文字数 1,204文字

 昭和四十六年、僕は中学生になり、少し異性に興味を持ち始めた。
 僕が住む田舎は、とんでもない田舎で、人の数より牛の数の方が多いくらいで、僕の家のすぐ隣といえば、五十メートルくらい離れている。
 そのほとんどの家が農業をしている。
 集落の戸数は、六十戸足らずで、集落の中にたった一軒駄菓子屋があったが、それが僕のイトコの家。
 イトコの名前は山田正子で、僕は山田一郎。
 田舎に多そうな名前だ。
 この集落の八割方が山田姓であり、つまりほとんどが親類ということだ。 
 この因習深く封建的な集落で僕と正子は育った。
 正子は僕より三歳年上で、かなり派手で目立つタイプ。
 正子は現在、ここから百五十キロ余り離れた私立女子校の一年生。
 無論ここから、通えるわけがないから寮に入っている。
 正子の父親、つまり僕の父親の弟は、中学校の先生である。
 この集落から先生になった初めての人らしい。
 そのことを僕の父親が、よく自慢している。
 駄菓子屋は、オバがやっていた。
 本当に小さな駄菓子屋で、目新しいものは何もない。
 正子も小学生時代までは、ピアノや習字も習っていたし、比較的大人しく、あまり目立つこともなかった。
 正子の家に遊びに行ったときなど、正子が応接間に置いてあるピアノで、ショパンの「別れの曲」や「ノクターン第二番」等を弾いていた。
 僕はその横で、正子のピアノを聴きながら、漫画を読んでいたものだ。
「別れの曲」を、いつも聴いていたため、ショパンのモノ哀しい旋律がいつのまにか好きになり、メロディーを自然と口ずさむようになっていた。
 正子は中学生になると、突然、活発になり、バレー部のエースアタッカーとして活躍した。
 長かった髪もバッサリ切って、おかっぱにした。
 生徒会長もしていた。
 成績は常に学年のトップクラス。
 そんなことから、自然と目立つようになったのだ。
 僕は、中学に入学して野球をしていたが、さほどうまくもないし、成績も中くらい。
 イトコでも、このように出来が違うのは、僕の考えでは、多分僕の父と正子の父の違いがそのまま出たに違いないと、踏んでいる。
 だって、オジはこの集落の初めてのことを、ほとんど彼がやっている。
 例えば、この集落から、始めて有名国立大学を卒業したこと。
 何の種目かはよく知らないが、陸上大会で始めて県体優勝したこと。
 この集落に、始めて県外からお嫁さんをもらったこと等、数え上げたらきりがない。
 そしてまた、ダンディーでもある。
 僕の父親は山田家の長男だから、家業である農業を継いだ。
 根っからの百姓が身にしみついているような人だから、全くオジとはタイプが違う。
 僕が中学校に入学した時、すでに正子は県庁所在地にある女子校に行っていたため、僕は直接彼女の活躍を目にしたわけではないが、何かと学校では伝説的に語られている。
 たしかに、正子は田舎にいた頃から、どこか他の女の子達とは違っていた。

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