第4話

文字数 1,045文字

次の日、朝5時半から枕元に置いたスマホがけたたましくアラームを鳴らす。夢現、瞼も開かぬまま手探りでスマホを探す。
うるさい…。
こんなに早起きするのはバレー部のマネージャーを引退して以来久しぶりだ。
やっとの思いで起き上がったのは3回目のアラームで、結局6時になってしまった。
今日からは学校にメイクだってして行ける。その為に早起きしたんだ。
覚醒しきっていない身体を無理矢理洗面所まで動かす。顔を洗って鏡を見ると見慣れたスッピン。
毎日メイクしていればそのうちスッピンよりそっちの顔の方が見慣れた顔になるのかな…。

駅までは徒歩10分、途中のコンビニで太一を待つ。
「おはよー。」
学校で飲もうと思ったお茶を買って外に出ると少し離れたところから太一の声がした。
「おはよ。」
お茶をバッグにしまいながら返事をする。そのまま駅まで並んで歩く。
2週間しか無かった春休みだけど、されど2週間。こうして太一と通学するのが凄く久しぶりに感じ、日常が戻った気がした。
今までと通学路は違うけど。
電車に揺られること30分、学校の最寄駅からは歩いて5分。3年間、この道を通うんだなと急に不思議な気分になった。
「じゃあ帰りにまた下駄箱前で。」
教室のある4階に上がって、階段目の前の6組の前で太一とは別れる。
日常に戻った…なんてさっき思ったのに今度は不安が押し寄せる。
自分の教室に入り席に着く。スマホをいじるふりをして様子を伺うと私と同じように1人で居る人もいるが、いくつかの小さなグループのようなものも出来ていた。
もう少し早く登校した方がよかったかな。出遅れた気がしてジリジリと心が騒いだ。
「ねねね、えっと…安藤太一の彼女?だよね?」
「え?」
スマホに注視しながら後悔の念に苛まれている私の頭上から予想外の言葉を掛けられた。
パッと顔を上げるも知らない人。
「えっと…?」
戸惑う私に屈託の無い笑顔を向ける。
……誰?
「三中だよね?」
「うん。」
「俺、六中のバレー部。大会で何度か会ってるよ?」
その言葉を聞いても目の前の彼の記憶は蘇らない。思い出すのは大会で戦う太一のことばかり。
きっと私は怪訝な顔をしていたのだろう。
「まあ他所の学校のバレー部は記憶に残っても個人は覚えてないか。」
一瞬困った様な顔をした彼はまた笑顔を作った。
「元六中バレー部のミドル、山本。覚えてよ?」
「あ、うん。ごめん。」
ミドルといえば太一と同じポジション。それなのに覚えていなかったなんて…。
思わず謝る私に笑顔のまま彼、山本君はもう出来たらしい友達の輪へと戻って行った。
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