文字数 808文字

どこに向かっているのか。
目を凝らして前をよく見てみるけど、背の高い木々に囲まれ、暗くてよく見えない。
「ねぇ、どこに行くの?」
「いいところだよ」
まわりに小さな子供がやってきて、手を繋いでくれた。
「何かお話聞かせて。東京のお話でもいいの」
「お話?」
「うん」
何を話せばいんだろう。
迷っていると リーダー格のあの背の高い少年がやってきた。
古い言い方をすると、いわゆるガキ大将ってやつだ。
「ごめんな、辛いこと聞いて。不安がるから、こいつには東京で大きな空襲があったこと言ってないんだ」
ぼくは昔の東京を知らない。
この時代のことは おじいちゃんに聞いた話と、テレビでちょっと見ただけだ。
無言になってしまう。
皆を楽しませるような話なんて持ち合わせてないし。
考え抜いた末に出した答えは、正直に話すことだった。
「ぼくさ」
「うん うん」
「この時代の人間じゃないんだ。未来から来たんだ」
皆足を止め、沈黙が流れる。
どうしよう。
こんな馬鹿正直に言わなきゃよかった。
後悔先に立たず、そう思っていると
「信じるよ」
ガキ大将が口を開いた。
そんなにいとも簡単に人を信じるのか?
もっと問い詰められると思っていたから、驚いた。
「お前のこと信じるよ。だって、さっきも その小さいので 何やらやっていただろう?俺、絶対に特別などこかからやってきたんだろうって思ってたんだ」
「これは携帯電話って言って、これさえあれば電話もメールもできるんだ」
「めえる?」
皆が集まってきた、携帯電話に興味津々だ。
「メールはね、お手紙のことさ」
「これでお手紙書くの?鉛筆は?電話まで?」
「ああ。朝は音が鳴って起こしてくれるし、それにゲームだってできる。写真も撮れるよ」
携帯に入っていた 自宅マンションのベランダで撮った 夜景を見せる。
「これは未来のお星様?」
「ううん。違うよ。人間が住んでいる世界を 夜、上から撮ったんだ」
「こんなに明るくてきれいなの」
皆 携帯に羨望の眼差しを向けた。
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