第8話

文字数 788文字

6限の授業は急遽学年集会になった。
黙祷はしなくてもやっぱり同級生か死ねばある程度は大事になるものらしい。
クラス毎に列を成して体育館に向かう途中、明里はしきりに辺りを見渡している。きっと彼を探しているのだろう。
「太一君!」
泣き腫らし、とっくにボロボロになったメイクの奥の瞳にその姿を映した瞬間、明里は列を飛び出した。
「明里…」
自分にしがみついて肩を震わす明里を太一はそっと抱きしめる…。
「……」
普段そんな場面に出会せば囃し立てる彼等も今日ばかりはただ2人を見詰めるだけだ。
「…明里」
再度名前を呼ぶ太一。
今日何度も泣いたのに明里はしゃくり上げている。
私と明里、明里と太一、それぞれの関係性を知っている先生達もかける言葉が無いのだろう。2人をそのままに他の生徒達をクラス毎に座らせる。
太一も明里の肩を抱きながら最後尾に行き、明里を気にしながら座った。
「朝に各担任から報告があったと思うが」
全員が座った事を確認した学年主任が前に立つ。

前を歩く2人に早足で近付いた翔介が太一の肩を掴んだ。
「あ……山本…」
翔介を確認した太一が脚を止める。
「礼奈の…家、行くか?」
2人の顔を交互に見た後翔介は躊躇いがちに太一に聞いた。
「……たぶん、行くと思う。明里は…?」
3人を避けながら同級生達は各々の教室に向かっている。コソコソと何かを喋っている者は居たが笑ったり、大きな声を出す様な人は見渡す限りいない。
「…行きたい、けど……今朝の事でしょ?流石に迷惑かなって…」
瞼を伏せ足元に視線を落としたまま明里は呟く。
「それはそうだけど…」
明里の視線の先を探す様に太一も瞼を伏せる。
「別れたとは言えさ、安藤が1番付き合いも長いんだし…礼奈の親と連絡取れたりしない?」
焦れた声で翔介は一歩前に出て太一に詰め寄った。
「でも……お姉さんの連絡先は知ってるから、一応聞いてみる…」
一瞬躊躇いを滲ませた後、太一は頷いた。
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