第31話 〝コール or レイズ〟

文字数 1,271文字


「――…〝法務官補が大隊付き法務官に宛て報告書を出すつもりになった〟と吹き込んだ」
「え⁉」
「〝町長の証言が得られることになった〟とも」

 隣のC.(カルメーラ)C.(キアラ)の頭がバネ仕掛けの人形のように跳ね上がった。バーニーは()()()()〝悪い表情(かお)〟になって町長の顔色を窺う。
 それは彼の持つ()()()()の顔……〝ギャンブラー〟のそれだ。

「ぇえぇ……ちょっ、何それ、信じらんない! やめなさいよ、そういうのっ…――」
「それはいったいどういうこ…――」
 すっかり狼狽し声の裏返ってしまったC.C.と、今度こそ動顛した声音となった町長が、バーニーに糾弾の視線を向ける。
 が、勿論、バーニーは意に介すふうもなく、むしろ得意満面といった面持ちで町長に頷いてみせる。――〝コール or レイズ〟とその目が暗に語っていた。

 開いた口が塞がらず不安と怒りの向け先を捜すC.C.の様子は、いっそ漫画的だった。そこにはレンジャー法務官補の威厳など微塵もない。オレリーとマルレーンは…――オレリーは割と真剣に、マルレーンは込み上げる笑いを押し殺して――同情の視線を向けた。


 そのときドクター・アチェカルロは、窓外の通りに生じつつある変化を、その目に捉えていた――。
 胸にバッジを付けた〝ならず者〟が、何処(どこ)からかトリウマ車を()きだしてきて、往来のただ中で横倒しにした。その意図はわかる。トリウマ車を即席のバリケードにして通りを封鎖し、邸を包囲しようとしているのだろう。彼らの手にするヴィンチェスト銃の銃身がこちらを向く。
 人数は、11人までは数えたが、通りの先にトリウマに乗ったレンジャーの青い制服の隊列を見て、それ以上数えるのを止めた。
 ドクはそっと窓際から離れ、室内の皆に告げた。
「お客さんだ……団体さまのお着きらしい」
 それにエミールとバリーが反応し、手近の窓から外を見遣ると、エミールの方はすぐに窓際を離れた。
「すごい数だ…――40人はいる」
 オレリーとマルレーンも外の様子を確認すると、それぞれ銃を抜いた。シリンダー(弾倉)を回し、装弾数を確認し始める。


 室内の緊張が高まってゆく中、耐えられなくなった町長が小走りに窓際へと寄った。
 ダブルハング(2枚可動の上げ下げ式)の窓を押し上げ、身を乗り出して何ごとかを叫ぼうとしたそのとき、複数の銃声と、ガラスの割れる音、弾丸が外壁を叩く音、階下に居たメイドの悲鳴……、それらの音が一斉に鳴って、町長の声をかき消すこととなった。
 ドクが襟首を掴んで引き倒さなければ、町長の墓碑には、今日の日付が彫り込まれることになったろう。

 やがて銃声が止んで、ドクは窓際に移動すると割れた窓から外の様子を窺うと、室内のレンジャー隊員の何れかにともなく、お道化(どけ)た調子で訊いた。
「――…いまのはいきなり撃ってきた! これで正当防衛は成立、だろ?」
「ええ……!」
 C.C.は強張った表情(かお)で頷き、腰のホルスターに手を伸ばしながら応じた。
 そして心の中だけでつぶやく。
(こうなると、いっそ()()()()だわ……)
 彼女の隣では、いまにも口笛を吹きだしそうな相棒(バーニー)が、手にしたSASSのシリンダーを回している。
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