第6話 私の彼氏・・・なの?
文字数 5,155文字
私は富士見君に電話をした。今日、彼に言われたことを思い出したからだ。
「富士見君、夜分にごめんなさい。もう寝ていたわよね。起こしてしまったのでしょう」
「大丈夫だよ。オセロと話していたからね」
「そう。やっぱりそうなのね。よかった。デズデモナも特異点なのかしら、今夜もしゃべったの。今はもう寝ているけど富士見君の言った通り、あの話の奥さんみたいなの」
「くわしい話が聞きたいから明日、会えないかな?」
彼が私に会いたいと言う。どうしよう。やだわ、心臓がドキドキする。もちろん、断る理由は無い。
「明日は朝からテニスサークルがあるから、昼からなら、いいわよ。食事をしながら話をするのはどうかしら」
「うん、いいよ。キャンバスのベンチで待っているからね。テニスが終わったら声をかけてよ。のんびりと本を読んでいるからね」
「えぇ、分かったわ。それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
(明日は朝から予約を入れなくっちゃ。どこか空いているかしら)
次の日、お父様の力で予約を入れた。ある店を貸し切りにしてもらった。
(彼は喜んでくれるかしら)
私はキャンバスでテニスを楽しんだ。その間、彼は本を読んでいた。やがて、そこに行くと本を顔に置いて、気持ち良さそうに寝ていた。
(ちょっと、起きなさいよ)
「・・・富士見君、起きなさい」
怒って、仁王立ちをした。
(全く、困ったものね)
「ごめんなさい。あまりに気持ちが良かったから、つい・・・」
「・・・まー、いいわ。夜中に電話をした私にも責任があるのだから。今回は大目にみるわ。次からはダメよ」
「はい」
「早く行きましょう。お腹がすいたわ。車に乗り込んでね」
運転手が会釈する。彼は遅れながら、頭をさげた。
「富士見君、どうしたの? 早く乗って」
「うん。ゴメン」
車に乗り込み、キャンバスを後にした。
(どこに連れていかれるのか、心配かしら)
車に乗ること数分。
「着いたわよ」
(さて、気に入ってくれるかしら?)
「富士見君、入るわよ。今日は何を食べようかしら。ウフフ、楽しみ」
ニコニコして中に入った。店の中に入ると店長が、わざわざ出てきた。そして直立。
「本日はご利用ありがとうございます。お嬢様。職人が腕によりをかけて握りますので、楽しみにしていてください」
「ありがとう。楽しみね。富士見君」
「ははは、そうだね」
私は彼の手を引っ張られた。こんなところをファンクラブに見られようもなら、彼に明日はないだろう。
(貸し切りでよかったでしょう。富士見君)
私は彼の手を握って、ドキドキした。
(この気持ちはバレてないよね)
私は照れを隠したかった。
「早く食べましょう。それではよろしくお願いします」
その店の一番高い皿だけが流れてくる。次々と皿を取った。おかげで少し落ち着いた。
「富士見君も皿を取りなさいよ」
「うん。ありがとう」
彼は中トロ等、数皿を取って食べた。
雰囲気が落ち着いてきたので、昨日の話をした。
「デスデーモナはあなたの推測通り、転生を繰り返しているみたいなの。それで聞いてみたわ。なぜ、人間に転生をしなかったとね。そうしたら、『オセロは動物に転生をするだろうから、私もそうしたの』と笑っていた。驚いたでしょう。普通は人間に転生をするわよね。そう思うでしょう、富士見君。私だったら、間違いなく人間に転生をするわよ」
「それでデスデーモナはオセロのことを許しているのだろうか? まだ愛していて欲しいんだよね」
「? ・・・どうしてそんなことを聞くの? 何か企んでいるの?」
「これはまだ、どうなるか分からない話なんだけれども、ハッピーエンド大作戦を考えているんだ」
「ウフフ、何それ」
「まだ、誰にも秘密だからね。ちょっと耳を貸してよ」
彼は周りに聞こえないように、耳元で説明してくれた。
「驚いた。富士見君、そんなことを考えていたの」
