第6話 表と裏
文字数 1,144文字
オレリーとエミールの二人組が『ルズベリー』に着いた日の翌日――
当面の宿として入った
「それじゃ町が平穏に見えるのは、あくまで
「そ。牛を奪われた
エミールの仕入れてきた情報によれば、現在、ルズベリーの町は、野生化した牛を駆り集めて
(――何が〝渡り〟向けの仕事なんてなんにもない、よ。しっかり不穏じゃない……)
発端は
ふつうに考えれば、
「町の人たちは、どう考えているのかしら?」
オレリーはこの事実に対する住人の反応を確認した。エミールは首を左右に振った。
「差し当たり、まだ大きな迷惑事になってないからね。でも、スチームコーチの運行が止まれば、そのときには大きな問題になるんじゃないかな」
そう、と呟いたオレリーの
「……で?」
「〝で〟って?」
「どうするんだい?」
オレリーは、エミールの目線を受け止めると、〝気を取りなおしたふう〟を装った笑顔になって、小首を傾げてみせた。
「どうもしないわ。正式に何かの依頼を請けたわけでもないのだし」
「…………」 エミールの表情は、少しばかり不服そうだったかも知れない。
オレリーはティーテーブルに肘をつき、顔の前で両の手の十本の指を合わせると、目線をテーブルの上に落として言った。
「双方の言い分を訊かずに判断をすることは、したくないわ」 少し言いわけじみて聞こえたかも知れない声で。
「懸命だと思う」
結局、エミールは頷いて返した。
「――…俺は〝ミス・ラングラン〟の考えに従うよ」 言って笑顔に戻し、椅子を引いて立ち上がる。「昼にしよう。……お腹がペコペコだよ」
約束のない客の来訪を告げるノックの音を聴いたのは、そのときだった――。