文字数 871文字

「さぁ、星を見に行こうか」
夕方、鳥たちが山へ帰る頃、おじいちゃんが ぼくに言った。
ぼくは今、お父さんのお父さん、つまり おじいちゃんの家に来ている。
お父さんとお母さんが忙しいから、一人で電車を乗り継いでやってきた。
電車の中からずっとゲームをして遊んでいる。
だから、何とかこの田舎でも退屈せずに過ごせていた。
「ぼく いいよ」
「どうしてだい?」
「ここでゲームしてるほうがいい」
「そう言わずに、ここは田舎だから星がよく見えるよ」
「いいってば。星なんてどうだっていいよ」
面倒臭そうに怒鳴り、おじいちゃんに背を向けた。
ちょっとひどいことを言ったかなと後悔したけど、もうおじいちゃんの方を見られない。
おじいちゃんは 「そうか」と小さく呟いて、ぼくから離れた。
縁側に座り、ぼくは ひたすらゲームをする。
と、犬のシロがやってきて とびかかってきた。
「わぁ、シロ何するんだよ」
シロはぼくの顔を舐めまくる。
ゲーム機は地面に落っこちた。
せっかくいいところまでいっていたのに、これで全部おじゃんだ。
大きく溜息をつくも シロはおかまいなし。
舌を出し お座りの姿勢で 首を傾げながら こちらを見ている。
何だか怒る気力も無く、ゲームをやめて 携帯電話を取り出した。
「おかしいな」
今の世の中、こんなにも電波の悪いところなんて存在するのか?
と 思うほどに 電波表示は一本もたっていなかった。
庭のあちこちを 携帯片手に歩き回る。
知らない間に 家の外へ出ていた。
シロは散歩に連れて行ってもらえると勘違いして 嬉しそうに後を付いてくる。
「どこにいくんだい?」
おじいちゃんが訊いてきたけど、ぼくは電波を探すのに必死だった。
どんどん家から離れる。
まだ おじいちゃんとおばあちゃんの声が 微かに聞こえるけれど、何を言っているのかもう分からない。
「やっと一本たった」
喜んだのも束の間、道を踏み外したぼくは バランスを崩して山道脇の斜面を転げ落ちた。
シロが吠えているのが聞こえる。
でも、頭がぼんやりとして シロの声がどんどん遠くなっていく。
狭まっていく視界の中、一番星がキラキラと輝いていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み