「人生の最期は悲劇より、やっぱりハッピーエンドだろう」
「ウフフ、そうね。私も協力するわ。デスデーモナがオセロのことを今はどう思っているのか、それとなく聞いたらいいんでしょう」
「うん。頼めるかな? オセロは反省をしているみたいだからね。今度は上手くいくハズなんだよ。私は二人の間を取り持って、ハッピーエンドに導いてやるんだ」
「いいわね。ウフフ、今度はあの二人が幸せになれるといいわね」
「だよね。よし、がんばるぞ」
二人で楽しい時間を過ごした。あっという間に夕方となった。
「そろそろ、帰らなくっちゃね。お代は私が出すからいいわよ。店長さん、後で請求書をこちらに送ってくださる」
「わかりました」
「それでは、富士見君。帰りましょう」
「うん。でもいいのかな? ここのお代。高くついたんじゃないの?」
「そうかもね。お父様の支払いだから、私には分からないわ」
「そうなんだ。次は私の支払いができる店にしてほしいな」
「えぇ、そうね。今回は就職祝いのようなものだから、本当に気にしなくていいわよ」
「祝ってくれてありがとう。それじゃぁ、お言葉に甘えさせてもらうからね。ごちそうさまでした」
「礼は、いいわよ。さぁ、帰りましょう。駅まで送るわ」
「どうもありがとう」
数分後、駅のターミナル。
「それじゃぁ、富士見君。またね」
私は帰った。
(ふー、なんだか疲れちゃった)
私は車の中から満月を眺めていた。
お父様の力で店を貸し切りにしたのだけれども、富士見君はよく思っていなかったのかな? あまり食べなかった。私はただ、彼に感謝をしているから、おもてなしをしたかっただけなのに・・・。彼は「私の支払いができる店」と言っていた。今回は支払うつもりだったんだ。それを私が台無しにした。舞い上がっていたのは、私の方だった。彼のメンツを考えていなかった。次は彼にすべてを任せよう。でも、貸し切りじゃなかったら、彼は私のファンクラブから、何をされるか分からないじゃない。まずは屋敷に帰ったら、電話をして謝ろう。事情をすべて話そう。彼はたぶん、私のことを考えて、「気にしない」と言うでしょうね。私に遠慮をしないで欲しい。いつになったら本音でしゃべれる仲になれるのかしら・・・。
屋敷に着くなり、お父様が待っていた。
(仕事はどうしたのかしら?)
「今日は楽しかったかね。月」
「えぇ、もちろん。富士見君と少し仲良くなれた気がするわ。ありがとう、お父様」
せっかく、段取りをしてくれたお父様に、なんて言ったらいいのかわからなかった。
「それはよかった。で、彼はどうだった? 喜んでいたか?」
「うん・・・」
私は涙をこぼしてしまった。
「彼に何か言われたのか?」
「違うの、お父様。私がいけないの・・・」
「どういうことだ?」
お父様が怒っているのが、分かった。でも、私は涙が止まらない。ますます、誤解をされてしまう。
(助けて、富士見君)
偶然、携帯電話が鳴った。画面には富士見君の名前。つい、スピーカーのボタンを押してしまっていた。
(皆に聞かれてしまうじゃない)
「もしもし、富士見君。どうしたの?」
「今日はありがとう。それが言いたくって、電話をしたんだけど・・・何かあったの? 泣いているみたいだけど・・・大丈夫?」
「えぇ・・・」
お父様が強引に私の携帯電話を取りあげた。
「君が富士見君か?」
「はい、そうです。本日は貸し切りの件、支払いの件を手配をしていただき、ありがとうございました。おかげさまで楽しい時間を過ごすことができました。このご恩は入社してから、仕事で少しずつ返していこうと考えています」
「あぁ、そうしてくれ」
まだ、怒りの炎が彼に向いているのがわかった。
「ところで、君はいったい何が不満なんだ。娘に何を言ったんだ。言ってみろ。ことの次第では、こちらにも考えがある」
「・・・はい、わかりました。『次は私の支払いができる店にしてほしい』と言いました。まったく彼女の気遣いを理解していませんでした。それを謝りたくって、電話をした次第です」
