前置

文字数 819文字

 時は1990年の7月3日。私がまだ挫折を知らず、これから訪れる未来に希望しか持たなかった中学生時代だ。この日、一つのロックバンドが鮮烈なメジャーデビューを果たした。
 寡黙なギタリストを筆頭に、硬派なイメージを醸し出すグループであった彼らなのだが、記念すべきメジャー初の楽曲タイトルが、悪い意味で世間の人々の関心を引いた。

『マングローブは原生林』。

 以降は省略してマングローブと表記するが、いやはや、どうかしているタイトルだ。熱帯、および亜熱帯地域に生育する植物を、どうして日本の音楽業界で取り上げようとしたのか。
 更に歌詞もタイトルに準ずる奇天烈さに仕上げられていた為、作詞家の精神状態が一時案じられたり、グループメンバーは熱心な環境活動家なのではないかという憶測が飛んだ。

 誰も得をしないと思われた冒険商法であったが、硬派なロックバンドがユーモアな楽曲を披露するというスタイルが若い世代を中心に受け入れられて、なんと、マングローブは国内180万枚を超えるビッグセールスを記録した。
 思い返せば当時はバブル終末期。好景気に浮かれて日本全体がどうかしていた時代であった。マングローブがヒットしたのは、そういった経済背景の後押しのおかげだと私は思っている。

 現にバブルが弾けた翌年に発表されたセカンドシングルは、大した話題にならずセールスも振るわなかった。
 冷静になった人々から正しい評価を突き付けられた結果だろう。二匹目のドジョウは釣れなかった訳だ。

 何故私がこのようなことを書き連ねているのか。
 それは私が一年前に巻き込まれた大事件に、かの楽曲が関係しているからに他ならない。

 当時のことを思い出し、尚且つ臨場感を持たせる為に、できるだけリアルタイム風に手記をしたためてみた。
 多くの人々にとっては心底どうでもいい話だろうが、しばしお付き合い願いたい。そして共に想いを馳せて頂きたいのだ。

 哀しく、狂おしい、歌詞に秘められた真実まで。
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