第5話 私の想い
文字数 2,857文字
ある日、私は夜空をながめていた。ふと思った。
(富士見君は今頃、何をしているのかしら)
「・・・さてと、デズデモナ。寝ましょう」
カーテンを閉めて、お布団の中へ入った。
― 夢の中。
不思議なことが起きた。デズデモナが私に話かけてきた。今までこんなことはなかった。
「『月』、もう寝たかしら」
「・・・何?」
「やっとお話ができるようになったわね」
「・・・あなた、本当にデズデモナなの?」
「そうよ。驚いたでしょう?」
「えぇ、そうね」
「これからもお話をしましょうよ」
「いいわ。また今度ね。おやすみなさい。デズデモナ」
「おやすみなさい。『月』」
(ビックリするわよ)
オセロニアの世界へ飛んだせいなのかしら? ・・・だとしたら、富士見君は何かを知っているかもしれないわ。明日、聞いてみよう。
(家を訪ねてみようかしら)
私は富士見君の家を調べて、訪れた。
(何だか、緊張してきた)
家のチャイムを鳴らすとお母さんが出てきた。
「こんにちは。こちらに『富士見 太陽』君はいらっしゃいますか?」
「どちら様でしょうか?」
「私は同級生の『十六夜 月』と言います」
「ごめんなさいね。せっかく来てもらったのに申し訳ないわ。あの子は今、ここにはいないの」
「・・・そうですか。明日、また訪れます。おジャマしました。帰ってきたら、私が訪ねてきたことを伝えてください」
「分かりました。えーっと何様でしたっけ?」
「・・・『十六夜』と申します」
「そうそう、『十六夜』さんね。伝えておくわ」
「それでは、失礼します」
「本当にごめんなさいね。明日の昼までには帰ってくるから、また来てちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」
(そうか、残念ね)
どこかに行っているのね。まさか・・・。さすがにそれはないか。オセロニアの世界には行かないだろう。少し心配になったが、私は送迎車に乗って帰った。
(また、出直しね)
次の日、彼はラフな格好で私を出迎えた。髪はボサボサだった。
(ちょっと来る時間が早すぎたかしら)
彼はあわてて、手で髪の毛を押さえていた。
(クスクス。相変わらず、面白いわね)
「おジャマします」
私は客間に通された。座布団の上にすわった。
「ありがとう。いただきます」
冷たい麦茶を美味しそうに飲んだ。ひと息ついたら、落ち着いた。
「ところで、何かあったの? 昨日も来てくれたんだね。ごめんなさい。オセロニアの世界へ行っていたんだ」
彼が聞いてきた。
(そうだ、聞かなくっちゃ)
「えぇ、驚かずに聞いて。突然、デズデモナが夢の中でしゃべりだしたの。今までこんなことは一度もなかった。『ひょっとしたら富士見君なら、何かを知っているかもしれない』と思ってここに来たの。私の推測では、きっとあの世界でのことが影響しているのでしょう。富士見君とオテロの間には何か変化は無かったの?」
「そういえば、驚いたことがあったよ。ここだけの話だよ。オテロは特異点なのかも知れないんだ。しかも、人間だった時の名前はオセロだったんだ。亡くなって、十五世紀から動物に転生を繰り返していたみたいなんだよ」
「特異点って何よ」
「定義づけできない特別な存在のことだよ」
「オテロがそうなのね」
「たぶん、デズデモナも、そうなんじゃないのかな?」
「えっ、そんなことってあるの? あの物語の続きと言うことかしら? さすがにそれは無いでしょう・・・」
私は彼の言葉の意味を知らなかった。
「あくまでも推測なんだけどね。オテロが本当に特異点なら、可能性は高いと思うんだ」
「もしもよ。その仮説が正しいとして、デズデモナまで特異点というのはどうかしら。それと猫が話し出したことと何が関係あるの?」
「うーん。うまく説明できないけど、私達と特異点の波長が合うのだろう。だから不思議な事象が起きると考えられないかな? 何らかの方法でメフィストフェレスがそれを知っていて、私達に魔導書を与えたとしたら、オセロニア世界に飛ばされたことも説明がつくだろう。そう思わない?」
「まさか・・・ただの偶然よね。私は魔術師の格好をした男が、目の前で本を落として、それを拾っただけよ」
「その男がメフィストフェレスだよ」
「えっ。じゃぁ、メフィストフェレスは偶然を装って、置いていったと言うの?」
「間違いないね。メフィストフェレスはルシファーに『選んで連れてくる』と言ったみたいだからね。私はルシファーが嘘をついているとは思えないんだ」
