第5-3話 酷暑あきたネバトロうどんの謎を追え!【解決編】

文字数 2,206文字

 臆病になってしまう私は、今、この瞬間に終わりにしたい。
 私は、今の思いを口にした。
 ホームズさんは、私の願いを聞いてくれると言ったばかりだ。絶対に、無下にしないのだ。

「私、教えてほしいことがあんだ」
「ん、ソナタ君、何だい?」
「でっけぇ悩みを無ぐす方法だ」
「あぁ、悩むのは良くない。同じ場所を行ったり来たり。ただ少しずつ、悩みの立つ位置をずらして、考える方向に向かえばいいんじゃないかい?」
「悩みと、考えるのは、違うんだが?」
「あぁ、そうだね。前提として、両方とも善悪ではない。渦巻きの中心へ行くのが悩みで、考えるのは迷路のゴールに向かうような感じだ」

 悩みは、どんどん内向きに進んでいる。
 考えることは、どんどん外向きに進んでいる。
 未来へ向かって歩いているのは、考える人なのだろう。
 あぁ、彫刻の『考える人』は何かを考えているのでなく、地獄に落ちる人たちを見つめる人だった。
 元々はロダンの『地獄の門』という作品の一部だと聞いたことがある。
 ただ考えても、ただ見つめても。どちらにせよ、大事なのは次の行動だ。
 ゴールへ向かって歩き出すには、その場所を2本足で動くことが求められる。
 人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ。
 月面着陸した宇宙飛行士アームストロングみたいな出来事に、今日の私を当てはめる。
 戸を開けて、部屋に入って、2人で話して。
 私は今日、偉大な一歩を踏んだ。人類にとって、有益かは知らない。
 探偵エルフさんの碧い目をずっと見つめていた。
 私も彼女の目の美しさに惹かれた。

「ゲッフン! ソナタ君は、今日のソナタ君は、積極的すぎて心臓がドキドキするぞ!」
「今さら、んたこと言うのがー。おめがいつも私さやってらことだぞ?」

 探偵エルフさんのわざとらしい咳払い。
 怯まずに私はまっすぐな事実を告げた。
 すると、珍しく彼女の方から、恥ずかしそうに目を逸らした。
 足裏を合わせて、そのつま先を両手で持つ。達磨のように背中を丸め、左右に身体を揺らす。
 ツインテールには結っていないので、長い金髪が揺れている。

「当事者になって、初めて分かる気持ちもあるものだ。うんうん、それは良い経験だ。だが、それにしても落ち着かないものだ」
「愛を受ける身さなって分がったべ」
「あぁ、なるほど。ん? んん? んんん? 愛……を君から私が受けているのか、今」
「う、うん。好きで間違ってね。ばって、距離感がまだよく分がってねんだ、私はさ」
「あぁ、そうか。近すぎたり、遠すぎたり、か」
「んだす」

 ホームズさんの身体の揺れがようやく止まった。
 これが驚きの展開でもあったようだ。揺れないための自信になったのかもしれない。
 察するに、そろそろ答えが出そうなのだ。
 ホームズさんへの距離感をどうすればいいか、私の心配であった。
 最初からグイグイと彼女がこちらに接近して、ソナタ君と名前呼びだった。そのノリの良さに、私は正直に困ってしまった。
 傍から見れば些細な悩みだ。
 牧草地で飼われていたような私は、のんびり過ぎた。
 接近してくる牧場犬に、どう反応すればいいか分からなかったようだ。
 ただ自然の流れで、一緒に走ればいいのに。
 一緒に走っていいですか? と、いちいち牧場犬に確認する牛がいるのだろうか。
 ホームズさんは、私が話した気持ちを、前向きに受け止めてくれた。

「何だい。私は嫌われていたわけではないのか!」
「んだ!」 
「私はソナタ君なら近づいてきても拒否しない!」
「んだが!」
「私は本来なら弘前(ひろさき)の姉の下へ、すぐ行く予定だった!」
「んだの!」
「でも、私は冬の間、大雪で秋田県内に留まってしまった!」
「んだすか!」
「財布を落としたり、ね。色々あって、阿仁(あに)を出て大館へ来たのが、君との出会ったときだ!」
「んだったのが!」
「旅行は計画通りに上手く行かない。だけど結果として、ソナタ君に出会った。今がとても楽しい!」
「ん……だの……が」

 全部、「んだすか」で相づちを打つ作戦だった。
 だけど、ホームズさんの心からの言葉を受け止めきれなくなってきた。
 こんなに強い言葉を上手く掴めない。正直、この期に及んで、恥ずかしさを覚える自分が悔しい。
 私は少し俯きかけた。
 ホームズさんは首を左右に振って、それから、はにかんで笑った。私の気持ちを察してくれた。それは素直に嬉しい。

「ソナタ君は、私の真似をしなくてもいい。私が君に対して、勝手に誠実な人であろうとしているだけだ。君の価値観で、君の速さで動いてほしい」
「……待ってけるんだが?」
「あぁ、待つとも。姉だって、しばらく弘前(ひろさき)の病院から動くことは出来ないさ。それに私はエルフらしくない、不真面目なエルフなんだよ。ただ自分の心に忠実ではある。君のためになら待てるよ」
「おめらしいな!」
「分かってくれて助かるよ、ソナタ君。これからの夏遊びを楽しもう!」
「んだ、もう夏休みだすべ!」

