文字数 756文字

「え?」
”幸せ”という言葉に 敏感に反応してしまった。
「だって、その 『ねっと』 ってものがあれば誰とでも知り合えるし、世界中の人とお話しできるんでしょう?」
でも、みんな悪口を言い合ってるし、残虐な事件だって起こってる。
自殺するために知り合う人だっている。
「お母さんの仕事が減ったら 私 嬉しいな。今より一緒にいられる時間が多くなるもの」
ぼくのお母さんは「忙しい」が口癖だ。
食事はいつもぼく一人で済ませてるし、殆どがスーパーのお惣菜か店屋物。
手作り料理なんて滅多に並ばない。
「おまわりさんがいるのに警備してくれるなんて安全な世の中なんだね」
ぼくのお父さんは 毎日新たな警備システムを研究開発している。
安全はお金で買わなきゃ安心できない。
「人間型動く機械がいるなら、病気で寝たきりのうちのおばあちゃんも お外に連れて行ってもらえるかも」
ぼくは小学生だけど、世の中で何が起きているかは、テレビを見てなんとなく分かっているつもりだ。
社会はお年寄りに親切とは言い難いような気がする。
「戦争なんて無いなんでしょうね。羨ましいわ、家族がずっと一緒にいられるもの」
戦争はある、ずっと遠い国に。
でも、ぼくたちも戦っている、見えない何かに怯えながら。
お父さんも お母さんも知らない、そんな世界で。
「俺たちだって 運が良けりゃ 63年後はまだ生きている。頑張ろうぜ」
一致団結の掛け声のように、皆一斉に「おー」っと手を挙げた。
戦争中のこの時代、生きていくのが精一杯で 平均寿命なんて関係ないんだろうな。
皆、頑張って生きていれば 素晴らしい未来が待っていると信じてるのか。
でも、でも 、彼らにとっての輝かしい未来は、ぼくにっとっての辛い現在。
ぼくはもう何も言えなくなってしまった。
厳しい世の中が待っているなんて、そんなこと言えなかった。
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