第9話 私の作戦とオセロニア

文字数 4,218文字

 「ジェンイー、いるか」
 「どうした、デネヴ」
 「久しぶりね。ジェンイー」
 「お前はデズデモナ。どうした?」
 「ジェンイー、懐かしんでいる場合じゃないの。この世界のピンチなの」
 「いきなり、何のことだ」
 「私の彼氏が食い止めに行ったから、あなたはこの街を守ってほしいの。彼がそう言えと言ったの」
 「彼氏とは誰だ」
 「この世界では黒猫の『オテロ』と呼ばれているわ」
 「何? アイツが戦っているのか」
 「だから、彼を助けてあげてほしいの」
 「分かった。アイツが『この街を守れ』と言っているんだな。デネヴ、お前はルシファーを急いで呼んでこい」
 「・・・あぁ、分かった」
 デネヴは走った。ジェンイーは門番に命令して、あわただしく街の門が閉められた。城壁の大砲をジェンイーは調整していた。
 (あれで迎え撃つのね)
 ジェンイーの作業は終了した。いつでも撃てるみたい。
 (こっちはいつでもいいわよ。「太陽」)

 待っていると化け物の姿が見えた。
 (何よ、あれ・・・)
 ツギハギだらけの化け物。よく見ると彼が追いかけていた。
 (あれがイヤーゴなのね)
 もはや灰色の猫ではなかった。あわれな姿に見えた。
 「ジェンイー、あれが今回の敵よ。照準をあわせて」
 「よし、任せろ」
 化け物は私の姿を見て、上空から降りてきた。
 「『太陽』待たせたわね。いいわよ、ジェンイー」
 「撃てぇ」
 大砲から放たれた火炎弾がイヤーゴを襲う。流石のイヤーゴも火炎は防げない。翼を広げ、上空へ再び飛び上がった。
 「まずはお前から始末してやるデスデーモナ。すべてはお前がいけないんだ」
 「なんでよ。デスデーモナはあなたに何もしていないでしょう。勝手なことを言わないでよ」
 「うるさい、白猫。デスデーモナさえ、俺に振り向けばよかったんだ。すべてはオ○ロ、アイツがいけないんだ」
 「勝手なことを言うな、イヤーゴ。お前の相手はここにいるぞ。今こそ、お前との因果を決着してやる」
 オ○ロが幻影として現れた。
 「チッ、オ○ロ。うるせー、お前はいつもそうだ。高くとまりやがって、誰のおかげで戦に勝ってきたと思っているんだ」
 「お前こそ、うぬぼれるな。一人の力で戦に勝利できる訳がないんだぞ。みんなで団結して戦ったから勝てたんだ。勘違いをするな」
 「うるせー。どっちが正しいか証明してやる。力の違い、格の違いを見せつけて、お前とデスデーモナをひねりつぶしてやる。そして、この世界を支配してやるぞ。ギャハハ」
 興奮して叫ぶイヤーゴ。救いようがない、闇にのみこまれている。
 「そんなことをさせるかー」
 彼が怒った。
 (初めて見た。彼の怒っている姿)
 「先ずはお前達からだ。オ○ロ、黒猫」
 彼は城壁をよじ登るとジェンイーに私のことを守ってくれるように頼んだ。砲台に乗って、照準を合わせる。
 「くらえ、イヤーゴ」
 「させるかー」
 イヤーゴは大砲ごと彼をのみ込んだ。
 「いやー、『太陽』」
 私の叫び声が響いていた。

