけど、あんたは皆にちゃんと合格発表の事言うのよ」
奥の方にあるテーブル席の椅子に座った浩太の母親がまだ何も注がれていない空の大ジョッキを片手に持ちながら急に思い出したように言った。
「ちょっと。やよちぇん。やっぱりあたくしもあっちに行きたいわ」
創元が懇願するように言うと浩太の母親の傍から離れようとした。
「駄目よ。全部話すまでは浩太には近付けないから。早く座って」
浩太の母親が怒ったように言い創元をじろりと睨み付けた。
「いや~んもう。やよちぇん酷い~。浩太ちゃん。ごめんね。こっちから聞いてるわ」
創元が泣きそうな声で言いながら観念したように椅子に座った。
「はい。創元さん。聞いてて下さい。あの。今から皆に話したい事があります」
浩太は後で母さんの代わりに創元さんに謝っておいた方が良いのかなと思いながら全員の顔を見つつ言った。
「ちょっと待つのじゃ浩太。皆、酒を持つのじゃ。浩太の話が終わったら乾杯するのじゃ」
竜子が言うと皆がテーブルの傍へ行き空のコップにビールを注いで手に取った。
「はい。浩太君はビールよりもこっちかな?」
早川さんが浩太の所に梅酒のソーダ割りの入ったコップを持って来てくれた。
「ありがとうございます」
浩太がコップを受け取りお礼を言ってから軽く頭を下げると竜子が浩太こっちじゃ、この椅子の上に立つのじゃと言ったので浩太は言われるままに竜子が用意していた椅子の傍に行くと靴を脱いでその上に立った。浩太が椅子の上に立つと竜子がさあ浩太話すのじゃと言った。
「俺、無事に大学に受かりました!!」
浩太は創元達と再会できた喜びと大学に受かった喜びとを全身で噛み締めるように叫んだ。皆がおめでとう。良くやった。頑張ったと口々に言った。その言葉を聞いた浩太は感極まり目から涙がこぼれ出て来てしまったので慌てて皆に見られないようにと思い後ろを向いた。店の奥の方を向く格好になった浩太は母親と創元の姿を見て駄目だこれじゃどこを見ても誰かしらに見られちゃうと思うとそうだ上だ上を向こうと閃き上を向こうとした。
「はっ!? あれは!?」
上を向こうとした浩太だったが店の奥の厨房へと入る入り口の所で虹色の光りが動いたの見た気がしたので思わずそう口走り厨房へと入る入り口の所をじっと見つめた。
「竜子ちゃん。天竜来てる?」
浩太は涙を皆に見られないようにしていた事などすっかり忘れ厨房へと入る入り口の所を見つめたまま竜子に聞いた。
「さ、さあ、なんの事じゃろうな。わしは、わしは何も知らないのじゃ」
竜子が急にしどろもどろになり動揺しているような声音と口調で言った。
「竜子ちゃん? 何その反応?」
浩太は竜子の方に顔を向けながら聞いた。ああ忘れてたのじゃ。ちょっとわしはトイレなのじゃと竜子がわざとらしく大きな声で言うとその場から離れ厨房の方に向かって走って行って姿を消してしまった。浩太はなんだ? 竜子ちゃん急にどうしたんだ? と思いながら今度は早川さんの方を見た。
「早川さん。天竜来てますか?」
浩太が言うと早川さんが私に聞くかという顔を一瞬し、しばし迷うように視線を宙に彷徨わせてから小さく頷いた。
「来てる。だが、浩太君。会っちゃいけない」
早川さんが浩太の傍に来ると浩太の目をじっと真剣な眼差しで見つめながら言った。
「どうしてですか?」
浩太は椅子から下りながら叫ぶようにして聞いた。
「それは、ええっと、なんと言うか」
早川さんが歯切れ悪く言った。浩太は靴を履きながらきっと天竜は厨房にいるんだ、直接天竜の所へ行こうと思った。
「いや~。浩太君がいきなり椅子から飛び下りて駆け出したりしなくて良かったよ」
早川さんが言いながら安堵の息を漏らした。
「すいません。今から駆け出すつもりです」
浩太はそう言って駆け出そうとした。
「駄目だ。待て」
「浩太君~。ごめんね~。天竜さんの傍には~行かせられないの~」
ホーマとギネカが言いながら傍に来ると浩太の行く手を遮るように浩太の前に並んで立った。
「なんですか? どうして邪魔するんですか?」
浩太は皆の様子が急に変になった。一体何があるっていうんだ? と思いながら聞いた。
「あたくしが話すわ」