「うむ。そうか」
私は黙り混むお父様から、無理やり携帯電話を取り戻した。
「ごめんなさい。富士見君」
「いや、いいんだ。気にしないで、君のお父さんにお礼を言えたからね。それよりもまた話をしたいと思っているんだけど、ダメかな?」
「もちろん、いいわよ」
「では、あの件のことは頼んだよ。それじゃぁ、また明日」
「うん、また明日ね」
彼が電話を切った。
(ありがとう)
やはり、思った通りの富士見君で、私は救われた。
「月、あの件ってなんだ」
「私と富士見君だけの秘密よ。お父様にも教えられないわ」
「そんなに隠さないといけないものか?」
「そうよ。だから、この話はもうおしまいね」
どうせ言っても信用しないでしょう。猫がしゃべること、私がオセロニア世界へ飛ばされたこと、富士見君に助けてもらったこと。今の私には彼と話す時間が必要なの。
(分かってね、お父様)
夕食を食べて、自分の部屋で夜風にあたっていた。私はいったい、どうしたのだろう。富士見君のことを妙に意識をしてしまう。今までこんなことはなかったのに・・・。
これが恋というものだろうか? ・・・まさかね。
「どうしたの? 月。ボーッとして」
デスデーモナが話しかけてきた。あわてて、窓とカーテンを閉めた。もっとも、私の部屋は双眼鏡でもないと外からは、のぞけないんだけどね。
「デスデーモナ。今日はいつもより、早く現れたわね」
「えぇ、そうね。あなたがあまりにも隙だらけだったから、気になってね」
「そう。そんなにボーッとしていたかしら」
「恋の病にかかったのかしらね、ウフフ」
「私と富士見君はそんなんじゃないんだから・・・」
「へぇー、彼氏は富士見君というのね」
「だから、違うって・・・」
「でも、気になっている存在なんでしょう。いつ恋に落ちるか分からないわよ。ウフフ。私もそうだった」
「オセロのことかしら」
「そう。ずいぶんと昔のことよ。今のあなたを見ていると、まるで昔の私を見ているようだわ」
「えっ、そうなの」
「うん。私でよければ、恋のアドバイスをするわよ。いつでも言ってちょうだい」
「そのときになったら、よろしく頼むわね」
「えぇ、いいわよ。その時は勇気をだすのよ。月」
(それよりもオセロのことを聞かなくっちゃ。富士見君に協力すると言ったのだから・・・)
「ねぇ、デスデーモナ。聞いてくれる?」
「恋愛の話かしら」
「そう。私のことじゃないわよ。あなたのことよ」
「わ、私。なんで?」
デスデーモナはキョトンとしていた。話の流れから私のことだと思ったみたい。
「あなたはかつて、オセロと恋愛した。その後、悲劇が起きたでしょう。だから、あなたはオセロのことを今でも恨んでいるの?」
デスデーモナはだまり、笑顔で首を横に振った。
「恨んでいたら、転生を繰り返していないわよ。でも、会えたら一発は殴るけどね。だってそうでしょう」
彼女の顔から涙が一雫、こぼれ落ちた。
「うん。私は止めないけど、富士見君は止めるかもね」
「なんで、月の彼氏の名前が出てくるの?」
「だから、彼氏じゃないと言っているでしょう。ここだけの話よ。オセロは富士見君の家にいるの。黒猫としてね」
「えっ、本当なの?」
「うん。富士見君が教えてくれた。だから今度、富士見君の家へ遊びに行こう」
「ぜひ、お願いします。ところで、オセロは私のことを覚えているかしら?」
「もちろん。覚えているわ。それで反省もしているらしいわよ」
「そうなの? じゃあ、許してあげようかしら。殴るけどね」
「ウフフ。明日、富士見君の予定を聞いてみるね」
「うん。ありがとう。月、私はあなたと出会えてよかった。おやすみなさい」
「おやすみなさい。デスデーモナ」
私はカーテンのすき間から見える満月を眺めていた。
しばらく寝れそうにない。デスデーモナが富士見君のことを彼氏、彼氏と連呼するから、意識するわよ。そもそも、富士見君が私のことをどう思っているのか、私には分からないんだからね。この満月が教えてくれるといいのに・・・。