 夏至をひと月だけ過ぎたくらいで、夕陽の時間はまだ少し長めだ。
 梅雨の蛙の鳴き声は、いつの間にか夏虫の音に変わっていた。
 湿度が高いのは、今も変わらない。
 気温の昼夜差も大きく、夜は少し肌寒い。

『じゅんさい』うどんが入っていた器、その内側に並ぶ箸。
 私たちは、出会ってから過ごした時間が、まだ短くて、まだ戸惑っていた。
 大声で叫んで、ようやく気持ちが伝わるくらいだ。
 秋田の夏は、まだ始まったばかりだ。
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登場人物紹介

名前:

レナ=ホームズ 


プロフィール:

イギリス 出身→秋田県大館市 柳家の居候。

探偵エルフ (女子高生・ヒロイン)

女性 エルフ

おとめ座 (9月8日生)

64歳 (人間換算:16歳)

金髪ツインテール・ロング/碧眼

身長低め。

エルフ特有の尖った長耳


台詞サンプル:

「ソナタ君、私は事件は推理するだけでなく、解決して終わりだと思うんだ」


長所:

知的好奇心のかたまり。体力のわりに、行動的な性格。


短所:

エルフ種なので、少し無理をすると病気になりがち。

そして、レナ個人のせっかちさ・神経質さがある。

考えても行動しても、何をしてもわからないことに突き当たると思考停止する。

レナの書く、英語の筆記体が全く読めない字。


好き:

小さい謎解き

ご飯(ライス)

お菓子

ゲーム

アニメ鑑賞


嫌い:

嘘をつくこと


備考:

タバコは吸えません。チュパチャップスを加えています。

名前:

柳 備朶 (ヤナギ ソナタ)


プロフィール:

秋田県 北部 出身→秋田県大館市 在住。

女子高生・主人公 (大館竜鳴高校1年生)

女性

おうし座 (4月23日生)

15~16歳

秋田弁 (県北訛り)

黒髪ショートカット・ボブ (前髪パッツン系)、

他人を惹きつける黒瞳、

標準身長、筋肉付きやすい体質。


台詞サンプル:

「しこたまんめぇッッ!! 食欲が止まらないのだがッッ!!」

「んだんだ」

「レナがそう言《ゆ》うのなら……分がったって」


長所:

料理が得意。食べるのも得意。

多感で、表情がコロコロ変わる。

おっとり。やるときはやる子。主人公属性もち。


短所:

ものすごい頑固者。

待ってくれないと怒ってしまう。

早めに、喧嘩の和解ができない。


好き:

食べ物 


嫌い:

あらゆるペースを乱すもの(自分を大切にしてくれない人)

名前:

柳光春 (ヤナギミツハル)


プロフィール:

秋田県能代市出身→北秋田市合川→大館市在住。

やぎ座 成人男性。

ソナタの父。木工職人


性格:

ちょい悪おじさんっぽい

ただの親父ギャグ好きのお父さん。

※かつては仕事一筋だった。


備考:

妻の歩亜(フア)は亡くなっている。

現在、娘の備朶(ソナタ)と2人で秋田県大館市に暮らす。

名前:

孫市望央 (マゴイチミヒロ)


プロフィール:

宮城県仙台市 出身→秋田県大館市雪沢 在住。

みずがめ座女性。

女子高生 (大館竜鳴高校1年生)

ソナタの旧友(転校してきた、小学5年から付き合い。)


特徴:

小柄

赤髪ショートカットアシンメトリー

ハイトーンボイス。ギターを弾ける。


性格:

喧嘩っぱやい。自分ルール。


備考:

小学5年時の夏、両親と兄が交通事故死。

祖父と同居。

名前:

羽黒詩彩 (ハグロシア)


プロフィール:

山形県 出身→秋田県大館市比内町 在住。

かに座女性。

女子高生 (大館竜鳴高校1年生)

ソナタの級友 (クラスメイト)


特徴:

黒髪サイドテール。スポーツ系高身長


性格:

奥手。
自分を『シアちゃん』と呼称する天然ぶり。

周囲からすると、何考えているか分からず、行動が遅く見える。


備考:

シアの父は、大館市地域おこし協力隊として、比内町に在住。

母親とシアも比内町に同居。

両親は娘のシアに激しく甘い。

名前:

曹司童夢(ソウジドウム、ドーム)


プロフィール:

秋田県能代市出身→青森県弘前市在住。

てんびん座女性。

青森県弘前市の大学に通う、女子大生


特徴・性格:

赤茶系のシニヨンの髪型

特技は、料理。


備考:ソナタとの関係性

ソナタの父(柳光春)の姪。ソナタの従姉

曹司本家は能代にあり、木工細工職人が多い家系。

※ソナタの父は、婿養子で姓が変わっている。

名前:

シドニー=ホームズ


プロフィール:

イギリス出身。 

さそり座 エルフ女性

エルフ年齢 72歳 (人間換算:18歳)

レナの実姉

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