創元が真剣な口調で言いながらホーマとギネカが並んで立っている間に入って来ると浩太の前に立った。
「ちょっと創ちゃん。まだ話し終わってないわよ。それに何? 天竜って誰?」
浩太の母親がそう言いつつ創元の後ろから顔を出した。
「やよちぇん。ちょっとごめん。浩太ちゃんと二人で話して良い?」
「何よ~。母親に言えない話なの?」
創元の言葉に浩太の母親が唇を尖らせながら応じた。
「母さん。俺の大事な人の事なんだ。俺、ここにいる時に好きな人ができたんだ」
浩太が言うと浩太の母親が酷く驚いた顔をしてからしょんぼりした顔になった。
「あ~。そう。そっか。そんな風に母さんに言うほどに好きな人がねえ。そう。浩太も大人になっちゃったんだね。創ちゃん。一人で飲んでるわ。話が終わったらこっち来て」
浩太の母親が急に今までの勢いをなくして寂しそうにそう言うとくるっと踵を返し座っていた席に向かって歩き出した。
「母さん」
浩太は母親の寂しそうな様子が気になり声を掛けた。
「後でちゃんと母さんにも話してよ」
浩太の母親が歩みを止めて振り返ると優しく言った。
「母さん。ありがとう」
浩太が言うと浩太の母親がうんと言って頷きまた踵を返した。
「やよちぇん。話が終わったらすぐ行くわ。待ってて」
創元が浩太の母親の背中に声を掛けた。
「創ちゃん。できるだけ早くよ。すぐよ」
浩太の母親が振り向かずに歩きながら嬉しそうに甘えるように返事をした。
「じゃあ、浩太ちゃん。これから話すけど、浩太ちゃんにとってかなり衝撃的な話になると思うわ。気をしっかり持って聞いて」
創元がこれでもかというくらいに真剣な声音と口調で言った。
「そんな、話なんですか? 俺、嫌われましたか? もう俺には会いたくないとか?」
浩太は泣きそうになりながら言葉を出した。
「違うわ。そういう話じゃないの」
「じゃあ、俺の事、まだ好きって事ですか?」
創元の言葉を聞いて浩太は思わず叫んでしまった。
「浩太ちゃん。落ち着いて聞いて。好きとか嫌いとかそういう次元の話じゃないの。本当はもっと早くに言っておくべきだったんだけど、ごめんなさい。どうしても言えなかった。浩太ちゃんと天竜ちゃんが会わない間にあわよくば浩太ちゃんが天竜ちゃんの事を諦めてくれればなんて思ったりしてしまってた。けど、浩太ちゃん、まだそんなに天竜ちゃんの事を好きなのね」
創元が言い終えると深い深い溜息をついた。
「何があるんですか? 天竜が実は病気だったとかですか?」
浩太は実は天竜が不治の病に罹っていて余命僅かとかだったらどうしようと唐突に思って先走ると先ほどよりも更に泣きそうになりながら聞いた。
「違うわ。大丈夫よ。天竜は怪我も病気もしてないわ。元気にしてるわよ」
創元の言葉を聞いて浩太は胸を撫で下ろした。
「良かった。病気じゃないんだ」
浩太が言葉を漏らすと竜子が不意にたったったったっと厨房の方から走って戻って来て浩太の傍に立ち口を開いた。
「浩太よ。今からでも遅くはないのじゃ。わしに乗り換える気はないか? わしはそれでも全然構わないのじゃ。そもそもお前、天竜の事そこまで好きじゃなかったじゃろ」
浩太は言い終えた竜子の顔をちょっと動揺しながらじっと見つめた。
「竜子ちゃん。またそういう事言う。俺、もう竜子ちゃんに抱き付かれたりとかしたとしても心を揺らしたりしないよ。天竜に会えない日々が俺の気持ちを強くしたんだから」
言い終えてから竜子ちゃんって本当に俺の事好きなのかな、と思うと浩太はちょっともったいない、いやいや、申し訳ない事をしてるのかも知れないと思い目を伏せた。
「ふ~ん。心~揺れないんだ~」
浩太がこの声はギネカさん? と思った瞬間に浩太の体に物凄く柔らかくそれでいて張りがあり恐ろしいほどに肉感的な二つのボリューミーな物体が押し付けられた。
「う、うおおおお。こ、この感触は~。まさか~」
浩太は思わず絶叫してしまった。
「どう~? 心~揺れた~?」
ギネカが二つの目の中にある透き通るような美しい碧眼で浩太の顔を見つめつつ浩太を抱き締め腕にぎゅぎゅっと力を入れ更に胸を押し付けながら嬉しそうに言った。
「ゆ、ゆ、ゆ、揺れてましぇん」
