第7話 酒は飲んでも飲まれるな

文字数 7,982文字

「それでっと。浩太ちゃんは何を飲む?」

 創元が自分の飲む焼酎の水割りを作り終えると浩太に聞いて来た。

「何が良いですか? 全然飲んだ事ないんで分からないです」

「あら。そうだったわね。まあ最初は無難なとこでビールが良いと思うけど、そうだわ。浩太ちゃんはお酒の事どれくらい知ってるのかしら?」

 浩太が聞くと創元が焼酎の水割りを一口飲んでから言った。

「えっと、母さんが良く飲んでるのは日本酒と焼酎だったかな。そんな名前くらいしか知りません」

 浩太の言葉を聞きながら創元が先ほど蓋を開けたビールの瓶に手を伸ばした。

「やよちぇんはなんでも飲むけど、基本的には日本酒と焼酎が好きよね」

 創元がそう言うと座卓の上にあった空いているコップの一つにビールを注いだ。

「とりあえずこれをもらえば良いですか?」

 浩太はビールの注がれたコップを見ながら言った。

「ちょっと待って。折角だから少しずつ色々試してみましょ。一番おいしいって思えたのを飲めば良いわ」

 創元が言ってから座卓の上に用意してあった数種類の酒の酒瓶を一本ずつ手に取り蓋を開けてはコップに注ぐという動作を何度か繰り返した。

「浩太ちゃんから見て右側からビール、赤ワイン、日本酒、焼酎、ウィスキー、ジン、梅酒、カルーア、カンパリ」

 創元の手が一つ一つのコップを指差しながら右から左へと動いて行った。

「たくさんありますね」 

 浩太は感心しながら言った。

「本当はもっともっとも~っとたくさん種類があるのよ。とりあえずここには有名かつうちの店で売れてるのを用意してみただけなの」

 創元が言い終えると何を思ったのか日本酒の入っているコップと焼酎の入っているコップの間に右手をすっと差し入れた。

「ビールから日本酒までは醸造酒」

 そう言ってから創元が右手を日本酒の入っているコップと焼酎の入っているコップの間から抜いた。創元が抜いた右手を今度はジンの入っているコップと梅酒の入っているコップの間に差し入れた。

「焼酎からジンまでは蒸留酒」

 そう言うと創元がまた右手をコップとコップの間から抜き一番端にあったカンパリの入っているコップの縁に指を当てた。

「梅酒からカンパリまでは混成酒。醸造酒と蒸留酒と混成酒は皆作り方が違うの。お酒は大きく分けてこの三つの種類に分けられるわ」

 創元の言葉を聞いた浩太は醸造酒、蒸留酒、混成酒ってなんだ? と思いながら様々なお酒の入っているコップを右から順々にじろじろと見て行った。

「見てても違いは分からないと思うわよ。物によっては飲んでもそれなりに飲み慣れてないと違いは分からないでしょうね。まあ知っててもなんの役にも立たない知識だけれど、知らないよりは知ってた方が面白いでしょ」

 浩太は言い終えた創元の方に視線を向けた。

「醸造酒、蒸留酒、混成酒ってなんなんですか?」

 浩太が聞くと創元が嬉しそうに微笑んだ。

「良いわね。良い質問よ。醸造酒は一番基本的な作り方のお酒と言えるかしら。原料をアルコール発酵させて作るお酒の事なの。蒸留酒は醸造酒を機械を使って蒸留して作るお酒ね。混成酒は醸造酒や蒸留酒に果物や果実、薬草なんかを加えて作るお酒よ」

 創元が言い終えると焼酎の水割りをおいしそうに一口飲んだ。

「醸造酒だけでも良いと思うんですけど、なんで蒸留したり、果物とかを混ぜたりしたお酒があるんですか?」

 浩太が言うと創元がまたしても嬉しそうに微笑んでから口を開いた。

「その事については諸説あるの。蒸留するとアルコール度数が高いお酒が造れるからその為という説や長く保存できるようにする為っていう説もあるわ。混成酒は元々は薬だったみたい。薬草なんかを入れてたらしいわよ。果物や果実を入れるのはおいしくする為だからだけれどね。お砂糖なんかが入ってるのもあるから混成酒には甘いお酒もたくさんあるわ」