私は白猫にくっついて寝た。
(おやすみなさい。富士見君)
「富士見君、夜分にごめんなさい。もう寝ていたわよね。起こしてしまったのでしょう」
「大丈夫だよ。オセロと話していたからね」
「そう。やっぱりそうなのね。よかった。デズデモナも特異点なのかしら、今夜もしゃべったの。今はもう寝ているけど富士見君の言った通り、あの話の奥さんみたいなの」
「くわしい話が聞きたいから明日、会えないかな?」
彼が私に会いたいと言う。どうしよう。やだわ、心臓がドキドキする。もちろん、断る理由は無い。
「明日は朝からテニスサークルがあるから、昼からなら、いいわよ。食事をしながら話をするのはどうかしら」
「うん、いいよ。キャンバスのベンチで待っているからね。テニスが終わったら声をかけてよ。のんびりと本を読んでいるからね」
「えぇ、分かったわ。それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
(明日は朝から予約を入れなくっちゃ。どこか空いているかしら)
次の日、お父様の力で予約を入れた。ある店を貸し切りにしてもらった。
(彼は喜んでくれるかしら)
私はキャンバスでテニスを楽しんだ。その間、彼は本を読んでいた。やがて、そこに行くと本を顔に置いて、気持ち良さそうに寝ていた。
(ちょっと、起きなさいよ)
「・・・富士見君、起きなさい」
怒って、仁王立ちをした。
(全く、困ったものね)
「ごめんなさい。あまりに気持ちが良かったから、つい・・・」
「・・・まー、いいわ。夜中に電話をした私にも責任があるのだから。今回は大目にみるわ。次からはダメよ」
「はい」
「早く行きましょう。お腹がすいたわ。車に乗り込んでね」
運転手が会釈する。彼は遅れながら、頭をさげた。
「富士見君、どうしたの? 早く乗って」
「うん。ゴメン」
車に乗り込み、キャンバスを後にした。
(どこに連れていかれるのか、心配かしら)
車に乗ること数分。
「着いたわよ」
(さて、気に入ってくれるかしら?)
「富士見君、入るわよ。今日は何を食べようかしら。ウフフ、楽しみ」
ニコニコして中に入った。店の中に入ると店長が、わざわざ出てきた。そして直立。
「本日はご利用ありがとうございます。お嬢様。職人が腕によりをかけて握りますので、楽しみにしていてください」
「ありがとう。楽しみね。富士見君」
「ははは、そうだね」
私は彼の手を引っ張られた。こんなところをファンクラブに見られようもなら、彼に明日はないだろう。
(貸し切りでよかったでしょう。富士見君)
私は彼の手を握って、ドキドキした。
(この気持ちはバレてないよね)
私は照れを隠したかった。
「早く食べましょう。それではよろしくお願いします」
その店の一番高い皿だけが流れてくる。次々と皿を取った。おかげで少し落ち着いた。
「富士見君も皿を取りなさいよ」
「うん。ありがとう」
彼は中トロ等、数皿を取って食べた。
雰囲気が落ち着いてきたので、昨日の話をした。
「デスデーモナはあなたの推測通り、転生を繰り返しているみたいなの。それで聞いてみたわ。なぜ、人間に転生をしなかったとね。そうしたら、『オセロは動物に転生をするだろうから、私もそうしたの』と笑っていた。驚いたでしょう。普通は人間に転生をするわよね。そう思うでしょう、富士見君。私だったら、間違いなく人間に転生をするわよ」
「それでデスデーモナはオセロのことを許しているのだろうか? まだ愛していて欲しいんだよね」
「? ・・・どうしてそんなことを聞くの? 何か企んでいるの?」
「これはまだ、どうなるか分からない話なんだけれども、ハッピーエンド大作戦を考えているんだ」
「ウフフ、何それ」
「まだ、誰にも秘密だからね。ちょっと耳を貸してよ」
彼は周りに聞こえないように、耳元で説明してくれた。
「驚いた。富士見君、そんなことを考えていたの」
「人生の最期は悲劇より、やっぱりハッピーエンドだろう」
