第2話

文字数 1,424文字

4月の体育館はまだ肌寒い。やっと入学式が終わった時には底冷えした身体は節々が強張っている様に感じる。
「礼奈!」
たくさんの新入生に混じって自分のクラスへと向かっていると、聞き慣れた声が私を呼ぶ。
「体育館寒かったね。」
「クラス、馴染めそう?」
別に質問した訳ではないが太一は寒がる私を気に掛けるでも無く質問をしてきた。
「そんなんまだわかんないよ。太一は?」
「俺もわからん。」
自分から聞いてきたくせに…。
一瞬非難がましい思いが過ぎる。とはいえいつものこと。わざわざ言葉にすることもなく次の太一の言葉を待つ。
「結構クラス離れたなー。ほぼ端と端じゃん。」
同じ高校には行けたけど2組と6組で私と太一はクラスが全く別になった。
一応1年生は同じフロアにはなるが太一の言う通りフロアのほぼ端と端に教室は位置している。2クラスしか無かった中学と違って同じフロアでも頻繁に会えるのか少し疑問だ。
「まあ仕方ないね。部活はバレー続けるんでしょ?私、マネージャーになれるかな。」
「でも俺バイトもしたいんだよね。」
「あーね。そうだね。あ、じゃあまた後でね。」
体育館から教室までの移動じゃ殆ど話すことも出来ずに太一と別れた。
席に着いても落ち着く事はない。
見慣れぬ教室、見慣れぬ顔触れ。全てにそわそわしていた。
私やっていけるかな…。
皆同じだと思っているのに不安は次から次へと押し寄せてくる。
この後はなんだったっけ?クラス写真を撮って、それから…。
確か入学式前に先生が自己紹介の後、式後の説明をしていたはずなのに記憶があやふやだ。それだけ気を張っているのだろう。
期待と不安の入り混じった空気感が溢れる教室で私は何をしていればいいんだろう。何をするでもなくバッグからスマホを出したのとほぼ同時に後ろから声を掛けられた。
「ねえ、えっと…松本…さん?」
「え?あ、はい。」
振り返るとすぐ後ろの席、体育館では隣に座っていたクラスメイトが声の主だった。
「この後クラス写真撮って終わりだっけ?」
少し不安気な表情の彼女にたぶん、としか答えられなかった。ありがとうと彼女は答えるとそれ以上会話が広がる事も無く私はまた前を向く。
緊張しているんだな…。
さっきまで隣に座っていたし、入学式で名前も呼ばれていたのに私は彼女の名前を覚えていない。
わざわざ聞くのも憚られた。

担任、園田幸希が教室に来たのは15分程経ってからだった。
数学教諭とのことでずば抜けて数学が苦手な私にとって担任が数学教諭なのはありがたい。
「じゃあまずは合格発表の時に配られた書類を提出してもらおうか。個人情報もあるから出席番号順に持って来てもらうのがいいかな。えーっと?相原、誠から。」
まだ先生も生徒たちを呼び慣れていない。少しぎこちなく出席番号1番の生徒、相原誠の名前を呼ぶと先生は彼に向かって手を出し書類を催促した。
生徒達は順番に前に行き書類を出すが先生は中身を特に確認するでもなく、書類が集まると忙しなく私たちに校庭へ出るように促す。
ああ、そうか。クラス写真って1組から撮るからのんびり自己紹介してる場合じゃないのか。
ぞろぞろと校庭に出ると葉っぱが目立ちつつある桜の木の下に撮影用雛壇が準備されていて、前列にはパイプ椅子が並びその真ん中に校長が座っている。
出席番号30番の私は最後列に登った。
隣には先程の彼女が立つ。
私も決して大きい方ではない。152cmしか身長は無いが彼女は更に小さく、スカートから伸びる華奢な脚に桜の影が映っていた。
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