 創元さんの話を聞いてたらなんだかどれでも良いから飲みたくなって来たぞと思いながら浩太は並んでいるコップの方を見た。

「飲みたくなって来たでしょ?」

 創元が浩太の心を読んだかのように言った。

「はい。なんか話を聞いてたらどんな味がするんだろうって凄く気になって来ました」

 浩太の言葉を聞いた創元が赤ワインの入ったコップを手に取ると浩太に向かって差し出した。

「全部試すんだから少し口に含むくらいで良いわ。全部のコップを空にしてっても良いけど、まだ酔っちゃ駄目よ」

 浩太は言い終えた創元の手から赤ワインの入っているコップを受け取るとはいと言って少しだけ赤ワインを口の中に入れた。

「どう?」

 浩太がごくりと喉を鳴らして赤ワイン飲み込むと創元が聞いて来た。

「うーん。なんとも言えませんが、これならビールの方が飲みやすい気がします」

 浩太は赤ワインの入っているコップを座卓の上に置きながら言った。

「銘柄とか種類とかは今の浩太ちゃんに言ってもちんぷんかんぷんだと思うから省くけど、これ結構飲みやすい部類の赤ワインなの。赤ワインにしたのにも理由があるんだけど、白のがよかったかしら。まあでもあれね。ワインにこだわる理由もないし次行ってみましょ」

 創元の言葉に浩太がはいっと返事をすると今度は創元が日本酒の入っているコップを差し出した。

「これも色々ある中の入門用かしらね。日本酒にもたくさんの種類があるわ。そうだ。浩太ちゃん。水飲む? 口の中を一度洗った方が良いんじゃない?」

 いえ、今はお酒飲みたいモードになってるのでお酒しか口の中に入れたくありませんと返事をしてから浩太は創元の手からコップを受け取ると、赤ワインと同じように少しだけ口の中に日本酒を入れた。

「ふーん。ワインも凄かったけどこれも匂いがなんかふわっと来ますね。ワインよりも好きかも。でも、やっぱりビールの方が飲みやすいかな」

 浩太は小首を傾げながら言い日本酒の入ったコップを座卓の上に置いた。

「浩太ちゃんにはまだこういうのは早いのかも知れないわね。じゃあ次は焼酎ね。ここからは蒸留酒になるわよ。さあ、どんどん試して行きましょ」

 焼酎を飲み終えると次はウィスキーというように創元と話をしながら浩太は次々と用意されているお酒を少しずつ飲んで行った。

「全部一通り飲んだわね。初めてだからどんな物か知って欲しくってカンパリとカルーアはストレートで試したけど、こういうお酒は何かで割って飲むのが一般的だから、そっちも試してみる?」

 浩太はなんか頭の中がふわふわしてるけどこれが酔うって事か、と思いながらふわふわとしている頭の中に入って来た創元の言葉に対してどう返事をしようかと考えた。

「浩太ちゃん。酔ったでしょ?」

 創元が嬉しそうに聞いて来た。

「これが酔うっていう状態ですかね。頭の中がふわふわしてます」

 浩太は創元にどう返事をしようかと考えていた事をすっかり忘れて答えると飲んだ中で一番気に入った梅酒の入っているコップを手に取った。

「これ梅酒ですよね?」

 浩太が言うと創元が頷いた。

「そうよ。浩太ちゃんが一番良いかもって言ったお酒ね。それもっと飲む?」

 創元の言葉を聞きながら浩太はコップを口元に持って来るとちびりっと梅酒を飲んだ。

「はい。これが甘いし梅の匂いも良いし飲みやすい気がするのでこれにしたいです」

 浩太は言ってから手の中にある梅酒の入ったコップをじっと見つめた。

「じゃあ水か炭酸水で割る? それともロックが良いかしら?」

 創元が座卓の上にあったアイスペールと水の入ったピッチャーと炭酸水の入っているペットボトルを自分の傍に引き寄せながら言った。

「創元さんさっき俺がウィスキーを飲んでる時に言ってたじゃないですか。そのままで飲むのが一番お酒の味が分かるのよって。このままで良いです。俺はこのお酒の味をもっと理解したいんだ!」