浩太は揺れてる~、俺の心ぐらっぐらだ~と思いながら動揺も露わに言った。
「ちょっと待つのだ。この展開はいくらなんでも酷いのだ」
突然、そんな天竜の声がしたと思うと天竜が厨房の方から走って出て来た。
「うわっ。天竜。違うんだ。これは、これは、事故。そう。事故なんだ」
浩太はギネカから慌てて離れようと思い両手でギネカの体を押した。
「あ~ん。浩太君~。そんなに~押しちゃあ~駄目~」
ギネカが艶っぽい声を出した。
「うわー。うわー。すいませんすいません」
あろう事か浩太はギネカの胸をぐいぐいと押してしまっていた。
「わざとなのじゃ」
「わざとよね」
「わざとだな」
「浩太君。羨ましいぞ」
竜子と創元とホーマと早川さんが口々に言った。
「桜花浩太。何をしてるのだ。今すぐに離れるのだ」
天竜が浩太の傍に来ると浩太の体を背後から掴みギネカから引きはがした。
「いや~ん。天竜。そんなに引っ張らないで~」
浩太の耳にそんなオカマが言っているような言葉が飛び込んで来た。
「え~? 何? 今の、あーしが言ったの? え? ええ? あーしって何?」
オカマ言葉は浩太の口から出て来ていた。浩太は今まで生きて来た人生の中でこれ以上はないというくらいに驚きながら叫びつつ自分の体を見回し自分の体のあちこちを確かめるように触った。
「始まってしまったのね」
創元が悲しそうな声を出した。
「すまないのだ。つい出て来て触ってしまったのだ。余が悪かったのだ」
天竜が泣きそうな声で言いながら浩太から手を放すと脱力してその場に座り込んだ。
「浩太。落ち着くのじゃ。大丈夫なのじゃ」
竜子が近付いて来るとそう気遣うように言い浩太の両肩に両手を乗せた。
「竜子ちゃん。あーしどうなっちゃってるの? オカマになっちゃったの?」
浩太は体をくねくねさせながら正面に立っている竜子の顔をすがるような思いで見つめつつ叫んだ。
「浩太ちゃん。あたくしが話したかった話っていうのはそのオカマ化の事よ。あたくしもそうなの。昔はこんなじゃなかった。テイカーになってからこんな風になってしまったの。男がテイカーになるとオカマ化、いえ、女性化して行ってしまうのよ。それも契約相手の竜と一緒にいると物凄い速さ女性化が進んで行ってしまうの。しかも心だけなの。体は女性化しないのよ。悲しい事にね」
創元が悲劇のヒロインが独白をしているかのように大げさな身振り手振りを交えながら告げた。
「うそ~ん。そんな。ここまで育てた息子がオカマ化だなんて。ふ~」
浩太の母親が不意に絶叫したと思うとテーブルに突っ伏すようにして気を失った。
「いや~ん。母さん」
浩太は叫びながら竜子の傍から離れ母親の傍に行こうとして駆け出したがあーしがこんなままだとまた母さんがショックを受けてしまうかも知れないと思うとその場で足を止め、それ以上進む事ができなくなった。
「こんな事態になるなんて。浩太ちゃん。ごめんなさい。あたくしの考えが甘かったわ」
創元が言いながら深く浩太に向かって頭を下げた。
「余が悪いのだ。余が出て来たりしないであのまま隠れていれば良かったのだ」
天竜が座り込んだまま放心したように前を見つめながら言った。
「二人の所為じゃないわ。しょうがない事なのよきっと。でも、でも。もうこんなのどうすれば良いのよ~。あーし困っちゃう。いや~んもう」
浩太はこれでもかと体をくねくねとさせながらこの状況とこれからの事に対して絶望しつつ叫んだ。
「浩太。諦めるななのじゃ。頑張って生きるのじゃ。今までだって諦めずにやって来たのじゃ。また頑張り始めれば良いのじゃ」
竜子が再び傍に来てまた浩太の肩に手を乗せると浩太の肩をぎゅっと掴み強い意志のこもった口調で言った。
「竜子ちゃん」
竜子の名を呟いた浩太と竜子は見つめ合った。
「は!? なんなのだ。なんか竜子と桜花浩太がおかしなムードになってるのだ。許せないのだ」
我に返った天竜が浩太と竜子の間に飛び込んで来ると二人を引き離そうとした。
「ああ~ん。駄目~。また女性化が進んじゃうぅ」
浩太は、諦めない。絶対にあーしは頑張って生きるわよ竜子ちゃん。けど、だけど、今だけは落ち込ませてっ。と思ったのだった。