第5話

文字数 918文字

あと2人、あと2人…。
高校生活2日目の1限は自己紹介だった。
少し前から自己紹介をまともに聞く余裕は無く、自分の番にどんなことを言えばいいのか、そればかり考えている。
「です!よろしくお願いしまーす!」
頭を抱えているとついに自分の番が来てしまった…。もう…どうとでもなれ!
勢いのままに立ち上がり教卓に向かう。私と同じ不安や期待の入り混じった視線に不快感を覚えた。
「三中出身、松本礼奈です。中学の3年間バレー部のマネージャーやってました。ディズニーと可愛いスイーツが好きです。よろしくお願いします。」
前の人達に倣った自己紹介になってしまったな…。こんなので大丈夫かな?
きっとどんな自己紹介をしたって私は後悔するんだろうとプレッシャーから解放された達成感と、結局終わったところで残る不安を感じたまま席へ戻った。
「えっと……小宮山中出身の三浦明里です。……はい…。」
三浦さんっていうんだ…。
入れ替わりで前に立った彼女はオドオドした頼りない雰囲気だ。それ以上は何も言えないとでも言いたげに数秒黙るとお辞儀をして早足で席に戻ってきた。

2限は校内オリエンテーション、3限は体育館で上級生との対面式。その後またHRをやって今日は終わり。明日はクラス分けのテストを受けて土日を挟んだ月曜からは通常授業と…。
綾音達どうしてるかな。帰ったら連絡しよう。
1限が終わって完全に腑抜けていた。
「松本さん、ねえ…」
後ろから声をかけられ振り向くと昨日と同じ、三浦さんが私を見つめている。
「三浦さん、だよね?」
「うんっ」
自己紹介の時とは格段に違う穏やかな雰囲気で三浦さんは笑っていた。
「えっと、バレー部のマネージャーって…」
お?もしかしてバレー好きなのかな?
「朝の、盗み聞きみたいに思われそうだけど、山本君だっけ?大会で会ってたってやつ。」
穏やかだけど控え目に、こちらを伺う様にも感じる口調の三浦さん。思わず私も彼女を観察する様な気分で返事をする。
「山本君のことは覚えてなかったんだけどね。」
「ふふっ。男子バレー部のマネージャーだったの?」
声を出して、目を細めて笑った三浦さんは同性の私から見ても可愛かった。それこそ、私よりスイーツが似合いそうな、砂糖菓子みたいな女の子。
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