「ウフフ、そうね。私も協力するわ。デスデーモナがオセロのことを今はどう思っているのか、それとなく聞いたらいいんでしょう」
「うん。頼めるかな? オセロは反省をしているみたいだからね。今度は上手くいくハズなんだよ。私は二人の間を取り持って、ハッピーエンドに導いてやるんだ」
「いいわね。ウフフ、今度はあの二人が幸せになれるといいわね」
「だよね。よし、がんばるぞ」
二人で楽しい時間を過ごした。あっという間に夕方となった。
「そろそろ、帰らなくっちゃね。お代は私が出すからいいわよ。店長さん、後で請求書をこちらに送ってくださる」
「わかりました」
「それでは、富士見君。帰りましょう」
「うん。でもいいのかな? ここのお代。高くついたんじゃないの?」
「そうかもね。お父様の支払いだから、私には分からないわ」
「そうなんだ。次は私の支払いができる店にしてほしいな」
「えぇ、そうね。今回は就職祝いのようなものだから、本当に気にしなくていいわよ」
「祝ってくれてありがとう。それじゃぁ、お言葉に甘えさせてもらうからね。ごちそうさまでした」
「礼は、いいわよ。さぁ、帰りましょう。駅まで送るわ」
「どうもありがとう」
数分後、駅のターミナル。
「それじゃぁ、富士見君。またね」
私は帰った。
(ふー、なんだか疲れちゃった)
私は車の中から満月を眺めていた。
お父様の力で店を貸し切りにしたのだけれども、富士見君はよく思っていなかったのかな? あまり食べなかった。私はただ、彼に感謝をしているから、おもてなしをしたかっただけなのに・・・。彼は「私の支払いができる店」と言っていた。今回は支払うつもりだったんだ。それを私が台無しにした。舞い上がっていたのは、私の方だった。彼のメンツを考えていなかった。次は彼にすべてを任せよう。でも、貸し切りじゃなかったら、彼は私のファンクラブから、何をされるか分からないじゃない。まずは屋敷に帰ったら、電話をして謝ろう。事情をすべて話そう。彼はたぶん、私のことを考えて、「気にしない」と言うでしょうね。私に遠慮をしないで欲しい。いつになったら本音でしゃべれる仲になれるのかしら・・・。
屋敷に着くなり、お父様が待っていた。
(仕事はどうしたのかしら?)
「今日は楽しかったかね。月」
「えぇ、もちろん。富士見君と少し仲良くなれた気がするわ。ありがとう、お父様」
せっかく、段取りをしてくれたお父様に、なんて言ったらいいのかわからなかった。
「それはよかった。で、彼はどうだった? 喜んでいたか?」
「うん・・・」
私は涙をこぼしてしまった。
「彼に何か言われたのか?」
「違うの、お父様。私がいけないの・・・」
「どういうことだ?」
お父様が怒っているのが、分かった。でも、私は涙が止まらない。ますます、誤解をされてしまう。
(助けて、富士見君)
偶然、携帯電話が鳴った。画面には富士見君の名前。つい、スピーカーのボタンを押してしまっていた。
(皆に聞かれてしまうじゃない)
「もしもし、富士見君。どうしたの?」
「今日はありがとう。それが言いたくって、電話をしたんだけど・・・何かあったの? 泣いているみたいだけど・・・大丈夫?」
「えぇ・・・」
お父様が強引に私の携帯電話を取りあげた。
「君が富士見君か?」
「はい、そうです。本日は貸し切りの件、支払いの件を手配をしていただき、ありがとうございました。おかげさまで楽しい時間を過ごすことができました。このご恩は入社してから、仕事で少しずつ返していこうと考えています」
「あぁ、そうしてくれ」
まだ、怒りの炎が彼に向いているのがわかった。
「ところで、君はいったい何が不満なんだ。娘に何を言ったんだ。言ってみろ。ことの次第では、こちらにも考えがある」
「・・・はい、わかりました。『次は私の支払いができる店にしてほしい』と言いました。まったく彼女の気遣いを理解していませんでした。それを謝りたくって、電話をした次第です」
「うむ。そうか」
私は黙り混むお父様から、無理やり携帯電話を取り戻した。
