第4話 二人の異世界人

文字数 3,529文字

 私はプラチナクラスで一進一退の攻防をしていた。プラチナクラスは魔境だった。負ける時は、対戦者に罠を仕掛けられていた。蘭陵王リーダーの神統一デッキに貫通攻撃できる駒はない。
 (オテロならこんな罠にひっかからないわよね)
 私はデッキを見直そうと考えた。
 (シーラーザードの神デッキを試して見ようかしら)
 回復耐久と呼ばれるデッキ。盤面を支配する戦法。
 (うーん、シエンティアも試してみたいわね)
 毒耐久と呼ばれるデッキ。毒で相手の体力を削る戦法。
 (うーん。困ったわね。デッキ作りは難しいわ)

 取りあえず、試してみた。連勝することができるようになったのはありがたい。
 (頭を使う分、疲れるのよね)
 苦労したが、ダイヤモンドの証しを手にいれた。
 (やはり、蘭陵王に戻そう)
 一周、回った。落ち着くところに落ち着いた。

 後、一つでダイヤモンドマスターの証しが手にはいるところまで勝ち上がった。
 (いよいよね)
 彼との戦いだった。この最高の舞台で、再び対決することになった。
 彼は竜デッキ。デネヴをリーダーにしていた。
 (仲間にしたのね)
 「よろしくお願いします」
 お互いにあいさつをした。戦いの幕が上がる。

 白番、後攻。嫌な予感がした。
 彼はクロリスを投げた。ヤル気満々で微笑んでいた。
 (な、何なの。オテロと会話しているの?)
 彼と絆があると言いたいのかしら、クロリス。
 (許さないわよ)
 私はルキアを投げた。オーラのランドタイラントを釣り出すつもり。
 策は実らなかった。エルツドラッフェが飛び出してきた。
 (さすがに無理があったわね)
 私はティターニアを投げた。ニターンで四千の特殊ダメージ。
 (どう、オテロ)
 彼は次の駒を投げてこない。駒に怒られているみたいだった。ファイアドレイクを一枚返しで投げてきた。
 (怒っていたのはファイアドレイクだったのね)
 私も次の駒に困った。今、投げれる駒がなかった。時間切れで、ヴィクトリアが飛び出した。
 (ちょっと・・・)
 泣きたかった。彼は手を緩めなかった。アムルガルを投げた。ヤル気満々のアムルガルを腹立たしく思えた。
 (ちょっとは手加減しなさいよ)
 私はファヌエルを引いた。そのまま投げた。彼の顔色が変わったのが分かった。ゴールドクラスのことを思い出したのだろう。
 (さぁ、勝負はこれからよ)
 彼はこの場面でジェンイーを引いた。一コンボをくらった。大ダメージ。
 (くっ、手加減なしね)
 私は彼をにらんだ。さすがに罰が悪そうな顔をしていた。私が教えたジェンイー。彼は忘れていなかった。
 (このままでは終わらないわよ)
 私は最初からエンデガを握っていた。こんな時に限って早番なんて、信じられない。
 (後で説教ね)
 でも、多分これで終わりよ。オテロ、今回も私の勝ちね。対戦ありがとう。
 エンデガを投げた。歓声が上がる。勝負ありと思った。彼の体力は三桁しかない。もう9割方、私の勝ちよ。彼の顔を見た。まだ闘志が衰えていなかった。絶体絶命の場面で何ができるのだろう。まだ逆転の一手があると言うの。まさかね・・・。
 そのまさかを彼はやって見せた。レグスを引いてきた。アムルガルのコンボルートにレグスを投げられた。
 (そう、私の負けね)
 悔し涙がこぼれた。後、一歩だったのに・・・。
 私は泣きながら舞台を降りた。
 彼はダイヤモンドマスターの証しを手にいれた。観客は一緒に祝っていた。
 (そうだ。彼を祝わないとね)
 少し時間を置いて、広場にいる彼の元に行った。
 「オテロ、おめでとう。今は悔しいけど祝福させてもらうわ。まさか本当にジェンイー達をスカウトしていたとはね。驚いたわよ」
 「ありがとう。ダイヤモンドマスターに、なれたのはデズデモナのおかげだよ」
 「そうかな。でも教えるんじゃなかったわ。教えていなかったら、今日は私が勝っていたわよね」
 「それよりも、この場に立ててなかっただろうね。デズデモナには感謝しかないよ。何かお礼をしたいくらいだよ」
 「お礼ねー。どんな願いでもいいの?」
 「うん」
 「じゃぁ、一緒に探してくれない。元の世界に戻れる方法」
 「えっ、今なんて言った? 『元の世界』って言わなかった」
 「言ったわよ」
 「実は、私もなんだ。異世界人」
 「えー、・・・こんなことってあるの。私以外にいたなんて・・・しかも目の前にいる貴方が異世界人」
 「本当にビックリだよね。神様のいたずらかな?」
 「いたずらにしてはひどくない」
 「そうだね」
 「じゃぁ、偽名なんだね」
 「そうよ。オテロもでしょ」
 「そうだね。身の危険を感じたからね」
 「私はヴィクトリアが『そうした方がいい』と言ったからよ。それで姿が白猫だったから、飼い猫のデズデモナを名乗ったの」
 「私もそうだよ。黒猫だったからオテロにしたんだ」
 「ははは、おかしいの。同じようなことを考える人がいたなんて」
 「へへへ、本当だね。おかしいね」
 元の世界の名前などを二人で長い間、話をした。二人だけの秘密だった。
 「デズデモナ。こっちの街で一緒に探さないか?」
 「ありがとう。でも迷惑じゃないの?」
 「そんなことないよ。戻る方法は絶対に探すよ」
 「わかった。オテロを信じることにするわ。一緒に連れて帰ってね」
 「約束するよ」
 それから彼と一緒に行動するようになった。

