第9話

文字数 736文字

私のお通夜が行われたのは事故から6日も経ってからだった。
1月は火葬場が混み合っているとのことで、そことの予定を合わせると最短がその日になったのだ。
クラスの半数近くが私の葬儀に来てくれたし、小学校、中学時代の友人達も多くが斎場に押し寄せた。
あちこちから啜り泣く声が聞こえてくる。
「明里ちゃん、翔介君…太一君も……礼奈の為にありがとう…」
たった数日で憔悴し随分老けた印象になったお母さんが3人に深く頭を下げた。
「お母さん……うっ…」
明里の涙が枯れることはないんだろうか?

帰り道、先に帰った翔介を見送った後、2人は駅前のカフェに入った。向かい合って座り、さして飲みたいとも思わないカフェラテを睨みつける。
「……本当に、事故なのかな?」
太一を見ずに明里が口を開いた。
「え?」
思いもしなかった言葉だったのだろう。明里の発言に太一は理解が追い付かず、自分でも驚く程間の抜けた声が出た。
ぐっと顔を上げてしっかりと太一を見詰めると明里は意志の強い声で続ける。
「事故だとは思ってる。だって事故以外考えられないもん。」
予想外の明里に圧倒された太一は低く喉を鳴らした。
「事故だと思ってる、けどさ……太一君が…」
私と太一が別れた事を、太一が明里を選んだ事を言っているんだ…。
またカフェラテに視線を落とし明里が黙り込む。
「いや、それは無いって。確かに俺等にはいろいろあったけど…そもそも別れを切り出したのだって礼奈だし、俺等が付き合うことになった時も礼奈は笑ってた。」
言い聞かす様に太一は言う。明里にじゃない。自分に言い聞かせてるみたいに。
テーブルの上に置かれた明里の手を自分の手で包み込む。
「事実礼奈は今は山本と付き合ってた…。」
「そう……だよね…。」
それ以上2人が私について話すことはなかった。
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