「ごめんなさい。富士見君」
「いや、いいんだ。気にしないで、君のお父さんにお礼を言えたからね。それよりもまた話をしたいと思っているんだけど、ダメかな?」
「もちろん、いいわよ」
「では、あの件のことは頼んだよ。それじゃぁ、また明日」
「うん、また明日ね」
彼が電話を切った。
(ありがとう)
やはり、思った通りの富士見君で、私は救われた。
「月、あの件ってなんだ」
「私と富士見君だけの秘密よ。お父様にも教えられないわ」
「そんなに隠さないといけないものか?」
「そうよ。だから、この話はもうおしまいね」
どうせ言っても信用しないでしょう。猫がしゃべること、私がオセロニア世界へ飛ばされたこと、富士見君に助けてもらったこと。今の私には彼と話す時間が必要なの。
(分かってね、お父様)
夕食を食べて、自分の部屋で夜風にあたっていた。私はいったい、どうしたのだろう。富士見君のことを妙に意識をしてしまう。今までこんなことはなかったのに・・・。
これが恋というものだろうか? ・・・まさかね。
「どうしたの? 月。ボーッとして」
デスデーモナが話しかけてきた。あわてて、窓とカーテンを閉めた。もっとも、私の部屋は双眼鏡でもないと外からは、のぞけないんだけどね。
「デスデーモナ。今日はいつもより、早く現れたわね」
「えぇ、そうね。あなたがあまりにも隙だらけだったから、気になってね」
「そう。そんなにボーッとしていたかしら」
「恋の病にかかったのかしらね、ウフフ」
「私と富士見君はそんなんじゃないんだから・・・」
「へぇー、彼氏は富士見君というのね」
「だから、違うって・・・」
「でも、気になっている存在なんでしょう。いつ恋に落ちるか分からないわよ。ウフフ。私もそうだった」
「オセロのことかしら」
「そう。ずいぶんと昔のことよ。今のあなたを見ていると、まるで昔の私を見ているようだわ」
「えっ、そうなの」
「うん。私でよければ、恋のアドバイスをするわよ。いつでも言ってちょうだい」
「そのときになったら、よろしく頼むわね」
「えぇ、いいわよ。その時は勇気をだすのよ。月」
(それよりもオセロのことを聞かなくっちゃ。富士見君に協力すると言ったのだから・・・)
「ねぇ、デスデーモナ。聞いてくれる?」
「恋愛の話かしら」
「そう。私のことじゃないわよ。あなたのことよ」
「わ、私。なんで?」
デスデーモナはキョトンとしていた。話の流れから私のことだと思ったみたい。
「あなたはかつて、オセロと恋愛した。その後、悲劇が起きたでしょう。だから、あなたはオセロのことを今でも恨んでいるの?」
デスデーモナはだまり、笑顔で首を横に振った。
「恨んでいたら、転生を繰り返していないわよ。でも、会えたら一発は殴るけどね。だってそうでしょう」
彼女の顔から涙が一雫、こぼれ落ちた。
「うん。私は止めないけど、富士見君は止めるかもね」
「なんで、月の彼氏の名前が出てくるの?」
「だから、彼氏じゃないと言っているでしょう。ここだけの話よ。オセロは富士見君の家にいるの。黒猫としてね」
「えっ、本当なの?」
「うん。富士見君が教えてくれた。だから今度、富士見君の家へ遊びに行こう」
「ぜひ、お願いします。ところで、オセロは私のことを覚えているかしら?」
「もちろん。覚えているわ。それで反省もしているらしいわよ」
「そうなの? じゃあ、許してあげようかしら。殴るけどね」
「ウフフ。明日、富士見君の予定を聞いてみるね」
「うん。ありがとう。月、私はあなたと出会えてよかった。おやすみなさい」
「おやすみなさい。デスデーモナ」
私はカーテンのすき間から見える満月を眺めていた。
しばらく寝れそうにない。デスデーモナが富士見君のことを彼氏、彼氏と連呼するから、意識するわよ。そもそも、富士見君が私のことをどう思っているのか、私には分からないんだからね。この満月が教えてくれるといいのに・・・。
私は白猫にくっついて寝た。
(おやすみなさい。富士見君)