 アディとサルースが中心となって、宴の準備を広場で行っていた。広場には、「祝! ダイヤモンドマスター」と書かれた看板が設置された。
 なぜだか嬉しくなった。ダイヤモンドマスターになったのはオテロだと言うのに。自分のことのように思っていた。
 (彼と仲間になったと言うことかしら?)
 私は気づいていなかった。仲間としてではなく、好きな人がほめられているのが、嬉しかったことを・・・。
 (ここに来てよかったわ。皆、イイ人ばかりね)
 その後、この場所に残る者。旅立つ者。突然のことにオテロは、さみしそうにしていた。
 (さみしいなら、私が側についていてあげるわよ)
 満月が突然、欠けて行く。時空の渦が私とオテロをのみ込もうとしていた。アルン、レグス、アムルガルが身体を支えてくれたが、ダメだった。私達は闇に消えた。

 目を覚ますとベッドの上だった。
 (よかった。帰ってこれたのね)
 朝日がまぶしかった。ありがとう、オテロ。・・・じゃなかった、富士見君。あなたに感謝しています。
 (さぁ、普段の日常を過ごさないとね)
 私はキャンバスに通った。テニスサークルのためにね。彼は、なかなかキャンバスに現れなかった。
 (お礼を言いたいのに・・・)
 ある日、大きな木の下にあるベンチに彼はすわっていた。
 (やっとお礼を言えるわね)
 「ちょっと、横。いいかしら」
 彼は、あわてて立ち去ろうとした。
 (何でよ)
 「ちょっと、待って。あなたが『富士見』君でしょう」
 「はい。そうです」
 「何で立ち去ろうとするの? 私はあなたと少し話がしたいのにダメなの?」
 「いや、あのー。そんなことはないです」
 「じゃぁ、一緒にすわりましょう」
 ベンチにすわって、「ここよ」と言わんばかりにベンチを叩いた。
 「あなた、変よね。デズデモナの時には、私の側に堂々とすわったじゃない」
 「いやー、ははは。あの時はまさか『十六夜』さんと知らなかったから。白猫だったので・・・ごめんなさい」
 「別にあやまらなくってもいいわよ。そんなことをされるとしゃべりづらくなるわ。あなたには感謝をしているのに・・・」
 彼は不思議そうな顔をしていた。感謝されることは、何もしていないのになと言う顔。
 「あなたは約束を守ってくれた。私をこの世界へと連れて帰ってくれた。それがどれ程、嬉しかったことか。感謝しているわ。ありがとう。その一言がいいたくって、あなたがここにくるのをズーッと待っていたの」
 「ゴメンなさい。ずっと気になっていたけどよかった。無事に戻れたんだね。安心したよ。これで明日はがんばれそうだ」
 「明日は何かあるの?」
 「就職活動だよ」
 「そう、頑張ってね。応援するわ」
 「ありがとう。頑張るよ」
 仲良く話をした。時間を忘れていた。
 「月。そろそろお昼にしない?」
 サークルの仲間が私の姿を見て、食事に誘った。
 「ちょっと待って。今、行くわ。それじゃ、またね」
 友人達と去った。
(また話をしましょう。富士見君)
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