 浩太はぴすーぴすーと鼻息を荒くしながら言った。

「それは味が分かるってだけの話よ。楽しむ為に飲むとなったら別。ストレートも良いけど、色々試さなきゃ。氷でもっと冷やして飲むとすっきり感が強くなるわ。お水で割れば薄まるからもっと飲みやすくなるし炭酸水で割れば炭酸が加わる分また違う雰囲気になるわ」

 創元の話を聞いていてさすがは創元さん良く知ってるぜと浩太は思った。

「わっかりました。じゃあロックで!!」

 浩太はそう言うとしゅっと梅酒の入ったコップを創元の方に差し出した。

「あら。どうしてロックが良いのかしら?」

 創元がねえこれ見て見て~と言って来た子供に言うように優しく聞いた。

「水割りよりも炭酸水割よりも格好良い気がするからです。ロックってなんか響きが良いっす!!!」

 浩太は自分でもなぜ? と思うほどに断言するように言った。

「ふーん。あれね。若者らしいって気がする発想だわ。はい。じゃあロック」

 創元が自分の言葉の言葉尻に合わせて浩太の持っているコップに氷を入れてくれた。

「あー、これ。氷が鳴る音が良いっすね」

 浩太は氷がコップに入った時に鳴った音が気に入ったのでコップを揺らしたり回したりして氷の出すからんからんという音を楽しんだ。

「あら浩太ちゃんったら格好良い事言うじゃない。そうそう。浩太ちゃん。今からはもう普通に飲むんだから飲むだけじゃなく何か食べなさい。ただ飲んでるだけだとすぐに酔うわ。すぐに酔うって事はお酒を楽しむ時間が短くなるって事よ。ほろ酔いくらいまでが一番楽しいの。その楽しい時間が少しでも長く続くように飲むようにすると良いわ」

 創元がそう言うと箸を手に取った。冷奴の入っている皿に向かって箸を伸ばした創元が箸で丁寧に冷奴を切り分けた。

「はい。浩太ちゃんあーん」

 創元が切り分けた冷奴のひとかけらを箸で摘まむとそう言いながら浩太の方に向かって差し出した。

「あーん」

 浩太も言いながら口を大きく開けるとぱくっと冷奴を食べた。

「お前ら。馬鹿じゃろ。気持ち悪い物を見せるななのじゃ」

 今までずっと黙って大人しく浩太達の事を見守っていた竜子が唐突に口を開いた。

「あれ? 創元さん。今何か聞こえました?」

 浩太はそうだ仕返しだと思うとここぞとばかりに得意になって言った。

「え? 浩太ちゃん。そういうのやっちゃう?」

 創元が驚いた様子で聞いて来た。

「やりますね。仕返しですよ。創元さんだって言ったじゃないですか。無視よ無視って」

 浩太は悪そうな顔をしつつちびりっと梅酒を舐めてから言った。

「いや~。そんなような事は言ったけど、そんな言い方はしてないと思うわよ。それに、だってほら。竜子怒ってるわよ?」

 創元がそう言うと竜子を指差した。

「うわ~。またあの顔してる~」

 浩太は思わず悲鳴を上げてしまった。創元の指差す先には竜子が口をこれでもかと大きく開きたくさんの鋭く尖った牙のような歯を剥き出しにした浩太のトラウマになってしまったあの顔があった。

