第35話 〝ギフテッド〟の二人

文字数 1,273文字


 束の間、銃撃の止んだ部屋の中央で、マルレーンはオレリーを向いた。
 目が合うと、小さく小首を傾げるマルレーンにオレリーは頷いた。それにマルレーンも頷いて返す。
 と、ふたり共に窓外の人――新手だ…――の気配を感じ取る。
 オレリーは南、マルレーンは西の窓へと視線を遣った。
 それぞれが視線の中に銃口を見たとき、銃声がした。

 まず2つの銃声がほぼ重なるように鳴った。
 そのときはもうマルレーンとオレリーは、ほんのわずか、身を引くように動いている。銃弾を()()()()のだ。
 そうして次なる銃声が2つ重なる。
 マルレーンの手の〝レーリチ〟、オレリーの手の(ウィーズリー)(ターナー)リボルバー、それぞれの銃口から白煙が立ち昇ったときには、南と西の窓の〝新たな〟気配はもう消えていた。

 マルレーンは窓から死角にあたる所まで移動すると、〝レーリチ〟のシリンダー(弾倉)を手早く振り出し、撃ち終えた薬莢を(……撃ち残した1発も一緒に)床に落とし始めた。オレリーとエミールは、装填中のマルレーンが狙われることのないよう、周囲に目を配る。

「……やっぱり〝()えて〟る」
 装填を終えて――…オレリーに勝るとも劣らない早さと正確さだった――シリンダーを戻したマルレーンは、半ば確信をもってオレリーを見た。

「その〝()えて〟る、っていうのは……」
 オレリーは周囲への警戒を緩めることなくマルレーンに訊いた。「――〝()()()()ことがわかる〟、ということかしら?」
 彼女のいう〝()える〟という表現を、自分の〝表象(イメージ)〟に置き換えてみて、それを確かめたのだ。
 マルレーンは、あー、と肯いた。


 エミールは、二人の会話に戦慄している。
 これまで、どんな銃撃の只中にあって周囲を弾丸が飛び交おうとも、オレリーが被弾するのを、彼は見たことがなかった。身体を投げ出して回避するようなことは(おろ)かほとんど身体を動かすことなく弾丸を避けてしまう、といった場面を、多々見てきたのだ。
 ともすればそれは〝弾丸の方が逸れていった〟のではと思わせられるような事象だった。

 彼女によれば、弾丸がどこをどう飛んでいくのか、それが判るのだという。
 弾丸が見えるというのではなく…――勿論、そんなことを常人が出来ようはずもないが――、相手の身体や銃口の向きを目にすれば、いつ弾丸が放たれ、どこをどう飛んでいくのかイメージできる……そういうことらしい。だからほんの少し身体を動かして、弾丸の当たらない位置にズレているの、と。
 それが本当なら、つまり、超絶した洞察力と人間離れした知覚によって相手の射線と射撃タイミングを見抜き、弾丸が発射される前には回避してしまっている、ということになる。


 そんなことが可能だろうか……。
 エミールも俄かには信じられなかったが、共に旅をしてそうした場面に度々出くわすと、受け容れざるを得なくなる。

 が――。

 そんな〝ギフテッド〟が(それが〝神から贈られたもの〟か〝悪魔より与えられたもの〟かはさておき…――)まさかこの世に二人も居ようとは……。

 あらためてエミールは、目の前の女ガンスリンガー(拳銃使い)二人を、驚愕の目で見遣っている。
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