「あなたはルシファーに、いつ会ったの?」
「こっちの時間で二日前くらいかな? オセロニア世界にアズリエルを送っていったからね。そこでイロイロとあって、ルシファーと出会ったんだ」
「えっ、ちょっと待って。頭の回転が追いつかないわよ。えーっと、あなたの話を信じるならば、アズリエルはこの世界にいたことになるんだけど、あっているの?」
「その通り、正解だよ。たしかにアズリエルはこの世界にいたよ。それにレグス、アムルガル、アルンもいたことがあるんだ」
「私が知らないだけで、大変だったのね。よかったら、その辺りから話を聞きたいわ。私達を時空の渦がのみ込もうとした時に、レグス達は助けようとして、この世界にやってきたのね。申し訳ないことをしたわ」
「そうだね。でも、この世界を楽しんでくれたから、よかったよ。向こうの世界まで送っていくのが大変だったよ」
「そう。それでどうなったの?」
私は富士見君としゃべっていると楽しかった。この時間を引き延ばしたかった。
(彼も同じ気持ちなのかしら? やけに今日はしゃべるわね)
「その時にメフィストフェレスもオセロニア世界へ送ったんだ。その後、アディ達と幻の都市ゴルディオンを攻略したんだよ。不死の王ミダスには、まいったよ。触れるものをすべて黄金に変えてしまうんだ」
「あなた、よく生きて帰ってこれたわね」
「そうだね。その時にアズリエルがついてきたんだ」
「そうなのね」
「キャンバスで君に会った時には、家にいたよ」
「アズリエルは私のことをおぼえているかな?」
「それはどうかな? あの時、君は白猫のデズデモナだったからね」
「・・・そうよね」
その時、私の携帯電話が鳴った。
(残念ね)
「ごめんなさい。富士見君。そろそろいかなくっちゃ。楽しい時間は早く過ぎていくのね。・・・そうだ。よかったら連絡先を交換しない?」
「はい」
彼と連絡先を交換した。
「それじゃぁね。ありがとう、富士見君。後で連絡するわ」
私は送迎車に乗り込んだ。
(これでいつでも連絡できるわね)
しかし、この時から事件は始まってしまったのかもしれない。宿命づけられた因果のことを、動き出した時空の歯車を。そして私の恋愛も・・・。
(富士見君は今頃、何をしているのかしら)
「・・・さてと、デズデモナ。寝ましょう」
カーテンを閉めて、お布団の中へ入った。
― 夢の中。
不思議なことが起きた。デズデモナが私に話かけてきた。今までこんなことはなかった。
「『月』、もう寝たかしら」
「・・・何?」
「やっとお話ができるようになったわね」
「・・・あなた、本当にデズデモナなの?」
「そうよ。驚いたでしょう?」
「えぇ、そうね」
「これからもお話をしましょうよ」
「いいわ。また今度ね。おやすみなさい。デズデモナ」
「おやすみなさい。『月』」
(ビックリするわよ)
オセロニアの世界へ飛んだせいなのかしら? ・・・だとしたら、富士見君は何かを知っているかもしれないわ。明日、聞いてみよう。
(家を訪ねてみようかしら)
私は富士見君の家を調べて、訪れた。
(何だか、緊張してきた)
家のチャイムを鳴らすとお母さんが出てきた。
「こんにちは。こちらに『富士見 太陽』君はいらっしゃいますか?」
「どちら様でしょうか?」
「私は同級生の『十六夜 月』と言います」
「ごめんなさいね。せっかく来てもらったのに申し訳ないわ。あの子は今、ここにはいないの」
「・・・そうですか。明日、また訪れます。おジャマしました。帰ってきたら、私が訪ねてきたことを伝えてください」
「分かりました。えーっと何様でしたっけ?」
「・・・『十六夜』と申します」
「そうそう、『十六夜』さんね。伝えておくわ」
「それでは、失礼します」
「本当にごめんなさいね。明日の昼までには帰ってくるから、また来てちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」
(そうか、残念ね)
どこかに行っているのね。まさか・・・。さすがにそれはないか。オセロニアの世界には行かないだろう。少し心配になったが、私は送迎車に乗って帰った。
(また、出直しね)
次の日、彼はラフな格好で私を出迎えた。髪はボサボサだった。
(ちょっと来る時間が早すぎたかしら)
彼はあわてて、手で髪の毛を押さえていた。
(クスクス。相変わらず、面白いわね)
「おジャマします」