「わしをどうするって? え? もう一度言ってみるのじゃ」

 竜子が恐ろしい顔のまま言い近付いて来た。

「ぎゃああ~。来ないで~来ないで~」

 浩太は慌てて立ち上がると叫びながら創元の背後に隠れた。

「竜子。その辺にしときなさいよ。浩太ちゃん本気で怖がってるわよ」

 創元が竜子を叱った。

「悪いのはこいつなのじゃ。いや。待てなのじゃ。創元。お前、わしを無視しろと言ったのか?」

「そ、それは、あれよ。なんていうか、ええっと。そう。流れね。会話の流れ。そういう時ってあるでしょう?」

 竜子の言葉を聞いた創元が無理矢理にとぼけてやり過ごそうとした。

「なんじゃそれは。わしは怒ったのじゃ。お前ら二人どうしてくれようか」

 竜子が威嚇するように唸りながら言い放った。

「創元さん。やっちゃって下さい。この偉そうにしてる竜もどきをばしっと斬っちゃって下さい。今こそ竜成敗の出番ですよ」

 浩太は創元の背後に隠れたまま叫んだ。

「ちょっと浩太ちゃん。そんな風に煽っちゃ駄目じゃない」

 創元があたふたしながら困ったように言った。

「竜もどきじゃと? わしが竜もどきじゃと言うのか? どこがもどきなのじゃ。言ってみろなのじゃ」

 竜子が怒鳴ると浩太に掴み掛ろうとして来た。

「竜子。ちょっと。駄目よ」

 創元が竜子の両腕を掴んで竜子の動きを止めながら声を上げた。

「創元。止めるななのじゃ。わしの事をよりにもよって竜もどきと言ったのじゃぞ。もう絶対に許さないのじゃ」

 竜子がそう叫ぶと自分の腕を掴んでいる創元の手を振り解こうとして激しく暴れ出した。

「竜子。落ち着いて。喧嘩なんかしてどうするのよ。あたくし達は仲間なのよ。一緒に命懸けで戦うんだから。仲良くしなきゃ駄目よ」

 創元が言うと竜子がぴたっと体の動きを止めた。

「たっは。そうじゃったな。こんな奴の為に命懸けで戦わなければならないとはな。まったくもって馬鹿らしいのじゃ」

 竜子が顔を俯けると心底落ち込んでいるような口調と声音で言った。

「あの、なんか、ごめん。ちょっとやり過ぎちゃったかも。お酒に酔った所為かな。なんか調子に乗ったみたい」

 浩太はそうだった竜子ちゃんも俺の為に命懸けで戦ってくれるんだったと思うと急に酷く悪い事をしたような気になったので慌てて謝った。

「ぶふふふー。まーた騙されたのじゃ~。何がなんかごめんなのじゃ。お前はほんっとに馬鹿なのじゃ~」

 竜子が顔を上げ満面の笑みを浮かべながらそれはそれは嬉しそうに言った。

「うおおおお。許せ~ん。退治してやる。今すぐに俺が退治してやる」

 浩太は創元の背後から躍り出ると竜子を怒りに煮えたぎる瞳で睨み付け叫んだ。だがすぐに竜子が牙の生えている口を浩太に見せ付けるようにしてこれでもかと大きく開いたのでひいぃっ怖いっとなった浩太は自分の顔を両手で覆い隠した。

「ほっほう。お前のような人間ごときがわしを退治するじゃと? やってみろなのじゃ」

 竜子が挑発の言葉を吐いた。

「あーもう。いい加減にしなさい二人とも。竜子も浩太ちゃんも、これ以上やるならあたくし怒るわよ」

 創元が浩太と竜子の顔を交互に見ながらぴしゃりと言った。

「ああう。創元さん。ごめんなさい。でも、悪いのは竜子ちゃんで」

 両手の指の間から創元の顔を見ていた浩太はしょんぼりしながら両手を下ろす言い訳をした。

「創元が怒っても怖くなんてないのじゃ。かかって来るのじゃ。望むところなのじゃ」

 竜子が創元に向かって言い放った。

「ふーん。そんな事言って良いのね。竜子のご飯の支度明日からやらないわよ」

 創元が言うと竜子の顔色が変わった。

「ぐわわわ~なのじゃ。分かったのじゃ。それはまずいのじゃ。浩太。仲直りなのじゃ。そうじゃ。仲直りに酒を一緒に飲もうなのじゃ」

 竜子がそう言いながら浩太の傍に来ると口の中の歯をしゅっと人の歯に戻しどかっと座卓の前に座って座卓の上にあった琥珀色の液体の入っているコップを一つを手に取った。

「はっは~ん。ここで俺が仲直りなんてできるか。竜子ちゃんに傷付けられて壊れたハートが疼くぜとかなんとか言ってまた怒らせると竜子ちゃんのご飯は作ってもらえなくなるのかな~?」