 「ギャハハ、ついにオ○ロを始末したぞー。これでジャマ者はいなくなった。これで俺様の天下だ」
 「ふざけないで、私の『太陽』を返しなさい」
 「ギャアギャア、うるせー。お前も一緒に飲み込んでやるよ」
 大きく口を開くイヤーゴ。
 「キャー」
 絶体絶命の白猫を前にして、イヤーゴは動きがおかしい。
 「・・・今の内に・・・『るなさま』・に・げ・て・く・だ・さ・い・・・」
 わずかな土門の意識がイヤーゴの歩みを止めた。身体がイヤーゴの表面に浮かび上がる。必死に私を守った。
 (ありがとう。土門君)
 その隙にジェンイーが救いだしてくれた。
 「これはどういうことだ。説明しろ、デズデモナ」
 「詳しいことは分からない。でも、あの化け物に同級生の土門君が取り込まれているの」
 「こちらからは攻撃できないということか、都合のいい人質と言う訳だな」
 「そうね。現状は、お手上げよ」
 イヤーゴが街に向かってゆっくりと歩きだした。土門の意識が限界を迎えた。
 「ギャハハ、ついに力尽きやがった。バカなヤツだ。俺様を押さえ込むなんて人間の分際で、できる訳がないだろう。先ずはこの街から破壊してやる。街の名前がオテロなんて、気に入らん。ぶっ潰してやる」
 「ふん。それがお前にできるのならば、試してみるがいい」
 上空から現れたルシファーが城壁の上でイヤーゴと対峙する。
 「くらえ」
 イヤーゴが城壁を破壊しようとパンチを繰り出した。ルシファーはパンチの当たる部分にシールドを配置。
 「おろかな。その程度とはな・・・。準備体操にも、ならん」
 ルシファーの一言にイヤーゴはキレた。連続パンチを繰り出した。その都度、ルシファーはシールドを配置。まるで遊んでいるかのようにイヤーゴをあしらった。
 「チッ、こうなったら・・・」
 イヤーゴは身体全体を巨大化。頭に血がのぼっていた。
 「今だ。オテロ」
 ルシファーは彼の名前を呼んだ。
 (えっ、生きているの?)
 彼はイヤーゴの身体の構造が薄くなる瞬間を見逃さなかった。その頃、意識のなかった土門君を救出し、脱出するタイミングを計っていたの。
 「カムイ無双流・震槍」
 「グオォ、止めろ。腹がイテェ」
 彼は腹を突き破り、脱出。土門君を救出した。
 彼は胃酸や消化物まみれだった。虎のマスクはボロボロ。ハギレ状態だった。城壁の下に流れる堀に飛び込んだ。マスクは流れていった。土門君を先に上げた。彼は堀からあがり、イヤーゴに向かう。
 「イヤーゴ、覚悟しろ」
 「キサマー、よくもやりあがったな。殺してやる」
 腹を押さえ、無理やり止血を行っていた。
 「オテロ、久しぶりだな。元気そうで、なによりだ」
 ルシファーが彼の側に立った。
 「そういえば、君に会ったら聞こうと思っていたんだ」
 「ほう、何だ。言ってみろ」
 「君は闇の特異点と光の特異点の因果を知っていたのだろう。違うかな?」
 「あぁ、知っていた。この世界が巻き込まれることもな」
 (何の話をしているのかしら?)
 「オテロ、君は世界を救うために何かを捨てなくてはならなかったら、家庭、仲間、赤の他人の内から、どれを捨てる。答えを聞かせて欲しい」
 普通はもちろん、赤の他人よね。家庭や仲間は大事。一番に守るべきもの。でも、彼等の答えはこの中に無かった。
 「私ならすべてを捨てない。理想と笑われても、それを現実的に変えてみせるさ」
 「ははは、そうだろうな。君ならそう言うと思っていた。光の特異点、オテロ。君のような存在を待っていたのだ。枠に収まらない存在の特異点をな。すべての民を救うために行くぞ、オテロ。最終決着だ」
 ルシファーはこの世界のすべてを守ろうとしているみたい。
 (たった一人でこの世界を背負っているみたいね)
 「この愛すべき世界のために」
 それが二人の答えだ。
 (何よ、二人の世界に入っちゃって・・・)
 私はついていけない。ことの成り行きを見守るしか無かった。
 「行こう、ルシファー。悪を討つんだ」
 彼は走った。

 イヤーゴは再び、動きだした。
 「バカなヤツらだ。おかげで回復したぜ。血祭りにあげて欲しいヤツから、かかってこい」
 「・・・そうか、なら私から行こう。くらえ、シャイニングフォース」
 背後からゼルエルの攻撃。イヤーゴの羽を切り裂いた。
 「これで、お前は飛べないぞ。行けー、オテロ」
 「おのれー」
 「どこを向いている。お前の相手はこっちだ。『ネオ・ミアズマ・ゴッデス』」
 イヤーゴはルシファーにより、攻撃力をさげられ、体力を奪われ、特殊魔法攻撃による追加ダメージをくらう。そこに彼の一撃。
 「ありがとう、ルシファー、ゼルエル。行くぞ、イヤーゴ。これで終わりだ。カムイ無双流・砕拳」
 手応えがあったみたい。彼が放つ渾身の一撃だった。しかし、イヤーゴは倒れていなかった。最期にみせた意地だった。
 「これで勝ったと思うなよ。また復活して、お前を地獄へ送ってやる。なんせ、俺様は闇、その物だからよー。人間がいる限り、闇はなくならないんだからな、ギャハハ」
 「うるせー、消えろ」
 レグスはいらだち、イヤーゴを切り裂いた。悪人イヤーゴの最期だった。
 (終わりね。デスデーモナ、やったわよ)
 オセロとイヤーゴの長きにわたる因縁が幕を閉じた。オセロニアの世界に平和が訪れた。城壁に立つ彼はルシファーと共に称賛されていた。
 (この街は彼のことを神様のように思っているのね)

 「痛いよ、『月』。許してよ、ゴメン」
 「いいえ、許さない。あなたは約束を破ったのだから・・・。私がどれだけ心配したか、分かっているの?」
 力一杯、頬をつねった。ルシファー達は彼を笑っていた。
 「本当にゴメン。あれしか土門を救う方法を思いつかなかったんだ」
 「私はあなたが目の前で死んだと思ったのよ。もう二度とあんなことはしないで、いいわね。約束よ」
 「はい、約束します。ごめんなさい」
 「じゃあ、いいわ。土門君が助かったから、特別に許してあげる」
 少し離れた所で、土門君がキョトンとしていた。私を怒らせてはいけないと思ったのかもしれない。彼が近寄って話をしていた。
 「土門、実はね。私と彼女は付き合っているんだよ」
 「なにー、許さん」
 彼は土門君に背負い投げをくらった。地面に叩きつけられていた。
 「でも、まー、なんだ。助けてくれてありがとうな。富士見」
 「あぁ、一つ『貸し』にしておくよ。土門」
 手を引っ張りあげ、起こしていた。
 (ウフフ、男の友情と言うことかしら)
 「あまりモタモタしていると『月様』に怒られるからな。行こうぜ」
 「あぁ、そうしよう」
 (さぁ、これからが私のターン。もう、この世界へ彼が戻ってきても、女性陣からモテないようにするんだから。サヨウナラ、オセロニア世界。みんな、ありがとう)
 みんなに見送られ、彼とキスをした。そのまま、元の世界へと私達は帰ってきた。
 私の作戦は失敗したのを知らなかった。この世界の女性陣はそんなことでは、彼を諦めなかったのよ。
 (どうしたら、よかったのよ)
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