私は客間に通された。座布団の上にすわった。
「ありがとう。いただきます」
冷たい麦茶を美味しそうに飲んだ。ひと息ついたら、落ち着いた。
「ところで、何かあったの? 昨日も来てくれたんだね。ごめんなさい。オセロニアの世界へ行っていたんだ」
彼が聞いてきた。
(そうだ、聞かなくっちゃ)
「えぇ、驚かずに聞いて。突然、デズデモナが夢の中でしゃべりだしたの。今までこんなことは一度もなかった。『ひょっとしたら富士見君なら、何かを知っているかもしれない』と思ってここに来たの。私の推測では、きっとあの世界でのことが影響しているのでしょう。富士見君とオテロの間には何か変化は無かったの?」
「そういえば、驚いたことがあったよ。ここだけの話だよ。オテロは特異点なのかも知れないんだ。しかも、人間だった時の名前はオセロだったんだ。亡くなって、十五世紀から動物に転生を繰り返していたみたいなんだよ」
「特異点って何よ」
「定義づけできない特別な存在のことだよ」
「オテロがそうなのね」
「たぶん、デズデモナも、そうなんじゃないのかな?」
「えっ、そんなことってあるの? あの物語の続きと言うことかしら? さすがにそれは無いでしょう・・・」
私は彼の言葉の意味を知らなかった。
「あくまでも推測なんだけどね。オテロが本当に特異点なら、可能性は高いと思うんだ」
「もしもよ。その仮説が正しいとして、デズデモナまで特異点というのはどうかしら。それと猫が話し出したことと何が関係あるの?」
「うーん。うまく説明できないけど、私達と特異点の波長が合うのだろう。だから不思議な事象が起きると考えられないかな? 何らかの方法でメフィストフェレスがそれを知っていて、私達に魔導書を与えたとしたら、オセロニア世界に飛ばされたことも説明がつくだろう。そう思わない?」
「まさか・・・ただの偶然よね。私は魔術師の格好をした男が、目の前で本を落として、それを拾っただけよ」
「その男がメフィストフェレスだよ」
「えっ。じゃぁ、メフィストフェレスは偶然を装って、置いていったと言うの?」
「間違いないね。メフィストフェレスはルシファーに『選んで連れてくる』と言ったみたいだからね。私はルシファーが嘘をついているとは思えないんだ」
「あなたはルシファーに、いつ会ったの?」
「こっちの時間で二日前くらいかな? オセロニア世界にアズリエルを送っていったからね。そこでイロイロとあって、ルシファーと出会ったんだ」
「えっ、ちょっと待って。頭の回転が追いつかないわよ。えーっと、あなたの話を信じるならば、アズリエルはこの世界にいたことになるんだけど、あっているの?」
「その通り、正解だよ。たしかにアズリエルはこの世界にいたよ。それにレグス、アムルガル、アルンもいたことがあるんだ」
「私が知らないだけで、大変だったのね。よかったら、その辺りから話を聞きたいわ。私達を時空の渦がのみ込もうとした時に、レグス達は助けようとして、この世界にやってきたのね。申し訳ないことをしたわ」
「そうだね。でも、この世界を楽しんでくれたから、よかったよ。向こうの世界まで送っていくのが大変だったよ」
「そう。それでどうなったの?」
私は富士見君としゃべっていると楽しかった。この時間を引き延ばしたかった。
(彼も同じ気持ちなのかしら? やけに今日はしゃべるわね)
「その時にメフィストフェレスもオセロニア世界へ送ったんだ。その後、アディ達と幻の都市ゴルディオンを攻略したんだよ。不死の王ミダスには、まいったよ。触れるものをすべて黄金に変えてしまうんだ」
「あなた、よく生きて帰ってこれたわね」
「そうだね。その時にアズリエルがついてきたんだ」
「そうなのね」
「キャンバスで君に会った時には、家にいたよ」
「アズリエルは私のことをおぼえているかな?」
「それはどうかな? あの時、君は白猫のデズデモナだったからね」
「・・・そうよね」
その時、私の携帯電話が鳴った。
(残念ね)
「ごめんなさい。富士見君。そろそろいかなくっちゃ。楽しい時間は早く過ぎていくのね。・・・そうだ。よかったら連絡先を交換しない?」
「はい」
彼と連絡先を交換した。
「それじゃぁね。ありがとう、富士見君。後で連絡するわ」
私は送迎車に乗り込んだ。
(これでいつでも連絡できるわね)
しかし、この時から事件は始まってしまったのかもしれない。宿命づけられた因果のことを、動き出した時空の歯車を。そして私の恋愛も・・・。