第1話

文字数 726文字

松本礼奈が死んだ。

それは3学期が始まって間もない寒い朝のことだった。
いつもならホームルームの始まる5分前までには登校する私が教室には居らず、沈痛な面持ちで教室に入ってきた担任が挨拶もそこそこに私の死をクラスメイトに告げた。
一昨日は例年より15日近くも遅れた初雪が東京に降った。昼過ぎから降り始めた雨はやがてみぞれとなり、夜には本格的な雪になった。翌朝には最大で10cm程降り積もり、人の往来の多い所は踏みしめられ硬い氷になっていた。
昨日の夜10時半過ぎ、バイト先のファミレスから一歩外に出ると肌を刺すような寒さに身震いしながら私は家路を急いだ。
いつもなら大通りを少し余計に歩いて横断歩道を使うところだが、昨日は寒さも辛く、300m程手前の歩道橋を使っていた。
昼間のうちに一度は溶けかけた氷が夕暮れと共に再度凍ったのは歩道橋も変わらず、所々が凍って歩きにくかった。
その時の私にはまだ意識があった。歩道橋の下、階段の直ぐ側で悲鳴が上がったのは私が転落したのとほぼ同時だったと思う。
大通りだったこともあり人通りはあったし、緊急通報は直ぐにされていた。
自由に動かない身体で視線だけを動かして刻々と増えていく人だかりを見詰めながら、救急車の到着を待たずに私は意識を手放した。

「今日の明け方、事故だったそうだ…。葬儀については決まり次第家族から連絡がある。」
先生は簡潔に伝えるとそのままいつも通り、出席を取り始めた。
クラスメイトの訃報があれば黙祷とかするものだとばっかり思っていたが、現実は案外あっさりしたもののよう…。
「三浦明里」
「はい…あの……礼奈は…」
名前を呼ばれた明里は何か言いた気にしていたが、先生は悲しそうな視線を一瞬しただけで次の生徒の名前を呼んだ。
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