第10話 慎重なオレリー

文字数 1,270文字


〝まだそういう話にはなっていない〟
 ドクこと〝ドクター〟・アルベルト・アチュカルロがそう請け合ってから幾らも経たぬうち、()()町の状況は変わってしまっている――。

 伝道所に(たむろ)すカウボーイらが、街道を封鎖したのだ。
 その日から南へ向かうスチームコーチ(蒸気四輪)は止まり、人々はルズベリーより南に行き来できなくなってしまった。

 まさかそんな暴挙には出るまいと思っていた町の住人は、最初は困惑し、次に町の有力者の調停による〝手打ち〟(示談)を期待した。
 それに町長は形ばかりの調停の使者を送ってみせはしたものの、話し合いの席すら設けられず、賭博場とカウボーイ双方の言い分のどちらに理が有るか明言できない有様だった。
 結局、町長は〝本事案を中西部タウンシップ同盟の巡回判事に付託する〟と宣言した。
 このような事態(こと)は、()()()保安官を置く町の責任者の判断としては異例のことである。
 巡回判事がルズベリーを訪れるのは、例年、季節の終わり頃だった。

 さて、話し合いでの解決が望めないことが知れると、その次には、実力行使に訴えてでも無法( )(この場合はカウボーイら)を排除して欲しいと、そう考える者も現れる。彼らはさっそくロータリに〝渡り〟を訪ねた。
 が、この依頼(はなし)を〝渡り〟はすぐに仕事として請けたりはしない。

 このような依頼を請け負うのが〝渡り〟だと言えたが、彼らは自らの課すルール(決まり事)によって〝金を積まれればどちら側でも〟という無法者(アウトロー)とは一線を画していた。ロータリ制度である。
 〝渡り〟は、依頼の諾否を自らの判断だけで行えない。
 先ずロータリのコミッションが依頼内容を精査し、法的・道義的に問題を引き起こすものでないことを確認する。そうしてはじめて正式な依頼となり〝渡り〟は請け負うかどうかを検討できるようになるのだが、このルールの在ることで、大陸のどこにおいても一定以上の信頼と尊敬とを得ているのだった。
 この〝ルール〟は厳格である。破れば必ず同業者(他の〝渡り〟)によって粛清されることになる。

 話を持ち込まれたコミッショナーのグレンは、一通りの話を聞くや、オレリーたち4人の〝渡り〟へと視線を遣った。
 このケース(事案)については、町長は早々に巡回判事への付託を決めてしまっている。
 カウボーイ側の言い分を斟酌するに足る十分な情報もない。

 さて…――
 グレンは目下のロータリ配下の二組に意見の表明を求めたのだった。

 マルレーンとドクは〝正式に依頼が立てば〟請けると返した。
 オレリーとエミールは「片方の言い分だけで判断はしたくない」との慎重な姿勢を崩さず、巡回判事の判断を待ちたいと伝えた。

 グレンは、ロータリが依頼を立てるのは〝満場一致〟のときだけと内心で決めていた。
 だから話はいったん保留となったのだが、オレリーの頑なさに落胆の色を隠さない依頼人たちの空気を察したマルレーンの、

「〝片方の言い分だけで判断できない〟のなら、とりあえず、あちらの言い分を聞きにいきましょう」

 とのセリフに、オレリーとマルレーンの女ふたりだけで、町外れの伝道所跡にカウボーイらを訪ねることとなったのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み