第6話

文字数 1,114文字

入学して1週間もすると桜は完全に散り、あっという間に衣替えの季節になった。
つい2日前に関東は梅雨入り。今日はじめじめと蒸し暑い。
いつも通り太一とは6組の前で別れて2組に向かう。
「おはよー。」
「おはよ。」
もう見慣れた顔触れ。『高校生』もちょっとは板についてきたと思う。たぶん。
「今日も安藤君と?」
席に着くなり頬杖をついた明里がニヤニヤしている。
「いつものことでしょ。」
机の横にバッグを掛け明里に向き直る。
「ほーんと、仲良いね。」
羨ましいと付け足す明里。
うん…仲、良かったよ。
実を言うとこのところ太一とは上手くいっていない。
小学3年生から地域のクラブでバレーを始めたが、6年生の1月、脚を怪我してバレーができなくなった。中学にいっても当然バレー部に入ると思っていた私にはショックが大き過ぎて暫く塞ぎ込んだ。
中学の入学式ではまだ脚の怪我を引きずっていたけど、だいぶ気持ちも切り替えられてたし、プレイヤーにはならなくてもバレーが好きなことに変わりはない。どんな形でもバレーに関わりたい。そう思って女子バレー部のマネージャーをやらせてくれと顧問に、同じクラブチームだった綾音と遥香と直談判に行ったものの「女バレは人数も多いし、マネージャーがいなくても部員同士で助け合ってる。」と門前払いを食らった。
しかし、捨てる神あればなんとやら。
男子バレー部の顧問に拾ってもらえ、中3、9月の引退まで私はバレーに関わることができたし、そこで仲良くなった太一と付き合う様にもなった。
同じ高校行こうって太一が言ってくれたから受験だって頑張れた。
高校に行ったらまた太一はバレー部に入って、私はマネージャーとして太一とずっと一緒。そう思ってた。
「バレーはするけどバイトもしたいし…」そう煮え切らない態度でのらりくらりと入部を先延ばしにした太一は、ゴールデンウィークが終わってすぐに駅前のコンビニでバイトを始めた。

ふと思い出すのはバレー部のマネージャーになったばかりの頃のこと。
男子バレー部のマネージャー?男好きなんじゃないの?
後から知ったことだけど中学の部活にマネージャーがいるのはちょっと珍しいものだった。
ただでさえ目立つポジションに収まってしまったのに、それが男子バレー部の女子マネージャー。
先輩の女子から不名誉なレッテルを貼られて落ち込む私を励ましてくれたのも太一だった。
いつ、太一のこと好きになったんだろう…。
気付いたら太一のことを目で追っていた。いつの間にかバレーと同じくらい太一が好きで、私がバレー部に所属し続けられたのは太一がいたから。
バレーと太一が結び付いてしまった今、太一がバレー部に入らないのなら私がバレー部に入る意味が無くなってしまった。
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