第28話 何か考えが…?

文字数 1,272文字


「そこまでわかってるんなら、なぜレンジャーが動かないんです?」
 レンジャー法務官補の言葉を一通り聞き終えても誰も何も言わなかったので、マルレーンが小さく手を上げて訊いた。
 それは()()()ならオレリーが質しそうなことだったが、いまの彼女は自分の軽率さに懲りたように神妙な面差しを法務官補に向けるだけだったからだ。

 その疑問にC.C.は、彼女なりに丁寧に応じた。
「レンジャーには捜査権はないの。係争における証拠は、あくまで裁定に持ち込んだ側によって用意されるのが前提。だからこの場合、あなた方が証拠を見つけ出して提出しなければならない」
「はん」
 それまで黙って聞いていたバリーが、大きく肩を竦めてみせた。
「いまさら証拠も何もねえよ。できることといやぁ、賭博場に居合わせた奴等から証言を集めるくらいだが、レンジャーのあの派手な立ち回り(デモンストレーション)の後で、いったい何方(どなた)様が手を上げてくださるってんだよ……」
 すっかり()()()()たふうのバリーに、弟のフレッドが()()()()()()ふうに目を伏せた。座が一様に重苦しい雰囲気に包まれる。

 と、ここまでタイミングを見計らっていたバーニーが初めて口を開いた。
「これは俺の経験ですがね…――こういうケースでは、町長に告発()()()必要があるんじゃないですか?」
 その言い様は、役職上位者のC.C.に質すようなものだったが、本当のところは座の全員に語りかけたものだ。 座の反応は〝何を今さら〟といったものだった。
「それはそうだけれど……」
 見かけ()、質された形のC.C.は、律儀に応じた。
「それができればね」
「なるほど……。では皆さん、町長の良心に訴えることはしない、と?」
 ため息と共に苦笑さえ浮かべたC.C.に、バーニーがため息を返した。
「試してみることもしない? 必要な段取りなのに? 他にやれることがあるわけでもないのに?」
 こんなに食い下がる彼は珍しい。C.C.は怪訝な表情を浮かべることとなった。
「何か考えがあるのね?」
「なくもない」
 少し慎重になって訊いたC.C.に、バーニーは思わせぶりに顎を引いた。
「町長が裏切る?」 まだ信じ切れていない表情のC.C.が重ねて訊く。
「少なくとも〝状況〟は動かせる……と思う」 バーニーも肯いて返す。
「いったいどういう……」
 業を煮やした感じのC.C.をバーニーは片手を上げて遮った。
 それから、C.C.とともに、このやり取りに耳を(そばだ)てているギャラリーに、
「…――まぁ、こういうことは種を明かさない方がうまく行くというもんでね。一日時間をくれ」
 思いっきり芝居がかった表情で()()()とやって言ったのだった。
「〝蛇の道は蛇〟と言うだろ? ここは俺に任せろ」

 そうして半ば強引に了解を得ると、バーニー法務官助手は、バッカルーと〝流れ〟とにウィンクをしてみせ、酒場(サルーン)のホールを出て行った。


 確かに町長を寝返らせるのは無理筋だろう。だが彼には彼の経験則が内なる声となってこう告げている。
 ――嵌められたのなら、嵌め返せばいい。
 そして、そういうことを敢えてあの場で口にしなかったのも〝経験〟なのであった。
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