第10話

文字数 949文字

暫くの間明里は腫れ物扱いだった。当然といえば当然だが。
そもそも明里には私以外に日常的に喋る友達がいない。その上で急に親友を失ったとなれば、高々16歳の子どもにとってどう扱えばいいのかなんてわからなくて当然だった。
それでも人の死なんてものは生きている者にとっては時間の問題なんだろう、49日が終わる頃には明里に声をかける生徒も出てきていた。
「三浦さん、お弁当一緒に食べようよ。」
「あ…でも…」
1人でお弁当を広げ始めた明里を誘ったのはクラスでも明るく優しい、人気のある女子の柴田ひなのだ。
確かに彼女なら1人でいる明里を心配もするだろう。
柴田さんの誘いを明里が躊躇ったのは恐らく彼女の隣に立つもう1人の女子、伊藤絵梨花が気になったからだ。明里は一対一の関係じゃないのが苦手だから。
「1人で食べるのつまんないでしょ?」
明里が断る隙もなく2人は近くの空いてる席に座る。
「ほら、三浦さんってさ…ね。」
一瞬、伊藤さんの視線が私の使っていた机に向けられた。その視線の先が机なのか、上に置かれた花瓶なのか明里には判別できなかった。
すぐに伊藤さんは明里に視線を戻した。
「いつも2人だったもんね。時々山本君達もいたけど。」
「2人の世界って感じで。」
やっぱり私と明里の印象ってそうだったんだ…。
「私も礼奈も、ちょっと人見知りだったから。」
お弁当の包みを指先で弄りながら明里は言った。

花瓶は49日を境に撤去され、もう誰も着くことの無い机と椅子だけが残された。学年末考査も終わった。
もう私の死をわざわざ思い出して悲しむ生徒も居なくなった。
「このクラスもあとちょっとだねー。」
今日も4限が終了すると柴田さんと伊藤さんは明里の席に集まる。
「仲の良いクラスだし、このままが良いなー。」
スマホゲームをしながら伊藤さんはぼやく。
「そんなこと言ったって仕方ないでしょ。それよりえりちゃん、次体育なんだからそろそろ更衣室行かなきゃ間に合わなくなるよ。」
そう言って席を立った柴田さんと続く明里に伊藤さんは慌ててスマホをポケットに押し込んだ。

そんな3人を翔介は鋭く見詰める。
「山本?」
「ん?」
呼び戻されて目の前の友人に向き直る。
「話聞いてたのかよ?」
「ごめんごめん、何?」
いつもの笑顔に戻った翔介。目の前の友人は翔介の変化に気付いた様子はない。
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