 浩太はぐへへへへへと悪そうに笑いながら言った。

「く、この。お前は。すまなかったのじゃ。わしが悪かったのじゃ」

 竜子が歯をぎぎぎと音がしそうなほどに食いしばりながら謝った。

「うわはははは。うわっはははは。これからなんでも俺の言う通りに」

 浩太の言葉を途中で遮るように創元が言葉を出した。

「浩太ちゃん。酒は飲んでも飲まれるなって言ってね。そんな風にお酒に酔って気が大きくなってるからって好き勝手やっちゃ駄目なのよ」 

 創元の言葉を聞いた浩太は確かに創元さんの言う通りだ。俺はなんて事をしてしまっていたんだなどとは微塵も思わずにちぇーっなんだよもうと思った。

「創元さんがそう言うなら、そうします。ごめんなさい」

 ちぇーなんだよもうとは思ったが創元さんの言う事だもんな聞いておこうとも思ったので浩太は創元に謝った。

「わしにも謝るのじゃ。はわわっ」

 竜子がすかさず言ったが創元が睨むと慌てて口を噤んだ。

「さあ。じゃあ仲直りね。飲み直しの乾杯をしましょ」

 創元が自分の焼酎の水割りの入ったコップを手に取ると腕を伸ばしコップを前に出した。

「分かりました。じゃあ」

浩太は自分の座っていた場所に戻りそう言ってから梅酒の入っているコップを手に取り持ち上げた。

「そうじゃな。仲直りの飲み直しじゃな」

 先ほどまでのやり取りなどなかったかのように急にころっと態度を変えて調子良くそんな事を言いながら竜子が手に持っているコップを前に出した。

「じゃあ、宴の勝利を願うのと浩太ちゃんと竜子の仲直りにかんぱ~い」

「かんぱ~いなのじゃ」

「かんぱ~い」 

 かちんかちんかちんと浩太達はコップを合わせてから皆それぞれお酒を飲んだ。

「ぶあっは~。なんじゃこれは? 濃ゆいのじゃ~」

 竜子がどんっと音をたてて座卓の上に突っ伏した。

「あーた。まさか、それ」

 創元が竜子の手から離れ座卓の上を転がっていたコップを手に取った。

「やっぱり、これウィスキーじゃない」

 コップの中に少し残っていた液体を舐めた創元が言った。

「きゅう~。もう駄目なのじゃ」

 竜子がそう言って目を閉じると動かなくなった。

「大丈夫なんですか?」

 浩太は本気で心配しつつ竜子の方を見ながら言った。

「大丈夫よ。この子お酒弱いくせに飲み方が豪快だからすぐこんな風になるの。けど酔って寝てもすぐ起きるのよ。竜だからか体力もあるしアルコールの分解速度も凄い速いみたいなの」

 創元がそう言ってから枝豆のさやを一つ取って中の豆を食べた。

「創元さん。すいません。俺の所為で戦う事になって。俺はほんっとにどうしよもない馬鹿者です。本当にすいません。本当にごめんなさい」

 竜子の寝顔を見ていた浩太は急に激情に駆られて謝りたくなったので大声で謝った。

「浩太ちゃん。結構酔って来てるでしょ?」

 創元に聞かれて浩太は確かにさっきよりも酔ってるみたいだぞと思うとはいと言って頷いた。

「酔いが進むと急にそんな風に感情が昂ったりするものなの。酔いにはね。爽快期、ほろ酔い期、酩酊初期、酩酊期、泥酔期、昏睡期っていう段階があるのよ。浩太ちゃんは今酩酊期初期くらいかしらね。少し飲まないで休んだ方が良いかも知れないわ」

 創元が優しく教えてくれた。浩太は手に持っていたコップを座卓の上に置いた。

「そういうものですか。でも、今言った事はお酒の所為じゃないです。本当に悪いと思ってます」

 浩太の言葉を聞いた創元が微笑んだ。

「浩太ちゃんの所為じゃないわ。宴を望んだのはあたくしなんだから。竜子だってあたくしが巻き込んだんだし、そもそも竜子が竜の姿で人の世界をうろついたりしなきゃこんな事にはならなかったのよ」

 創元が言い終えると片手に持っていた焼酎の水割りの入ったコップを座卓の上に置いた。
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